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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【2】稲荷木燈花は貴方が知りたい
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 一人になった部屋で、これから私は電話をかけます。布団の上に座って、懐からスマートフォンを取り出します。液晶の表面を指でなぞり、そのロックを解除します。


 これから、私は二本、電話をかけます。


「もしもし」

 だるそうな声でした。

「稲荷木です。みとはちさん、いまお話できますか」

「ああ、燈花ちゃん。もちろんできるけれど、どうしたの、電話なんて。珍しいね」

「みとはちさんにどうしてもお願いしたいことがありまして」

「燈花ちゃんが『お願い』だなんて、それこそ珍しい。面白そう」

「はい。聞いていただけますか?」

「話を聞くよ。お願いを聞くかどうかは、中身を聞いてからだね。私はなんでもいうことを聞くなんて言うほど、無責任なキャラじゃにゃから」

 みとはちさんはかっこいいセリフを噛みました。

「はい。実は、藤木先生と連絡が取りたいのです」

 電話の向こうに、一瞬の間。

 おそらくは噛んだことを自分で拾うか迷っているのだと思います。

「……あの人と。連絡が取りたい。急ぎで?」

 拾いませんでした。

「そうです。大学のメールは、どうもほとんどチェックしていないようですし、送ってもいつ返事が来るかわかりません。それに、込み入った話なので、できれば電話で話したいのです。あと、みとはちさん今かっこいいセリフなのに噛みましたね」

「鬼だな」

 電話の向こうでみとはちさんが崩れ落ちる気配がしました。

 鬼じゃないですよ。

 狐です。

「まあ、いいや……噛みましたよ……ともかく、まずはお礼を言おう、燈花ちゃん」

「お礼」

「私がセンセーの連絡先を知っていると思ったわけじゃないよね」

「はい」

「つまり燈花ちゃんは、私ならセンセーの連絡先を()()()()()()()()()()()と期待しているわけだ」

「そうです」

「ありがたい話だね」

 電話の向こうで、カタカタと音がします。

 猛烈な速度で。

「私がかけることができる電話番号があればベストです。そうでなくても、立ち寄った施設、例えばホテルだとか、海外の大学だとか、そう言った情報が少しでもあれば、助かります。力を貸していただけないでしょうか」

「おーけー。いまやってる」

 電話の向こうでなる音はキーボードでしょう。銃でも撃つみたいな連続した音。一瞬の間。また連射する音。

「この間、香港にいたことはわかっている」

「はい。みとはちさんはあれを即座に特定したので、今回も何か分かるのではと思ってお願いしているのです。あれはどうしてわかったのですか」

「写真に映り込んだバスに、見切れ気味だったけどKMBって書かれてて」

「KMB……」

「何の略か分かる?」

「……釜めんたいバター」

「なにそれ」

「釜めんたいバターです」

「釜めんたいバター」

「香織の二つ名です」

「香織っちにそんなボリューミーな二つ名が」

「常連だそうです」

「あ、そう……」

「すみません」

「ああ、うん、九龍(カオルーン)モーターバスでKMB」

「なるほど」

「写真に写った町並みからは結構手がかりが少なかったよ。中国語っぽいのが写っていたけれど、まあチャイナタウンとか世界中にあるし。結局絞り込みは固有名詞が強いんだよね」

「すごいです。私はてっきり占いかと思いました」

「占いは、使わなくてもいい時には、使わないに限るんだよ。まそれにしても、香港にいたというのとは結構前の話だからねぇ。今どこにいるかは改めて検討する必要がある」

「はい」

「……けれど、どうして?」

「先生と、お話したいことがあるのです」

 それは答えにはなっていません。

 みとはちさんの質問に、私は正面から答えていません。

「ふうん……」

 キーボードの音がすっとやみました。

「香織っちのことかぁ」

 この人は、本当に占い師なのだろうか、と私は思います。

「……はい」

「いいよ、詳しい話は聞かずにおくよ。何やら込み入った事情があるわけでしょう。その代わり、いつか私が燈花ちゃんの持っている情報を必要にした時は、その時は協力してね」

「……ありがとうございます」

 やっぱり、みとはちさんは優しい人です。

「読みあげるよ」

「え」

 え?

「もうわかったのですか」

「さすがに携帯の番号は無理かなぁ。だから泊まってるっぽいホテルの番号」

 みとはちさんが読み上げた番号は。

 国番号40。ルーマニアでした。

「幸運を祈るよ、燈花ちゃん」


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