41 短剣
・・・・レオ・・・・・
おいてきてしまった。心配だ。だが、俺たちにつて来るより安全なはずだ。
「何ぼんやりしているんだ。つがいと離れて心配なのは分かるが、気を引き締めろ。」
「凄い溺愛だよな。抱っこして離さねえし。」
ぷっ・・
だれだ?ライ?
しばらく息を殺して笑っている様子が伝わってくる。ようやく笑いを納めて
「いいえ。さあ行きましょう。」
と、ばか丁寧に言うんだが、何か可笑しいところがあったか?
城には後ろの森から入るのが簡単だと言う。俺は3才になるやならずでここを離れているからわからねえが。レオとリヒテは詳しいらしい。
時々回ってくるのは傭兵団か?アルテミナの軍服とは違うように見える。
「アルテミナは出て行ったと言っていましたからね・・・・」
「罠じゃねえよな?」
城に入ったらアルテミナの軍隊に囲まれたってのは勘弁して欲しい。
森の外れに古井戸があった。まだ水を満々とたたえていて、今も使われている形跡がある。
その中に俺たちは次々と入っていく。入って少し行ったところに上から見えないようなっているへこみがあった。そこにライが手を当てると静かに石が動き通路の入り口となった。
「王家の血に反応するんだ。レオも出来るはずだ。この先にいくつかの扉がある。全て王家の血筋の者にしか開けられない。」
「凄い魔法だな。」
「古の龍の魔法と言われている。我々は龍の血を引いているという伝説があるんだ。」
「龍の血?」
「あの小さい龍もおそらくその血に引かれている可能性がある。」
俺は黙り込んだ。龍はあいつだ。あいつが龍だ。あいつは俺の血に惹かれるのか?そんな風には見えないが・・・俺があいつを特別に思うのも龍だからか?いや。この胸の高鳴りは龍だからではない。もしそうなら、ライも同じように感じるはずだ。ライ・・・まさか隠している?わけないか・・・
「もうすこしいくと、儀式の間だ。そこの様子を確認する。」
俺たちは広い部屋にたどり着いた。
大きな台がおかれている。
「龍の台座だ。」
龍の?
「儀式の折、ここに龍が降臨すると言われている。代々の王家の者と、宰相、騎士団長が立ち会うのだそうだ。勿論今から100年前の儀式の際も龍は降臨したと言われている。世界の100年の繁栄をここで願うのだそうだ。」
・・
「なんで100年なんだよ。もっと願えば良いのに。」
「リヒテ。欲張ってはいけないよ。100年は人の世では3~4世代だ。その間に、心悪しき者が支配者になったとしたら・・・その者が儀式を行えば全てが無に介すと言われている。」
「アルテミナはそのことを知っているんだろうか?」
俺の問いに
「さあ。でも・・・もし知っていたとしたら、王家を滅ぼすと言うような愚行は考えなかっただろうね。」
俺たちは黙って台座を見つめていた。台座にはくぼみがいくつかある。
「このくぼみは?」
リヒテが聞く。お手も知りたかった所だ。
「そこには龍石と短剣を置く。レオが持っているはずの剣を置く所もあるだろう?」
台座の端に丸いくぼみ。そのわきにちょうど丸いくぼみを囲んだ×を描くようなくぼみがある。さらにその下にちょうど剣を刺せるような切れ目・・
「では、城に入るよ。ここからかつての王の寝室まで近いんだ。」
扉の前で俺は中をうかがう・・・気配はない。王の部屋は誰も使っていないのか?
ここで魔法を使ったら見つかってしまうのだろうか?
そうつぶやいたのが聞こえたのかライが
「王家の者・・王家の血にしか反応しないため、王の部屋には誰も入ることは出来なかったはず。ただ・・・・・・・ちょっと待って・・・
・・
・・・今知ったが・・・この扉はきちんと隠されているし、扉の魔力も生きているようだ。でも・・室内の結界が壊されてしまっているように感じる・・・」
「もしかしたら?」
「もしかするかもしれん。」
「俺が先に行く。」
リヒテが言うが
「王家の血に反応するので、王家の者が行かなくては誰も入れないよ。」
ライにあっさり言われてしまう。
仕方がない・・・
「いざというときはここに逃げ込めば、少なくとも誰も追ってこられないよ・・」
「リヒテは俺とライの間に挟まれば通れるだろう?」
「そうだな。」
「逃げるときも同じだぞ。」
・・・
「ああ。」
嫌そうに言うな。仕方ねえだろう。
きいぃ・・・少し音を立てて扉が開く。
中には豪奢な寝台。華奢なテーブル・・・・
「使っていた物が・・なにもかもない。」
ライがつぶやく。この部屋につい15年前まで住んでいたんだ。少しつらいんだろうな。
「ここを出るとき全て捨てたつもりだったんだが・・・
やはり寂しいものだな。自分の使っていた気配が何も残されていないとは・・・。」
「他に気付いたことはないのか?」
「通常の入り口の結界は力業で壊したみたいだな。扉が新しくなっているし・・・内部の物もかなり入れ替わっている。」
「簡単に壊せるような物だったのか?」
「こちら側は、この部屋の掃除する者や宰相なんかも入ったからな。」
「おやじも?」
「ああ。ここで内密な話もした。」
「そうか・・・」
リヒテはきょろきょろ辺りを見回している。当時の者などほとんど残ってはいまいに・・
「ここで執政官とやらが暮らしていたって事か?」
「多分。かなりいろいろな人の臭いがする。」
「で。ライの捜し物はここにあるんだろう?」
「ああ。代々の王が管理していたものだ。儀式に必要なもの・・・多分あの壁のむこうにまだあるはずだ。」
ライが壁の一部に手を触れる・・・壁がぱかっと開き中に入っている物が浮かび上がる。
「短剣?」
「本当は2振りあるはずなんだ。おまえの父親が僕に見せたときすでに1振りしか入っていなかったんだ。」
「残りの1振りはこの城のどこかにあると言うことか?」
「そういうことだ。」
「パンテェールに聞くしかない?」
「いや。アルテミアかも・・・」
「いずれにしろ、城の中を探す必要があるな。」
・・・
誰か近づいてくる気配がする。扉を一つ一つ開けて中を確かめているようだ。見回りか?
「誰か来る。」
「まずい。」
「早くこれを手にとって。」
ライが言う。ライの方が近いのに何故だ?ふと思ったが言われるままに剣を手にする・・
手に取るのと一緒に外の気配が近づいてくる。
素早く戸棚を元に戻したライが、
「行きましょう。」
俺たちをせかす。よくわからぬまま俺たちは急いでさっきの扉の前に・・
部屋の扉が開く。
逆行の中に立つ男。
「だれだ!!」
見られた?
「急げ。」
俺、リヒテ、ライの順に扉をくぐる。その後ろから
「ライ様!!」
と言う声が聞こえた。
「しまった・・・顔を見られた。」
ライのつぶやきが通路に響く。
扉をたたく音がする。
「大丈夫です。彼は王家の者でないようですから。」
扉はびくともしない・・・
俺たちは急いでもといた方向に戻る。
短剣は俺の懐で何故か温かさを感じさせる。




