49 王にはならん
レッグが出ていった後、美虹はその部屋に日が暮れるまでいた。とはいえ、何をして良いか分からないので、リュウと話をして時間を潰しただけだったが。
リュウも、いろいろな実験道具を初めて見るようだった。
『僕の世界の龍は実験なんてしないよ。』
『そうだろうね。龍がフラスコ持って何か混ぜてるのは想像つかないわ。』
『でも。そこの透明な入れ物から変な気配がするんだ。』
リュウが示したのは棚に並んでいる瓶の1つだった。
『あんまり良い気配じゃないから、開けない方が良いよ。』
そう言われてみると開けてみたくなるもの・・・しかし、美虹はその誘惑には勝った。
『明日は、にょろにょろ達を連れてきても良いかもね。誰も来ないし。』
『うん。結界張っていれば良いと思うよ。』
『なるほど。』
貰った鍵で扉に鍵を掛ける。
『誰も入れないようにしておきたいところだね。レオなら知っているかも知れないから後で聞いてみるといいよ。』
『うん。分かった。』
くるりと後ろを向いて思わず悲鳴が出た・・・
きゃ・・
「しっ」
美虹の口を塞いだ手・・・
『レ・・・レオ。』
・・・
「おまえがここだとスルーから聞いてな。」
レオがにやりと笑っていった。美虹は
「迎えに来てくれたの?」
単純に喜んだ。実は美虹は道を覚えるのが苦手なのだ。
「多分一人で部屋に戻れないだろうと思ってな。」
・・
「ありがとう。」
連れだって廊下を歩く。所々の目印を教えて貰いながら。
所々に兵士が一人立っているところがあった。
「あの部屋って重要なの?」
「ああ。多分。会議室とかだろう。今使用中なんだろうな。」
「良く私のいるところまでの道が分かったよね」
そう言うと、レオは
「俺もスルーに教えて貰ったんだけどな。」
と答えた。スルー?違和感を覚えた美虹が、
「あれ?スルーって隊長じゃなかったの?呼び捨てで良いの?」
と聞くと、
「ああ・・・ま。今はな。」
つまり、いないところでは呼び捨てでかまわないって事らしかった。
「まあ。いろいろ話したいこともあるが。先に飯だな。」
自分たちの部屋に行く前に、美虹は食堂へ連れて行かれた。
「そういや、お昼食べてないや。」
話したり、お茶飲んだりして・・・食べるのを忘れていた。
「ちゃんと食え。」
「うん。明日からは気をつけるよ。」
スープとパンのようなもの、肉の大きな塊に、付け合わせの芋のようなものが夕食だった。肉のほとんどはにょろにょろ用だ。黙って小さく切ってポケットからだした袋に入れていく。
「おまえもちゃんと食え。」
「こんなに大きいのは無理。」
小さい声でそう言うと、せっせと肉を袋に詰め続けた。
「そう言えば、昼ってどこで食べるの?」
呆れたようなため息が美虹の頭の上から聞こえた。
「朝も昼も夜も同じだ。」
「あ。そうなんだ。」
「遠征に行くと自分たちで作るらしいが。この組織になってまだひと月たつか、たたんかだそうだ。」
二人は頷き合った。別れたのがちょうどその頃だったからだ。
部屋に入ってから、レオは念のためあちこちチェックして回った。
『聞かれたくないこともあるからな。』
確かに。ここは心話だよね。
『でも魔法使いは他にいないみたいなんだよ。』
『魔具がある。」
盗聴器のようなモノが魔具であるらしい。美虹は少し驚いた。
『この部屋にあるの?』
『これだ。』
・・・
「いいぞ。」
「しゃべって良いの?」
「結界でくるんだ。」
「自分たちの回りに結界を張るのではなく?レオ、そんなことも出来るんだ?」
「おまえもやれば出来るはずだ。見たところ、おまえは詠唱なしで色々発動させているからな。」
「あれ?ここに入るとき、テストされたけど。」
「テスト?」
「あ~~力を試されたとき、」
「時?」
「レインボースラッシュとフラッシュって叫んでやったら指先からなんか・・光線みたいなのが出てさ。的に貫通したり、的が割れたりしたんだよ。」
「ほう?」
レオは下に落ちている上着を見つけて拾った。
「あ?濡れてるぞ?何でだ?」
・・・・
「どうでもいいけど。飯はまだか?」
「俺たち腹ぺこ」
「退屈してた。」
「肉だ。肉をくれ。」
「俺にも肉だ。」
「退屈だから、どうにかしてくれ。」
「俺たちにも何かすることをくれ。」
「あれ?このコ達がここでしゃべったこともつつぬけ?」
ぎくっ・・・にょろにょろが固まった。
「いや。これは夕べも今朝もなかった。おそらく、誰かが入って来たんだろう。にょろにょろ、誰かここに来たか?俺の服が濡れてるんだが・・・何かあったのか?」
・・・
「・・・・あ・・ああ。そういえば。」
「腹が相当へった頃」
「誰か来たな。」
「肉だ。肉をくれ」
「俺にも肉をくれ。」
「俺たちすぐ隠れた。」
「その後すぐレオ達きた。」
「飯を食ってるときかな。だがおまえの事を魔法使いだと思っている割に分かりやすい物を置いていったな。」
「私だけだったら見逃してるよ。」
・・・・・
「ああ。そうだ。ねえ、レオ、この子達、私が連れて行っちゃ駄目かな?」
「こいつらを?」
袋から肉を出してにょろにょろ達にやりながら、レオが嫌そうな顔をした。
「大丈夫なのか?」
「分からないけど、研究室に連れてけば、私も一人じゃなくなるから不安が減るかも。」
レオにも、一人じゃやはり心細い。だから誰かと一緒にいたいという美虹の気持ちも分からないわけではない。
「奴等に見つかるなよ。にょろにょろは、多分、パンテェール達も見ているはずだ。」
「あ。そうか・・・見つからないようにはしていたけれど、袋の中身はなんだと聞かれたことは一度や二度ではなかったもんね。あ。袋。同じ袋だと疑われちゃうかな?」
「リュウも見つからないようにしろ。」
「あ・・・」
「研究室にも魔具があると思って良いだろうな。」
「だよね?」
「と言うことで、おまえにも無効に出来るような方法を教える。ちゃんと覚えろよ。」
レオの詠唱は簡単だった。
「無効」
美虹は耳を疑った。
「え?」
思わず聞き返す。
「無効」
もう一度繰り返すレオ。
「え?まんまじゃない?」
「だな。」
・・・
「後は出来ると思うだけだな。おまえの何とかフラッシュと同じ事だ。」
「そんなんでいいの?」
「師匠の教えはそうだった。」
レオのくるんだ魔具をむき出しにしてから。
「無効」
うまくいかない。
「くるむように考えろ。」
・・・
「無効」
・・・・
「う~ん・」
レオがもう一度魔具をくるむ。
「リュウと協力すればうまくいくんじゃねえ?」
と言うので、
『リュウ?』
と中に問いかける。
『・・・何?』
『協力して・・・・・』
説明すると
『分かった。』
と言う。
頷いて見せたら、
「じゃあ。もう一度やってみろ。」
魔具がまたむき出しになる。
「「無効」」
・・・・
「成功だな。」
「じゃあ・・・ライ達との通信も簡単じゃない?」
・・・
「そういやそうだな・・今まで考えたこともなかったな。」
・・・・
その後、二人は儀式の間の二人と連絡を取り合った。
「簡単に連絡出来るもんだな。」
レオが言うと、リヒテは思わずといった感じで、
「こんなに簡単なら、おまえが出かけている間中心配しなくてよかったのにな。」
と言ったことで、お互い気まずい沈黙が流れた。
「リヒテ。本当はレオのこととっても心配していたんだね。」
連絡を切った後の美虹の感想に、レオは微妙な顔をしていた。
「でも。パンテェール達は本当はどうしたいのかな?」
寝台に寝転んで美虹はレオに話しかける。
「ライも言ってたが、おまえの話を聞く限り、儀式を行うことの必要性を知っているように思えるな。」
レオは髪をごしごし拭いている。
「まあいい。おまえもさっさと体を洗ってこい。」
美虹はどっこいしょと起き上がり、着替えを持って浴室に向かった。
「個室にシャワーがあって助かったわ。」
「ああ。いくら肉体が男に見えたとしても。やはりな・・・」
にょろにょろ達が
「なあ、俺たち研究室でなにをすれば良い?」
「手伝えることは?」
「手がないからな・・・」
「肉だ。肉をくれ。」
「肉の加工をしよう。」
「それも面白いな。」
「魔法も少し使えるぜ。」
姦しくレオに言ってくる。
レオはまだしめっている髪を乾燥魔法で乾かし、指で梳いた。それからにょろにょろ達に、
「おまえ達はとにかくパンテェール達に見つかるな。」
「う~ん。気をつける。」
「気をつけるが。」
「そこでなにをすれば良いかだ。」
「肉だ。肉をくれ。」
「肉の加工をすれば良いんだ。」
「それも良いが、まじめに考えろ。」
「俺たちのできそうなこと・・」
やはり姦しい
美虹が上がってくると、レオはその髪に乾燥魔法をかける・・・温かい風が一瞬髪を包み、ふわっと仕上がる。短かった髪は一月ばかりの間にそんなに伸びたわけではないが、優しい乾燥に、美虹の顔がほころぶ。
「儀式のことをパンテェールが知っているとは思わなかった。」
美虹が櫛を出して髪を梳かしていると、レオが言い出した。
「壁の向こうが儀式の間って言ったわけじゃないし、ライ達がそこにいるって思ってるわけでもないと思うけど、」
・・・
「前王に似た幽霊が出没していると思っているのか?本人が生き延びて出入りしていると思っているのか?」
「・・それは私には分からなかった。でも、100年に一度儀式をしていると言うことは分かっていたし、王家の血筋が鍵だって分かってると思ったよ。」
「王家を滅ぼそうとか言う輩ではなさそうだと言うことか?」
「王国の存続を望んでいるのかと聞かれれば、分からないとしか答えようがないけどね。
あれ?レオ、王家と王国の存続を望むんだよね?王になるんでしょ?」
・・・・・
「おまえは王妃になりたいか?」
「は?なにそれ?」
「なれるとしたら、なりたいか?」
「嫌だよ。大変そうだもん。」
・・・
「だろうな。」
「??」
・・・
「もし、王家が王国が復活しても、・・俺は王にはならん。ライになって貰う。」
「え?レオはそれでいいの?」
「ああ。」
「でも・・・ライはどう思っているんだろうね?」
「さあな。ただ、儀式だけは、どちらかがしなければいかんことは俺たちの共通理解だ。」




