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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【2】稲荷木燈花は貴方が知りたい
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 携帯電話が震えています。


 非通知設定。


 私は普段非通知の着信を受けたことなんてありません。

「もしもし」

「燈花。僕だよ。頼みがある」

 それは、香織の声でした。

「もう夕方になるのに悪いけれど、少し来てくれるかな」

 そう言って香織が指定したのは、香織の家の近くの、私も知っている場所でした。


 *


 逢魔が時、というにも少し遅い、薄暗がり。

「夜遅くにごめん」

 ベンチに腰掛けていた神谷内香織は私を見て立ち上がり、言いました。

「頼みって何ですか、こんな時間に」

 日は長くなりつつあります。それでももう少しで完全に沈むでしょう。

「現場検証がしたくてね」

「現場検証」

「宿題といってもいい」

「宿題」

「今回の一件に関して、残りの宿題だよ。ここで僕が撃たれたわけだけれど。この辺りかな?」

 そういって香織は、ちょうどあの日、私に飛びかかったあたりに立ちました。

「角度がどうだったかを教えてくれる?」

「角度ですか……」

「どちらから撃たれたか」

 私は、私が倒れていた位置に移動します。

「ちょうど私がここにいて、こう見上げる形で、その時に香織の肩を弾が通りました。でも撃たれた角度まではわかりません。血はこう、こちらへ噴き出したのを覚えてますが」

 香織は真剣な顔をしてそれを聞き、周囲を見渡しています。

「どこから撃たれたかを考えているのですか」

「そうだね」

 私も振り返って見渡します。

 この公園は坂のなかばにあり、上の段と下の段二つにわかれ、我々がいるのは上の段です。私の背後にはある程度開けた景色が広がっており、公園の向こう側にある民家のどれもが、狩人が猟銃を構えていた場所として考えうるといえるでしょう。

 むしろあの瞬間私が振り返って後ろをみる余裕があれば、たちどころに狩人の居場所が知れたのではないかと思います。いや、それもかなわなかったでしょうか。あたりは暗かったですから。

 頼みというのはなんなのでしょう。ここで狩人の正体について検討するということなのでしょうか。

 もちろん私も狩人の話が気にならないわけではありません。しかし、先程母にお願いをしました。母がいれば、それに藤木先生も帰ってくるとなれば、この問題はいずれ解決できるだろうと私は期待しています。だからここで、私達が勝手に動くべきではないのではないか、というのが私の直感でした。

 あたりは大分暗くなってきました。しかし、それでも街は所詮街であり、その明かりは結構なものです。街頭の明かり。民家の明かり。公園の明かり。私は夜目も普通の人間よりも効くようですし、これなら狩人がどこからか狙っていれば見分けられます。

 そのはずでした。

 私は最初、立ちくらみか何かかと思いました。

 音もなく、光が消えていきます。

「なに、これ……」

 香織のつぶやきが、光とともに消えていくようです。

 街が一角一角、スイッチを切るように、光を消していきます。

「停電……?」

 そんな停電があるでしょうか。まるで送電経路を一つ一つ落としていくように、街が切り取られ、明かりを失っていきます。

 最後に残った公園の白い電灯が消え、あたりは闇に落ちます。

「香織?」

 香織の姿ももちろん見えなくなります。

「香織? どこですか?」

 月明かりはありますが、さすがにまだ目が慣れません。

 と。

 香織の姿が浮かび上がりました。

 赤い光の点によって。

 一つ、また一つ、赤い光の点は次々に灯り、香織の胸で揺れます。

「なん、これ」

 胸騒ぎと、私が叫ぶのと、ほとんど同時でした。


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第二部 『稲荷木燈花は貴方が知りたい』 完


■参考文献

狼の民俗学―人獣交渉史の研究 菱川晶子(著) 2009 東京大学出版会

石川県の民話 日本児童文学者協会(編) 2005 偕成社

室生犀星詩集 室生犀星(著)、福永武彦(編) 1968 新潮社

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