2(狐)
一瞬の不快な沈黙の後、街の明かりが一斉に灯ると、一瞬前まで神谷内香織であった肉の塊が、地面に転がっているのを私は発見する。
私は、その叫び声が、自分のものだと認識するのに一体何秒かかったのか、よくわかりません。ただ、肺の中の空気が全部なくなって、いったんその叫び声をやめて息を吸わなければという段になって初めて、私は自分が叫んでいたということに気づいたのです。
駆け寄って手を触れようにも、一体どこに手をつけば良いのか分からないほど、それはただの肉塊であり、血溜まりでした。
頭の中をガンガンと変な音が鳴り響いていました。深い水の底に落ちてしまって、耳の奥が圧迫されて、世界が遠ざかっているような心地でした。香織が、私の香織が、どうして。悪い冗談だと、誰かに言ってほしい。私が考えたのは、私が考えられたのは、そんなことだけでした。
「いやあ、めちゃくちゃだな」
声がしました。
「もうめちゃくちゃだよ、全く」
音もなく背後に立っているのは、よく知っている人でした。
やっとのことで私は喉の奥から声を絞り出します。
「お、お父さん」
父は呆れた顔をしていました。
それは。
その顔は。
その顔を見て、私はすべてを悟りました。
「これはやり過ぎだよ。二色」
それは、母に対して呆れている時に、父がよく見せる表情だったのです。