37 龍石?
洞窟の中がなんとなく臭い。
「この臭いは何?」
「焦げたような臭いだな。」
レオが嫌そうに言う。
「あんまりいい臭いじゃねえな。」
私達の後ろを歩いているリヒテが言う。ライは私達の前で
「これ以上行っても無駄だね。」
と言って立ち止まった。
崩れた岩が私達の前にあった。にょろにょろ達が岩の間を忙しく上下する。
「向こうになにかある。」
「大きい?」
「いや。小さい。」
「肉だ。肉をくれ。」
「肉があるのか?」
「肉じゃないぞ。」
「何か大きな力を感じるぞ。」
・・・・・
「どうする?」
「行ってみるか?」
「行けるの?」
リヒテとレオが顔を見合わせる。
「行ける。」
「美虹はちょっと後ろに下がっていろ。にょろにょろもだ。」
ライが私を抱き取ろうとしたら、レオは私を抱っこしたままもの凄い勢いで50メートル以上走った。そして私を下ろして、
「ここにいろ。」
って。え?
そこにライが笑いながらやってきた。
「心配するな。」
「うるせえ。」
レオはまたリヒテの所に走って行った。ライさんも後に続く。入れ替わりににょろにょろがやってきた。真っ暗なのに前に唯一さんに教えて貰ったように辺りはちゃんと見えている。
どか~ん派手な割に土埃も立たない。
「あれも魔法で消してるのかな。」
ややあって、音がやんだ。
ライさんがやってくる。
「やあ。大丈夫かい?」
「はい。ほこりが立たなかったんですけど。」
「ああ。僕は清浄の魔法も使えるんだ。あの二人は破壊するのが得意だから自然に綺麗にすることが必要になったからね。」
「美虹」
道を調べていたレオが声をかけながらやってくる・・・
「レオってお母さんみたいですよねえ。」
ぷはっ?笑ってるの?ライさん?
「・・・く・・・苦しい・・・・はあ・・・ふう・・なんでそう思ったの?」
「え?だってすぐ抱っこしてくるし、今だって危険から慌てて遠ざけようとしてるし。私、小さい子じゃないんだけどなあって思うときがあるんですよ。
あれ?ライさん?何をヒイヒイ笑ってるんですか?」
笑いやまないので困ってたら、レオがやってきて私を抱き上げた。でも、ライさんが笑っているのをいぶかしげに見て、
「ライは何してるんだ?」
って聞いてきた。何してるって見たまんまだよ。
「わかんない。笑い出したらとまれなくなったみたい。」
ライさんが笑いやむのと、崩れた物が取り除かれて穴が続いている場所に来たのは同時くらいだった。リヒテがいぶかしげに見てたけど。私には分からないから聞かないでね。
穴の向こうには道が続いていた。下っていたはずなのに今度は上り坂。
「ぐるぐる回っているような感じですね。」
「頂上めざしているみたい?」
後ろのライさんに答えたら。ちって舌打ちされた。私なにか悪いこと言った?レオ?
「この先何か風吹いてる。」
「気配がする。」
「なんだろう?」
「肉だ。」
「肉か?」
「違うだろ。」
「大きな小さい気配だ。」
「なんだそれ?」
リヒテ。私もそう思う。
うっすら白っぽい光に満ちた部屋・・・初めて踏み入れたその空間に私が感じたことだ。何か泣きたくなった。おかしいな?あ・・・
リュウが急に小さな龍の姿で私達の前に飛び出した。
「リュウ!!」
私が慌てて呼び止めたその声でライとリヒテが反応した。
「は・・・白龍。まさか・・・本物?」
「ちいせえ・・・」
泣きたい気分が収まった。もしかしたら泣きたかったのはリュウだったのかも。
「リュウ?」
私はもう一度呼びかけた。
「ここに身内の気配がするんだ。」
「身内?」
レオがそっと私を下ろしてくれる。私はリュウに並んで前を見た。まるでテーブルのように見える岩。その真ん中に、何かのっていたようなくぼみがあった。
「ここに確かにいたような。そんな気配。」
「そこのちっこい龍はレオの仲間か?」
「・・ああ。」
「白龍。本当にレオの味方になって戻ってきたんだ。」
ライさんの言葉にレオが反応した。
「どういう意味だ?」
「師匠が言っていた。白龍と一緒に戻ってくると。でも。女の子とにょろにょろだけだったので、師匠もたまには間違えるんだなと思っていたんだ。」
「身内って?」
「分からないけど近い者だよ。」
「お母さんとか?」
「お母さんは僕の中にいる・・いや。いた。」
「え?」
「今は美虹ちゃんの中にいるよ。」
どういうこと?
『リュウのお母さんは、龍石になってリュウの中に共にあったのさ。それは今美虹ちゃんの中にあるんだ。』
唯一さん?
『だから君たちの重なりは難しい。』
「ここにあった石をパンテェールさんが持ち出したって思って良いのかな?」
「美虹はそう思うのか?」
「なんとなく。」
・・・
「僕の・・・多分近い身内。」
私はリュウを抱き上げた。
「おじいさんとか?」
「かもしれないし違うかも知れない。お母さんと同じくらいかそれより前に多分龍石になってったような・・」
「その龍石を使って呼び出したのかな?」
「・・・・」
「ごめん。美虹ちゃん。その白龍・・・って言っても良いのかな?龍は君の?」
「・・・」
「どう話したら良いの?レオ?」
この場では何も分からないけど、ここにリュウの身内の龍石が治められていたのは確かだ。この龍石でリュウが呼び出されたのかも知れない。それをやったのはパンテェールか?アルテミアか?
「白龍・・・リュウが現れても、パンテェールさん達は、びっくりはしていたけれど。何となく当然のように受け入れてたよね。」
私達は部屋の中を丹念に見て回る。痕跡を探すかのように。リュウは飛び回って天井や末の方の壁を見ている。リュウの感情かな。悲しい?切ない?少し引っ張られてしまう。
「おい。」
リヒテがライさんを呼んだ。二人で何か話してる。
「ねえ。レオ。私達のこと二人に言わなくて良いの?」
「・・ああ。後でな。」
リヒテが私達のことも呼んだ。
「あの白龍も呼べるか?」
「うん。」
私は天井近くにいるリュウを呼んだ。
「リュウ?ちょっと良いかな?」
リヒテが小さな小さなカケラを見せる。好きとおっていてキラキラ輝いているわ。綺麗。
「龍石のカケラ・・」
リュウがつぶやくのを聞いて、
「やっぱりそうか?」
と、リヒテは大事に布にくるもうとした。
・・・・
『このカケラ。リュウに飲ませるといい。』
唯一さんが私にささやく。飲ませる?
『飲むことによって今失われている部分に導かれるからさ。』
『パンティールさんが持ってるんじゃないの?」
「今は多分。でもこれからは分からない。』
『今パンテェールさん達はどこにいるの?』
『元の王城だ・・・飲むのを忘れるんじゃないよ・・・』
もういない・・・
「そのカケラ。渡して。」
しまおうとしているリヒテの手をつかんだ。
「なんだ?」
リヒテが嫌そうな顔をする。
「これはリュウに必要な物なの。」
リュウは私の意図を正しく理解した・・・カケラに飛びつくと飲み込んだのだ。
「あ!!!」
「いいの。これが正しいの。」
「とりあえず。もどろうぜ。」
「戻るのはちょっと無理かも知れないね。」
ライさんが言う。
「なんで?」
私の問いに答えるように、私達がやってきた方向から咆哮が聞こえてきた。
「多分ワイバーン。ここはワイバーンの巣に近いようだから。」
って。ライさん。そんなに悠々としていて良いの?
「多分上に抜けられる道があるはずだよ。」
リュウが教えてくれた。
「大体龍は最後を迎えるとき、龍石になるか、そのまま天に駆け上がるかだって聞いたことがあるんだ。だから、必ず上に抜けられるように最期の地を決めるって。」
「急がないとワイバーンと顔合わせって事になるぞ。」
それは嫌かも知れない。
・・・
リュウが示したところに、私とにょろにょろとリュウを一度にもちあげたレオが飛び上がっていく。それに続いてライさんもリヒテも飛び上がった。
「あっちの方が空洞だ。目くらましされているんだ。」
垂直の洞窟をこともなげにあちこち蹴りながら上昇していく3人。すごい・・・
ワイバーンは追ってこないのかな?
「美虹ちゃん。龍の道は僕がいるから通れるんだ。」
レオはリュウに導かれているらしい。他の二人も遅れずついてくる。
やがて降り立ったのは、この山の頂上近くの岩の上だった。不思議。降り立ったところには穴など見えない。
いつの間にかリュウは私の中に戻っていた。
「ちょっと疲れちゃった。」
そう言って。
「白龍は?」
ライが聞く。
「ちゃんといるぜ。ちょっと引っ込んだだけだ。」
レオの言葉に二人は頷く。私、疑われてないよね。
もう陽はかなり傾いている。
「この岩の脇で夜を明かそう。」
ライの言葉に
「ワイバーンは来ないの?」
ちょっと心配するよ。
「多分大丈夫だ。奴等の出入り口はここじゃない。」
ふうん。
町には明日の朝行くってことだね。
「腹減った。」
「俺も腹が減った。」
「おれもだ。」
「肉か?肉をくれ。」
「肉。俺も欲しいぞ。」
「静かにしろ。」
「薪を集めるぞ。」
にょろにょろが動き始めた。私もリヒテが竈を作るのを手伝う。
ライさんが袋から鍋と塩を出した。レオはどこへともなくいなくなり、しばらくすると兎鳥を捕ってきた。
「肉だ。」
「肉だって?」
「肉?」
「肉をくれ。」
「分かったからそれ以上言うな。」
めんどくさくなったリヒテが怒鳴りつけた。そんなに言わなくたってねえ・・・




