13(占)
少年は屋上に妙な設備を広げていた。屋上の縁ギリギリに置かれたスコープ付きのライフル銃のようなものを見るに、狙撃兵みたいだが、その脇にノートパソコンらしきデバイスが4つも並んでいる(目は4つもない)。
私に向かって文句を言ったきり、彼は何やら作業に戻ってしまい、コンピューター相手に何事か慌ただしく手を動かしている。
「……劫くんこそ、ここで何やってるの?」
少年は舌打ちして顔をしかめた。
「こっちにはこっちの仕事があんの。お前は早く配置に付けよ」
「何の仕事?」
「回収班」
「回収? 伏線とか回収するの?」
少年はそれ以上答えなかった。彼がここで何かをやらされるのであれば、私の行先には無量の方がいるのだろう。ここで出会ってしまい、声をかけても多くを語らない辺りが、なんだかRPGでイベント前にマップの普通ならいかないところに事前配置されてるイベントキャラに話しかけてもあしらわれるみたいな感じだなと私は思った。そうでもなかった。
「じゃあ私、いくね」
「ああ」
非常階段にも当然、南京錠がかかってはいるのだが、錆びついて壊れている。誰も交換しようとは思わないようだった。だから階段の鉄扉は、押せば簡単に開く。
そうだ、と私は思う。
「ねえ、さっき、その道具引きずって、そこの廊下を歩いてた?」
「は?」
しかし少年は、私の行く手を指差して言った。
「その非常階段から登ったけど」
深夜のキャンパスは、さすがに無人だった。無人であるはずだった。それなのに、この視線はなんだろう。私は見られている。校舎の曲がり角の影に、植えられた銀杏並木の陰に、私を見る目がある。ずるり、ずるりと音がする。私は自分が気付いていることをそれに悟られないように、振り返らずに、あえてゆっくりと、走り出したい気持ちをこらえながら、進んでいく。
内田ゴシックの廻廊を抜けて、工学部一号館前の広場を望む。中央に聳える大きな銀杏の木を、街灯が照らしている。点々と街灯に裂かれた闇の中、蛇塚のあるべき場所は暗がりになってうかがい知れない。しかし、そこには影が立っていた。
あるべくしてそこにあり。
怪異は期待に応えた。