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本日も北陸新幹線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この列車は、かがやき号長野経由金沢行きです。全車指定席で、自由席はございません。
私はグリグリとスジャータのアイスにスプーンを突き立てました。硬すぎます。まだ早い。急いては事を仕損じるぞ。祖父が幼い私によく言った言葉です。
諦めて鞄の封筒から書類のコピーを取り出します。履歴書。これコピーさせてもらって良かったのでしょうか。いや絶対駄目です。個人情報そのものです。
氏名 神谷内香織
生年月日 平成×年×月×日
現住所 東京都北区×××××
学歴
平成××年 ××市立錦ヶ丘中学校卒業
平成××年 茗溪女子大学附属高等学校入学
平成××年 同卒業
平成××年 東央大学文学部人文社会学科入学
出身高校についても出身地についても私は本人から話を聞いたことがありますが、改めて履歴書の上で見ると、やや珍しい経歴であると言えるでしょう。茗渓女子大付属は国立にして小学校からの一貫教育校です。調べた所、高校での内部進学の比率は八割近く、そこに受験して入るのは相当狭き門のようです。まあ、聡明な彼女ですから、それはいいのですが、重要なのは常に、動機です。
なぜ、東京の高校に進んだのか。
東京の大学に行きたいという気持ちは説明がつくでしょうが、東京の高校というのは。北陸から飛び出してくるのには遠すぎやしないでしょうか。親の事情でしょうか。しかし彼女は一人暮らしです。
それほど中学校でなにか、重大なことが、あったのでしょうか。
藤木先生の言葉を思い出します。先生は、彼女の問題に関わったのは、彼女が中学生の頃だと言っていました。
それが中学校であった、重大なことなのでしょうか。
その程度の直感で、私は新幹線に乗っています。まあ、スジャータのアイスが食べたかったからというのもあります。私はアイスにスプーンを滑らせました。薄く削られたアイスの表面を口に運び、私は微笑みます。急くほどに美味しくなるのです、と私は祖父に反論します。祖父なんて会ったこともありませんが。
履歴書が手がかり一であるとすれば、手がかり二は私の携帯電話の中にあります。
さて、手がかり二を画像フォルダから探しましょう。