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「つ、津幡先生」
思わぬところで同僚を目にした私は、驚いて咳き込んでしまったのだった。
「あれー。びっくりですねー七尾先生。いつのまに」
津幡愛。同僚と言えば同僚だが、教え子と言えば教え子だ。近くの大学の教育学部から来ている教育実習生である。
担当教科は英語なので私が直接授業を見てはいないのだが、そこここで様子を見かける限りでの印象は、『肝が据わっている』だ。生徒相手に物怖じしないのはもちろんのこと、ベテラン教員たちからの厳しいご指導も何のそのといった風情で、飄々としているその様は職員室でも話題であった。明るい性格で、生徒たちには親しみやすい先生として評判のようである。愛ちゃんとか呼ばれている。そういう親しみやすいキャラは良し悪しで、得てしてベテラン教員からは小言を言われまくるものなのだが……。友達感覚じゃ困るんですよ、とか。しかし、彼女はものともしていない。
「七尾先生さっきまだ職員室いたじゃないですか。瞬間移動ですか? トランスポーテーションですか?」
「英語教師なのにカタカナ発音なんだ……」
「ノンノン、勤務時間外アルヨ」
何人設定だ。全く食えないやつだなと私は思った。
「超スピードの移動なんですか? Bダッシュですか? いや、それとも二人いるとかですかね。七尾だけに」
「……どういう意味です」
「いや、どっちかが偽物ってことですよ。狐に化かされてる、みたいな」
「ああ、九尾の狐で、七尾ね」
わかりにくいボケですが、鋭いですね……。
「ま、それは良いんですけど。あ、海鮮カレーお願いしまーす」
「……津幡さん、ここ、ひょっとして常連?」
「まあ。地元ですし」
「このあたりの出身なんですか」
「そうですよ。錦ヶ丘だって、私、卒業生ですし」