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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【2】稲荷木燈花は貴方が知りたい
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 梅雨の気配がしてきた曇天に、いびつな階段を登ります。三階まで登るだけで、もうバテそうです。空気が湿って、じっとりとして、これから夏が思いやられます。

「おや、燈花ちゃん、今日は登校?」

 研究室に上がると、今度はみとはち先輩が一人でした。

「私、不登校というわけでは……」

「いやでも、昨日いなかったでしょ? バウジンガー」

「あ、はい……自主休講です」

 バウジンガーの『科学技術世界のなかの民俗文化』を読む授業で、これがなかなか面白いのですが、背に腹は代えられませんでした。

「自主休講って、大教室で百人くらいいる授業でやるもんだと思うけどねぇ。まいいけど」

 確か履修登録者が5人くらいだったはずです。先生には今度謝っておきましょう。

「みとはちさん」

「ん」

「この間は、ありがとうございました」

 私は頭を下げました。

「え、なんだっけ」

「占いの話です」

「ああ、香織っちの下着の色の話」

「下着の色の話ではない」

「今は……白だね」

「詳細をお願いします」

「下着の色の話ではないよ」

 確占状態なのですからちゃんと占ってほしいものです。

「ともかくみとはちさんのお陰で先生と話ができました」

「おー、それはよかった。センセーに聞きたいこと聞けた?」

「聞けませんでした」

「あれ」

「だから自主休講(サバティカル)していたわけですが」

「サバティカルではなかった」

「それ、地の文でやるんですよ」

 こんな感じで。

「そんな感じと言われても、今回は地の文を使えるのは君たち二人だけだからさぁ」

 メタいことを言わないでください。

「どうも私ら二人だと話が滑るねえ」

「みとはちさんがメタい話をしすぎるからです」

「それでぇ」

 みとはちさんが眼鏡を上げました。

「香織っちのことは大丈夫だった?」

「いえ……私なりに調べてみましたが、仮説止まりです」

「仮説かぁ。下着の柄の話?」

「下着の柄の話ではない」

「じゃあ香織っちが実は狼とか」

 え。

「え?」

 え?

 眼鏡の奥でみとはちさんが笑いました。

「占い師だからね、(にんげん)(おおかみ)かくらい見えてるって」

 ……。この人何者なんでしょう……。

 けれど、私はなんだか、それによって一気に緊張が解けたような気がしました。メタな話ができる人、香織が狼であるというところまで知っている人。そういう存在であれば、自分の仮説を話すことに抵抗がない、そう思えたのです。


「みとはちさん、私の仮説、聞いてもらえますか」


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