57 宰相夫人
・・
「これは。どうも。ようこそシュバルツァーの城に。」
パンテェールの言葉に、ゆっくり振り向いた女性は、
「お久しぶ・・・あなた・・・アルファではないわね。」
途中で言葉を切った。
「はい。私はパンテェール。」
「そうね。副団長だった?」
「そうです。」
「傭兵団ではアルファと名乗っていたと聞くわ。」
「なんでそれを?」
二人はテーブルを挟んで見つめ合った。
「お座りになりませんか?」
ラビーが愛想よく言った。
「女性を立たせておいてはいけませんよ。」
「・・・そうだな。どうぞ、おかけください。」
勧められるままに女性は椅子に座った。
「今日はどのような用件で?」
「いやですわ。そんな他人行儀な。」
・・・他人だろうと美虹は思った。
まさしくレッグもそう思ったに違いない。
「あんた、他人だよな。何の用でこんな所にのこのこ来たんだ?」
・・・・・
「あなたは宰相が亡くなってから、国元にお帰りになったと聞いていますが。」
「ええ。夫がいなくなりましたら、こちらにはもう、用はありませんもの。」
「あんた、子どもがいたはずだよな?あいつは今どこにいるんだ?」
「それを探しに来たんですの。」
・・連れて帰ってない?美虹は不思議に思った。
「なんで今頃?あれから15年経つぜ。」
レッグの言葉に応えず、女性は美虹に目を向けた。
「この方は?」
「今はそんな話はしていませんよ。で、何の為にここに来たのかだけ言っていただきましょう。」
パンテェールが言うと、
「白龍に乗っていた男。それが私の息子ではないかと思っていますのよ。」
と言うではないか。
・・・・・
『『ないない!!!』』
美虹の心にレオとライの言葉が響く。
「ほう?何の根拠で?」
パンテェールは興味を引かれたようだった。
「第1に私の息子は宰相の子。つまり王家の血を引いている。」
『ないない』
ライの声が響く。
『ありえない。宰相の子は誰も見たことがないんだ。でも、レオより5つ6つ年がいっていたと思う。』
「第2に、白龍を従えたなら、彼がこの国の王足る者。」
パンテェールはため息をついた。
「夢物語ですかな?」
「いいえ。本当のことですわ。」
にんまり笑う女性は、何だか獲物を狙っているような・・・気持ちの悪い目をしていた。
「じゃあその息子とやらはどこにいるんだ?」
「それを探しに来たんですのよ。」
「確かにあの男は、あれ以来姿を現してはいない。」
レッグが独り言のように言うと、後を引き取るように
「美虹さん、あなたはどう思いますか?」
ラビーが急に美虹に話を振ってきた。美虹はライとレオとの会話に夢中で、聞いていなかった・・・
「え?私?荒唐無稽な話としか・・・」
「あなたは誰?そんな失礼なことを言うと不敬罪ですわよ。」
不敬罪?なにそれ?美虹は言い返そうとしたが、その前にラビが言った。
「不敬?宰相がいなくなったとたんこの国を出てアルテミアに帰ったあなたがそれを言いますか?」
「あなたはだれ?たかが従者の分際で私に向かって無礼でしょう?」
「俺たちにはおまえにつかえたり、敬ったりする義理はねえからな」
レッグの言葉に
「・・まあ良いでしょう。私の息子を見つけるのを手伝ってくださいますわよね。」
と返した宰相婦人。彼女、なかなかの悪役ではないかなと美虹は思った。
「探すのを手伝うのはやぶさかではありませんが、この城にはあなたを泊める場所がありません。」
「あら。夫が使っていた仮眠室は?」
「俺が使っている。」
「王妃の間でもかまいませんわ。」
「奥様。この城には貴婦人を泊める事が出来るような場所がないのです。城の前のシュバルツァーという高級宿屋に宿泊されてはいかがでしょう?」
ラビがやんわりと提案し、パンテェールも
「それが良い。レッグ。バギーを呼んでこい。案内させる。」
と言った。レッグは舌打ちをして、
「俺が連れ・・」
問いいかけた言葉を遮るように、パンテェールが続けた。
「いや。バギーにさせる。」
レッグさんじゃろくなことにならなそうだからねえ・・と美虹は思ったが何も言わなかった。
レッグが出ていった後、美虹は
「なんで息子さんを置いていったんですか?」
と思いきって尋ねてみた。
すると宰相夫人は泣き出したではないか・・
「あ・・あの・・」
美虹がおろおろしていると、
「泣くくらいなら、捨てなければ良かったのに」
ラビーが言う。彼は普段あまり話をしない印象だったので、美虹は固唾を飲んで話の行方を追っていた。
「本人が果たしてあなたと会いたがるかは不明ですよ。」
パンテェールも続ける・・もしかしたら、宰相の子どもの行方をこの人達は知っているのかなと美虹は思った。
トントントントン・・ノックの音と一緒にレッグが入ってきた。
「だから、ノックしたら、こちらが応えるまで待て。」
パンテェールが言うが、レッグはどこ吹く風だ。
「呼びましたか?」
バギーと一緒にスルーも入ってきた。




