53 まずい
朝食中、またレッグが来た。
「飯が済んだらちょっと来い。」
「どこへですか?」
「執務室だ。」
そのままレッグが去って行こうとしたので、美虹は慌てた
「すみません。執務室ってどこにあるんですか?」
レッグは立ち止まって美虹を振り向いた。
「はあ?おまえ、知らないのか?」
美虹はちょっと気を悪くした。なにしろ、城の見取り図も、この組織の仕組みも何も教えてくれないくせに、勝手にあそこに行け、ここに来いとは何事だと思うのだ。
「わた・・僕は、何も教えて貰っていないし、見取り図も何も貰ってないのに、そんな場所に行けという方がおかしいですよ。」
回りの者がぎょっとした顔で美虹を見ているが、かまうことじゃない。
「おまえは馬鹿か?」
「は?普通です。」
レッグに盛大にため息をつかれてしまう。
「城の見取り図なんて配ったら、外に流れて何に使われるか分かったもんじゃねえ。自分で確かめろ。」
レッグは、さっさと行ってしまった・・・
周りの目が痛い・・・
『どうしよう?』
『俺もこれから訓練は抜けられねえ・・・ところどころに立ってる奴等に聞け。』
『でも、誰の執務室なの?』
『ま、普通に考えるとパンテェールだな。』
美虹の膝で袋が蠢く。美虹は、慌てて肉の切り身を次々と投入する。時々は自分の口にも入れるが食卓上の美虹の分の肉はほとんど袋に消えていく。
美虹はシチューのようなものと、パンの塊を食べるだけでお腹がいっぱいになる。朝から厚切りのステーキなど、喉を通らない。その点回りの男達は全て食べ、おかわりまでしているのだ。それはレオも例外ではなかった。
「俺はもう行く。」
レオが立ち上がり、空いた食器を持って移動を始めた。回りの男達もほとんどがいなくなっている。
『通信回路は開けておけよ。』
レオの声が響く。
『分かってる。』
『もし、袋のことを聞かれたら、契約獣だと言っておけ。まだ契約を結んだばかりで、人前には出せないと言っておけば、多分見せろとは言わないだろう。』
それから、袋に顔をつけてささやく・・
「にょろにょろ、あまり目立つな。もしかしたら前に見られているかも知れねえからな。」
「「「「「「「分かった」」」」」」」
珍しく7つの頭の言葉が一致した。
美虹は廊下をうろうろしている・・・未だに執務室とやらへたどり着けないのだ。
角角に立っているはずの兵も、今日はさっぱり見つけられない。もうやけくそになってきて、片っ端から扉を開けようと試みるも、いかんせん,扉は重すぎた。どうりで兵士が立っているわけだ。開けるための要員なんだろう。美虹は変なところで感心しながら、時々扉を開けようと試みつつ廊下を進んでいた。
(一階か二階かとかそれだけでも聞かせてくれれば良いのに。)
ぶつぶつ心の中で文句を言い、一階から二階へ上がる階段を探す。美虹は歩いているうちに、自分の与えられた研究室のありかすら分からなくなってきている事にさっき気が付いてしまったため、若干へこみ気味になっている。
『研究室って2階だったよね。どこから上がったっけ?』
『美虹ちゃん。大丈夫なの?』
リュウが心配してくれるのは分かるのだが・・・
『ねえ?覚えてる?』
『僕に聞くの?』
どうやら二人は似たもの同士のようだった。
『この部屋、何となく気にならない?』
華奢な飾りの付いた白い扉。こちらにお入りと呼んでいるように思える。
『開けてみよっと。』
美虹が扉に手をかけると、今までの扉と違ってすうっと開いた。
「開いた。」
美虹は目を丸くして部屋の中をのぞき込んだ。
シンとした部屋。白と淡い水色で統一されたその部屋には、
「木馬?」
木馬や、丸い小さな机とそれにあった小さな椅子。皆埃をかぶっている。
「ゆりかご?」
美虹は知らず知らずのうちに部屋の中に入り込んでいた。
「子ども部屋だ。・・・・まさか・・レオの部屋だったのかな?」
・・・
『レオ、ここあなたの部屋だったのかな?』
『・・・・・』
レオの答えはない。多分それどころでなく忙しいのだろう。では、ライに聞いてみよう。
『ライさん?この部屋・・・』
・・・ややあって答えが返ってきた。
『・・・美虹ちゃん?その部屋?・・・ああ。レオの部屋だった。レオが3才まで過ごしたところさ。その部屋は封印されていたはずだが・・・開けちゃったの?』
『すっと開いたよ。』
『その部屋は僕が城を出る前に、誰にも開けられないように幾重にも魔法を重ねが消していたんだけど・・・』
『子ども部屋なのに?』
『・・・ちょうど良い。実は・・そこにあるものを隠したんだ。持ってきてくれないか?』
『何?隠したから、魔法を重ねがけしておいたの?』
『・・まあそうだね・・・・おもちゃ箱の中に・・・そう。かなり下になっていると思う。短剣があるはずだ。』
『この前見つけたみたいな?』
『あれは男物だ。そこにあるのは王妃の物だった短剣だ。』
ごそごそ・・・
『あ。これかな?』
底の方に、布でくるまれた物があった。美虹がそれを取り上げて懐にしまうのと、入り口から声がしたのは同時だった。
「そこで何をしている?」
・・・扉・・・開けっ放しだった・・・私の馬鹿・・・美虹は心の中でつぶやいた。
『ほんとだね。うっかりしてたね。言い訳を考えないと・・・』
リュウがささやく・・・・
・・・
「びっくりした。なんだ。レッグさん。よかったあ。もう探しくたびれちゃって。おまけにどこの扉も開けられないし。」
話を遮られた。
「何をしていたんだ?」
険しい顔だ。美虹は内心ビビリながらも、
「あちこち扉を試しながら進んでたんですけど、たまたま開いていたこの部屋でおもちゃ箱見つけたから、もう探さなくて良いから遊ぼうと思って。」
と答えた。無邪気に見えると良いと思ってにこにこしながら。
しばらく険しい顔をしていたアームは、
「とりあえず、出よう。」
と言った。
美虹が出るとアームはすぐ扉を閉めようとした。が、しめられない。
「あ。わ・・僕が。」
美虹が扉に触るとすぐに扉は閉まった。レッグはさらに険しい顔をした。
レッグはもう一度扉を書けようとするが。開かなかった。
「もう一度開けてみろ。」
ここで開けてしまったらまずいことになる。美虹は開けようとしたけど開かないという演技をした。端で見ていたら、かなりの大根なのだが、美虹は必死だ。
疑わしそうなレッグ・・・・
「開けろと言っているんだ。」
「開けられませんよ。さっきは開いていたんですから。」
額ににじんだ冷や汗を布巾でぬぐう。それを、
「そうか。汗が出るほど頑張ったのに開けられないと言うわけだ。」
好意的?に解釈してくれたらしい。
・・・
「こうしていても仕方有るまい。とりあえず、パンテェールに報告だ。おまえも来い。」
・・・
レッグの示す方へ歩きながら、美虹は
「このお城に子ども部屋なんてあったんですね。」
とレッグに話しかけた。・・・が・・・・いつもは饒舌なレッグが黙り込んでいるのは怖い。
美虹は、その後も黙りを決め込んだレッグの後を小走りに付いて行くしかなかった。
・・・
『ライさん、どうしよう?』
『見ていたよ。その扉は王家の者にしか反応しないんだ。開けっ放しなのはまずかったね』
『私王家の者じゃないよ。』
『そこなんだよね。もしかしたら、美虹をレオだと思うかも知れない。美虹ちゃん、うまくごまかしてくれ。』
『そ・・・』
『俺だとは、さずがに勘違いはしねえだろう。』
レオの声が割り込んだ。
『どうしよう?』
困っているうちに、本来行くはずだった執務室とやらに着いたようだった。
「入れ。」
「は・・はあ・・・」
「やっときたか。」
部屋の中にいたパンテェールは普通だった。まだ美虹がどこにいたことを知らないからなのだが、美虹はほっとした。
「ここが分からなかったので。」
「ちょっといいか?」
レッグが割り込んできた。
「こいつ、王子の部屋にいたんだ。」
・・
「なに?」
「王子の部屋だ。レオパルト王子の!」
「なんと?」
「あの部屋は、誰にも開けられねえはずだ。あのアルテミアの魔法使い連中にも壊したり開けたりが出来なかった部屋だったはずだ。それを・・・こいつが・・・」




