48 パンテェールの考え
「王家の者か・・・」
パンテェールは沈んだ声でつぶやいた。美虹はどきっとした。
「王家の人に、お心当たりがあるんですか?」
声を絞り出す美虹。
「・・・」
「おまえ。身の程知らずの質問をするな。」
・・・・・レッグが遮る。
「あるんですね?」
「だから、そう言うのは機密事項だろ?」
レッグは扉を押し開けながら言った・・・
美虹達はそのまま廊下に出て歩き出した。
元いた部屋に入ると、
「なんとか開けることが出来ないだろうか?」
パンテェールが絞り出すように言った。
「何のために開けたいのですか?」
ここははっきりさせなければ。
「・・・・・」
儀式のことをどのくらい知っているのか?美虹の思考はそこに行き着いた。
「あそこが開かないとおそらく国・・・は・・いや。世界が滅びるかもしれない。」
美虹は黙ってパンテェールを見つめる・・彼は苦しそうに続けた。
「君は魔法使いだ。だから我々には分からないものが見えていているのかもしれない・・君に気を許して良いものかはまだわからん。が・・・わらをもつかみたい気持ちでいっぱいなのだ。」
・・・
しばしの沈黙の後、
「この国は15年前まで王制を採っていたことは知っているな?」
とパンテェールは切り出した。
「ええ。僕はこの国の者ではないので詳しくは分かりませんが。」
・・・・・
「この国は100年ごとに王家の者がある儀式をしていたと伝えられている。儀式は王家の者が執り行い、王家の者でない者にはそれがどのようなものであるのか誰にも知らされていなかった。王家が存続しているうちはそれでも良かった。王家が責任を持って儀式を行っていることは儀式の前後に民に知らされていたからな。
だが、ここにきて儀式の日が近づいているのに王家の者がいないという事態になっている。」
「別に執り行わなくても良いものなら、ほっとけばいいのでは?」
美虹の言葉にパンテェールは渋い顔をした。
「かのアルテミアはそう思ってこちらを攻めてきたのだと思われる。」
「?」
「・・・だんだん異変が起きてきていると言うことだ。」
レッグが口を挟んできた。
「異変ですって?」
「魔獣が増えてきた。人々の心も荒んできた。」
前が分からないので美虹は何とも言えない。黙っていると、
「・・・それなのにアルテミアは、領土を広げ、我がシュバルツァーを取り込んでいこうとした。」
「アルテミアの狙いって?」
美虹が質問をすると、
「豊かな国土を手に入れること。奴隷としての獣人を手に入れ、自分の国土と国民をさらに富ませること。かな?」
レッグがまた口を挟んできた。
パンテェールが続ける。
「・・・その際王家の者は失われてしまった・・・と思われていた。」
「思われていた?」
パンテェールは顔を上げた。
「私はこの国へ来るときに確かにレオパルト様を見た。龍を従え、りりしい・・・あれは間違いなくレオパルト様。」
「レオパルト様って?」
「シュバルツァーの王子だ。」
あのときレオはマントを後ろに払っていたっけ?いつもの人に見える幻影の魔法はかかっていたっけ?思い出そうとするけれど、覚えていない・・・
「どうぞ・・」
かちゃ・・ラビーが気を効かせて人数分のお茶を入れてくれた・・・皆喉が渇いていることに気がつく。
「ありがとう。」
「おお。ありがとな。」
「ありがとうございます。」
「本当にレオパルト様なんですか?」
「間違いない。龍に乗っていたのは確かに黒豹人だった。」
レッグさんが言う。多分戦いの最中は人に見えるような魔法を展開してなかったんだね。それはレオのうっかりだね。
「で・・・幽霊とは?」
「ライ様だ。」
「ライ様?」
「王だ。」
「幽霊が王なんですか?」
「いや。あの部屋で見回りをしていたアームがライ様を見たのだ。」
「アーム?」
「ああ。ライ様の身の回りのお世話をしていた侍従の息子だ。王の部屋のある階は重要なのであいつが見回りをしている。」
美虹はアームの言葉を思い出した。
『パンテェールさんに恩がある.』
もしかしたら15年前に助けてもらったのかも?
「だからあの部屋のあの場所を壊してみて欲しいのだ。」
「パンテェールさんは、レオパルト王子に儀式をして欲しいんですか?それともライ王に?」
パンテェールは黙った。
「分からん。・・・もしかしたら王家の血はあまり重要でないのかも知れん。もしかしたら他に重要なものがあるのかもしれん。100年祭が来るまでは誰にも分からん。私とて全て知っているわけではないのだから。」
『だから龍石を自分が持っているんだ?』
美虹は賢明にもその言葉は飲み込んだ。知っているはずのないことだからだ。
・・・いや・・・あそこを壊したらだめ。
「考えさせてください。」
そういうしかない・・・
それから美虹は城の中に1室貰った。
「魔法使いは色々研究したり薬草混ぜたりで部屋が必要だったらしいから。」
美虹の前にいた魔法使いの部屋だったという部屋を・・・そのまま美虹に渡しただけらしい。
「・・・・」
「まあ。ちょいと汚れて入るがな。魔法使いに必要な物はそろっているはずだ。」
案内してくれたレッグが言った。美虹が
「どうして分かるんですか?」
と聞くと、
「彼が欲しいといったものを全部集めたからだ。まあ。集めている途中で旅立ったからな。まだ後で色々届くと思うぞ。」
・・・途中で旅立った・・・
・・・・
「なんか・・・重いんですが。」
美虹がようやく口を開くと、アームが楽しそうに返してきた。
「気にするな。奴はこの城に15年いたんだ。その間にも色々ため込んでいたはずだ。」
・・
「・・・で、最後は理不尽な要求の前に散ったと言うことですか?」
「人聞きの悪いことを言うな。奴は自分から進んで挑戦したんだ。」
レッグは机の上のフラスコを揺すって中の水を確認している。何が入ってるのだろう?
「その人は、どこから来た人ですか?」
「アルテミアだな。他にも何人かいたのだが先の小競り合いで、ほとんどが怪我をしたり命を落としたりしていたからな。奴も片足を失っていた。だからか・・・アルテミナが自分を置いて引き上げたので、パンテェールに重く使って貰おうと手柄を焦るような所もあったかもしれん。その点おまえは慎重だった。
・・・そこがパンテェール隊長の気に入ったようだぞ。隊長が他の奴に興味を示したのはレオ様を最後に見かけて以来だ。」
あんまり嬉しくないかも・・・でも、美虹はパンテェールと結構いろいろな話をしている。パンテェールはまるでおじいちゃんのようだった・・・
「その・・・レオ様以来とは?」
「ああ。おまえは・・・なんか・・・変な奴だな。ついつい話してしまう・・・まあ良いだろう。秘密でも何でもないからな。
この前この国に戻るとき我々と一緒にこの国まで来ることになってった黒豹人の事だ。」
「黒豹?何か黒豹って特別なんですか?」
美虹は、机に上のアルコールランプやすり鉢などを洗うモノとそうでないモノに分けて、洗うモノを洗い場に動かしながら質問を続けている。
「ここの王家は黒豹人なんだ。」
「でも。黒豹の人ってそこら中にいますよね?レッグさんも黒豹でしょう?パンテェールさんも。」
「そこらじゅうにもいるが、ここの王家は黒豹なんだ。」
「ふうん。」
わざと興味がなさそうに話題を切り上げようとして、気が付いてもう少し聞く。
「まさか、失敗した魔法使いって黒豹人?」
・・・
「よく分かったな。」
「自信を持って術に当たったんでしょう?」
「ああ。王家の者しか開けられないと言っている割には躊躇はなかったな。」
美虹は頷いた。
「その人はあの部屋の出入り口を壊したんですか?」
「ああ・・・15年ほど前に・・・割と簡単に壊れたと言っていたぞ。」
「だからですよ。多分、その黒豹人は、自分は王家の血を引いていると思っていたに違い有りません。」
美虹の言葉にレッグははっとしたようだった。
「おまえは・・・本当は危険な奴かも知れんな。・・ついついしゃべっても良いと思わせるなにかがある・・・」
美虹はきょとんとした顔をアームに向けた。
「は?」
「そう。その無防備な顔だ。・・・まあいい。ここでしばらく魔方陣など研究するが良い。必要な物があったら・・そうだな。俺に言うがいい。」
「どこに行けば会えますか?」
「第1師団だ。俺は第1師団の隊長を仰せつかっている。」
「第1と言うことは、第2もあるんですか?」
「ああ。今回入った奴等は第2師団に組み込まれている。隊長はこの前試験であっただろう?スルーという。」
「僕は?僕はどこに配属なんですか?」
「おまえはおそらく。パンテェール隊長と共に行動することになるだろう。」
・・・・・
『早く部屋に戻ってレオに教えなくちゃ。ライさんにも。いや。ライさんはあそこで聞いていた可能性がある。ああ。どうしたら一番良いんだろう?』




