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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【4】草苅はるかは何も知らない
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7(狼)

 今朝もイエローのアクアは快調に走った。狼もどきと狐のクオーターを乗せて。

 宇都宮を過ぎてから、車線が2本に減っている。直線が多くて走りやすそうだが、あまり面白みのない道ではあった。道路の外には木々が繁茂しているが、それが目隠し代わりに残されているのか本当に森なのか、区別はつかない。……いやまあ、普通に目隠しと防音だろうな、と思い直す。梅雨の合間の青空は儚げで、遠くに薄く、名前の知らない山々が見える。カーラジオが知らないアーティストの紹介をしている。

 東京からだんだんと離れていくことに、今更のように不安な気持ちが膨らんで来た。

 その北海道の神社とやらが本当に助けてくれるのだろうか? 燈眞さんが見つけてきたのだから、大丈夫だと思いたいけれど……。そもそも僕の狼を外してしまったら、火鼠はどうなるのだろう。もともと、成人すれば自然に外れる、という話だったけれど、本当にそうなってくれるだろうか。狼から解き放たれて、またあの時のように、炎を滾らせたりしないだろうか。

 僕は公安に追われているというけれど、本当に朝の移動なら安全なのだろうか。本当にあの御札を貼ってホテルに引きこもれば安全なのだろうか。これも、燈眞さんがそう言ったのだし、なにより娘の同行を許しているのだから、それなりに安全性がある方法なのだろうと、冷静に考えればそう思うけれど……。それでも得体の知れない力に追われているというのは、気分の良いものではない。頭が大丈夫だと思っても、胃と心臓は違うと言っている。

 この感覚を、知っている。

 中学生の時に、お前には火鼠が憑いていると言われ、お前は追われていると言われた、あの時と同じ。

 その時。

 フッ、と、運転席の燈花が噴き出した。

 僕は全然聞いてなかったけど、ラジオで流れていたCMで笑ってしまったらしかった。何のことか分からないがつられて僕も微笑む。見れば燈花はすぐに真面目な表情に戻っていて、姿勢を正してハンドルを握る姿がなんだか安全運転と顔に書いてあるみたいで、今度は僕が噴き出してしまう。

「何が可笑しいんですか」

 それで僕は気づいた。

 あの時とは違うんだ。あの時も僕はこうして助手席に座っていたけれど、いま運転席に座っているのは、怪しい事案おじさんじゃなくて、燈花なんだ。さすがに怪しい事案おじさんってなんだよ。


 車の中は不思議と自然に会話が出来た。僕が引きこもっていた間の燈花の話を聞いた。この間、色々調べたとは聞いていたけれど、僕の中学までわざわざ調べに行ったというのは聞いてちょっと怖かった。愛が重い。僕は中学生のときの怪火事件の話をした。概ね、燈花が調べた内容であたっていたらしくて、それも怖かった。燈花は金沢の町並みや食べ物の話をした。その話は結構盛り上がった。僕はもっとおすすめの場所があるから次は一緒に行こうと言った。燈花は是非お願いしますと言った。ホテルの部屋に二人でいるより、車の中のほうが会話が弾む気がした。同じ方向を向いて横に座っているからかも知れない。

 自然に会話は出来たけれど、僕はまだ、自分の中で燻っているものがあった。

 この件を片付けたら、もう一度しっかり言うんだ、金沢に帰るのも良いだろう、と僕は思った。けれど、それを考える度に胸がズキンと痛む。この件を片付けたら。この件を片付けるということは、つまりそういうことだけれど。そのとき。狼を失ったそのとき。燈花はまだ僕のことを見てくれるだろうか?



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