38 城
「パンテェール様」
パンテェールは書類からゆっくり顔を上げた。レッグが立っている。
「レオパルド様の居所は分かったのか?」
「それが。」
「もっと人数を増やせ。」
レッグはため息をついた。
「ご自分で隠れている方を探すのは難しいですよ。ましてや白龍様とご一緒でしょう?」
白龍伝説と思っていた白龍。それが伝説ではなかったとは・・・
・・・ワイバーンの巣に眠るといあの龍石のおかげなのか?いや・・・
私は龍を呼び出そうと試みたのだが・・・呼び出すどころか、試みただけでその代償は大きかった。足の機能を失い、大切なバドバドも・・・
「アルテミナの連中が儀式はどうするんだと聞いてきています。」
「龍石がある。」
「王の血筋がなくても決行しますか?」
「アルテミナの連中は王の血筋など屁とも思ってはおらぬのだろうな。」
「ですね。」
ノックの音に二人は黙った・・
「入れ。」
ドアを開けて入りながら
「隊長。」
と呼びかけてくる、。あの傭兵の隊を抜けてからは皆がレッグを隊長と呼んでいるのだ。
「・・・なんだ?バギー?」
「ワイバーンの洞窟が騒がしいとの伝令が入って来ました。」
・・・・レッグとパンテェールは思わず顔を見合わせた。
「もしや。レオパルト様が?」
レッグがつぶやく。
「龍石のありかをあの方が探っているというのか?」
バギーが聞き返す。
「いや。すでに白龍を従えていらっしゃったのに。龍石を求めることはあるまい。」
・・
「ましてや龍石はパンテェール隊長が持っていらっしゃるのに。」
「しっ滅多なことを言うでない。」
パンテェールはバギーを諫めた。
「アルテミナの者に知れたらまずい。」
「そうですね。あそこでは何も得られなかったと言うことになっていますからね。」
「アルテミナはワイバーンの卵をいくつか持ち帰ったと思うぞ。」
バギーの言葉にアームが応えた。
「そうでしたね。うまく卵の方に導いたんでした。」
「龍石は手に入れた。だが。龍の召還はかなわなかった。」
「隊長。やはり王家の血筋の者しか呼べないのでしょうか?」
「魔力も問題だったのだと思う。龍の好きな魔力・・それが私には不足していたと言うことだ・・・」
「隊長も王家の血筋を引いていらっしゃるのでは?」
「数代も前のことだ。私には力が足りないのだ。残念ながらな。ライ様かレオパルト様が直系としては正しい。彼らのいずれかがどうにかしてくれる・・・はずだったのだ。アルテミナさえ余計なちょっかいを掛けてこなければ。」
ラビーがすっと寄ってきてパンテェールの車椅子を机からソファーの方へ導く。
「おまえ達も来て座りなさい。」
ラビーは椅子をテーブルに着けると黙ってお茶を入れ始めた。
「失礼します。」
「ワイバーンの洞窟はどうしますか?」
「放っておいて良いだろう。あそこには龍石はない。我々はワイバーンの卵が欲しいとも思わない。」
「ワイバーンは便利そうですけどね。」
お茶に手を伸ばしながらレッグが言う。
「あのときワイバーンは白龍様の前に手も足も出なかったではないか。」
「確かに。」
「白龍様とレオと名乗る若者・・・おそらく・・いや。間違いなく彼はレオパルト様だ。」
「ライ様によって殺されていたわけではないと言うことですね。」
「そうだ。もしかするとライ様もどこかで生きていらっしゃるのかも知れぬ。」
「アルテミナはまた来るでしょうか?」
「自慢のワイバーンをことごとくやられたんだ。しばらくは手出しはしてこないと思われるが。」
「この王宮の中に何人もの間諜がいるのでは?」
「いるかも知れぬな。」
「中心の都市においてきた傭兵達はどうなっているのだ?」
ふと思い出したようにパンテェールが聞くと、
「ほとんどは俺たちについてきたのは分かっている。」
レッグが答え、バギーが後を引き取るように続ける。
「例の隊長が地団駄踏んでいることだろうぜ。」
3人はしばし黙った。
「アルファ団長が生きていたら・・・」
「ああ。歯がゆいことだ。」
「お茶のおかわりはいかがですか?」
ラビーののんびりした声がする。
「儀式の日まであと三ヵ月・・・それまでに・・」
パンテェールの声はカチャカチャというカップの音に紛れて消えていく・・
時はさかのぼる・・・
昔からある城の側に、宮殿と見間違えるほどの豪奢な建物。そこにアルテミナの軍部がおかれている。王国だったアルテミナの王がいつの頃からか騎士団の傀儡に成り、騎士団も軍部と言われるようになってきた。軍部は商人達と癒着してますます勢力を伸ばし、王の名の下に回りの国々を制圧してきた・・・その最強の騎士団の一隊がここにも置かれているのだ。
ノックの音が聞こえる。
「なんだ?」
ドアが開き、一人の男が入り口のところで声をかけた。
「将軍。中央の街より伝令です。」
机に向かっていた将軍と呼ばれた男はゆっくり顔を上げた。
「許す。」
「失礼します。」
下士官が大将と共に入って来た。
・・・
「何?パンテェールがこちらに向かって進軍してくると?」
将軍がゆらりと立ち上がった。
「雑魚が。アルテミナに逆らうとは。」
「どうしますか?」
「准将を呼べ。・・・なに。奴はこの前のワイバーン狩りで半身が聞かなくなっているはず。たいしたことは出来まい。准将に手柄を立てさせてやろう。」
「なるほど。恩を売るわけですね。」
「そうだ。」
准将と呼ばれた男は裕福な商家の出だ。取り込んでおいても損にはならない。将軍の胸を打算がよぎる。
・・・・・
「は。では、全て私に任せてくださるので?」
「うむ。お手並み拝見と言うところだ。シュヴァルツァーを落とすより簡単なはずだからな。」
「たかが傭兵崩れの一団。」
「油断するなよ。」
准将が出ていった後、大将と将軍はにんまりと笑った。准将はおそらくこのたびの戦いで少将に上がるに違いない。礼に何を手に入れられるか二人の胸にはそれしかなかった。
・・・・しかし・・・・
「将軍!!」
「何事だ?いきなりの入室は無礼であろう。」
「そ・・・それは。もうしわけございません。しかし、緊急に報告を・・」
「なんと?ワイバーンが!!」
「間違いなく白龍であったと。」
「白龍?本当に?・・・」
・・・・
・・・・・
「おい、将軍。」
「何ですか?執政官殿?」
「白龍に制圧されたと聞いたが。」
「どこからそんなことを?」
「どうでもいい。一旦国に引き上げるぞ。」
「国に?」
「そうだ。王に報告をしなければならない。」
「王に?」
「・・・・元帥に・・・」
「そうです。あなたはただの執政官。」
・・・・
「国に帰ることについては?」
「白龍様がシュバルツァーに本当に降臨したのなら・・・ここは一時撤退をした方が良いでしょうな。明日には元気な者を全員引き上げさせましょう。」
「怪我をした者を先に連れて行かねばならんのではないのか?」
「いいえ。動かすと命に関わる者ばかりです。この地の医者を付け置いていきます。」
「そうか・・・」
・・・・・




