26 レオの秘密
土埃がおさまるまで待ってまたゆっくり馬車を進める。
昼は持ってきた物を皆で分けて食べた。飲み物が欲しいね。水は飲んだけど。
夕食はレオがヒーシュを狩ってきた。下処理をしているのを見て、自分がこの前狩ったヒーシュはどこにいったんだろうって思って聞いてみた。
「まだあのままだな。忘れていたな。あれも処理しねえとな。」
「腐らない?」
「袋の中は時間が進まねえから大丈夫だ。」
また一つ知識が増えたよ。
仕度を手伝いながらアルファさんを見る。何か言いたそうなんだよね・・・この前もそうだったけど。
ぱちぱちと燃える炎・・・
静かな夜・・・
「レオ殿。」
突然アルファさんがレオを呼んだ。
レオも呼ばれたのが分かると・・
レオ殿って・・・。今までの話し方と違う・・・
・・・・・
「昨日もお願いしましたが・・・フードを外してくださいませんか?」
・・・・・
勿論レオは無言だ。
「私の名前はパンテェール ノワーユといいます。」
・・・
「え?アルファさんって言ってたのに?」
私が言うと、
「部下の名前を借りました。本当は、パンテェール ノワーユといいます。15年ほど前まではシュヴァルツァー王国に使えていました。」
と言う。
でも。レオったら何でそんなに知らん顔してるの?
「シュバルツァー王国?どこにあるの?」
アルファさん・・いや。パンテェールさんは首を静かに振った・・
「ありません・・シュバルツァー 王国は15年前以上前に・・なくなりました・・・」
じっとレオを見てるね。でもレオはフードを外そうとしない。
・・・
「何でなくなっちゃったの?」
レオが無言だったから、代わりに聞いちゃうよ。
「そうですね。・・・世継ぎの王子になかなか恵まれず・・・そこにつけ込む者がいたって事ですね。」
「まさか。側妃とかがたくさん召されて、王夫妻に亀裂が入ったとか?」
「まさか。王夫妻は仲の良いお二人でしたよ。」
「じゃあ?」
「王弟・・隣国のアルテミアに留学したこともある優秀な王弟がいたんです。」
よく分かりません。いたらどうなの?
「アルテミアの推薦もあり、40を過ぎても子どもができる気配が見られなかったため、王が年の離れた王弟を世継ぎに指名したんです。」
「王太子にしたって事ね?」
火にレオが枯れ枝を投げ入れる。袋の口が少し開いて、小さな頭がこちらを伺ってる。誰もしゃべらない。ぱきん・・・木がはぜる。
「その後で王妃が懐妊したのです。」
「かいにんって?」
「お子が出来たのです。」
は?
「産まれたのは王子でした。」
「王弟と、王の息子が争ったって事?」
パンテェールさんは首を振った。
「王弟は王太子を降りると言いました。」
「じゃあ。」
パンテェールさんは私を見てため息をついた。
「争ったのは回りのものたちです。王と王弟は争う気など無かったのに。」
王弟派の宰相と、王子派の騎士団長。二人が対立したんだって。
・・・
「酷い争いでしたよ。
そんな中、王妃は産後の肥立ちが悪く、ずっと病に伏せっておりましたが、王子が2才になった頃・・亡くなり・・・王も王妃の後を追うように亡くなりました。」
後に残されたのは幼い王子と王弟である王太子。とりあえず、王太子が王として立ち・・・・・・幼い王子の後見人も兼ねる・・・
「そんな頃です。幼い王子がいなくなってしまったのです。」
・・・・
結論から先に言うと、宰相が王子を殺したのではないかと思った騎士団長が宰相を襲った・・・宰相は自分の護衛を使って団長に報復を・・・気が付いたら城のあちらこちらで王新王派と王子派が戦って・・・
そこにアルテミアが攻めてきた・・・アルテミアは初めからシュバルツァーを狙っていたのだ。
「・・・城は落ち・・騎士団は壊滅。新王はどこへともなく消えた・・・」
「王様は死んじゃったの?」
「分かりません・・・」
「王子様はどうなったの?」
「分かりません・・・」
「なんで私達にそんな話をするの?」
「・・・・・さっき騎士団を見たからですよ。見なければこのまま・・・でも・・動き出したんだと思うのです。」
・・・なにが?
「寝る時間だぞ。」
レオが言う。でも・・・
「シュバルツァーの国って黒豹の獣人国なの?」
「ええ。」
「なんでレオに話したの?」
・・・しばらくの沈黙の後、思い切ったようにパンテェールさんが言った・・
「レオさんは、ある意味有名なんです。」
「有名??俺が?」
「ええ。すっぽりマントをかぶり、どんな依頼もこなす優秀な魔法使い。誰にも正体を探れぬよう隠しているが・・・正体は黒い耳を持つ獣人らしいと・・・」
・・・またたき火の枝がはぜる・・・誰も一言も発しない・・
・・
「もう寝ます。まだ目的地まで何日かある・・・だから少しずつ話をしていきましょう。」
アルファさんいや。パンティールさんはそう言って、ラビさんと馬車に横になりに行った。
何を伝えたかったんだろう?
「レオ?」
何か考え込んでいるレオに私は回りに聞こえないようにそっと声をかけた
・・・
「もしかしたら王子様って・・・」
そう思ったけど口からだせないよ。
客人達と御者のアームさんは寝たんだろうか・・・・・
「何を考えてるの?」
小さな声で聞く・・にょろにょろ達も袋から出て珍しく静かに足下にいる。
黙って木の枝をたき火に入れながら
「おまえ達ももう寝ろ。」
って・・・
「ごまかさないでよ。」
「ごまかしだと俺も思うぞ。」
「そうだ。そうだ。」
「ちゃんと言えや。」
「肉だ。肉をくれ。」
「俺も肉が良い。」
「おまえ五月蠅い。」
「話を聞こうぜ。」
「しっ。」
レオはため息をついて私を見た。
「おい。防音の結界をはれるか?」
・・・私達の回りだけ丸く透き通った壁を作ってみた。音は漏れない・・・
「俺はな、年寄りの魔法使いに育てられたんだ。」
「どこで?」
「アルテミナでだ。」
薪を枝先でつついて火の加減をする。
「俺の名はレオパルト。父も母もいねえ。いや・・・今はおまえがいるな。」
「私?にょろにょろも。リュウも一緒だよ。」
「そうだな。」
・・・・
マントの下から1本の剣を出す。
「この剣は父親の物だったんだそうだ。」
いつも使ってる剣とは少し違う。
「オニキス?黒ダイヤ?」
黒い宝石が収まっている。
「おまえの世界ではオニキスと言うのか?」
オニキス?黒ダイヤ?の回りにはダイヤかな?透き通ったきらめきが花のように置いてある。
「これを持っていれば最後に俺の身元は分かるんだそうだが・・・」
そうだ。
剣をしまいながら何かを思いついたようで、がさがさと探っている。
「やる。」
きらりと光る・・・ネックレス?同じように黒い宝石の回りにピンクの透き通った石が花のようにはめ込まれている。
「これは母親の物だったらしい。おまえにやる。だが、人には見せるなよ。」
「お母さんの形見でしょ?そんな大切なものはもらえないよ。」
「おまえだからやるんだ。いいか。決して人には見せるな。」
私に無理矢理押しつけ、
「ほれ。止めてやる。」
少し長めのチェーンに付いた花は、たき火の光を浴びて、ちょうど胸元で光っている。綺麗。
「服の下にしとけ。」
「うん。ありがとう。」
・・・・
「寝る時間が過ぎている。明日も早いぞ。テントに入りたくないならほら、これをやるからここで寝ろ。」
そう言って毛布を投げて寄越した。
「見張りはどうするの?」
「にょろにょろ達がしてくれるさ。そうだろ?」
あしもとでにょろにょろが騒ぐ。
「俺たち役に立つ。」
「まかしとけ」
「何かあったらすぐに起こす。」
「肉だ。肉をくれ。」
「俺も肉が食いたい。」
「朝になったら肉。」
「良いから黙って見張りだ。」
レオはクスリと笑った。私も。
毛布にくるまって火を見ているうちに私は寝てしまったようだ。




