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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【2】稲荷木燈花は貴方が知りたい
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 ゼミ室への階段を登りつめると、胃が気持ち悪くうねりました。不安七割、期待三割といったところでしょうか。

「おはようございます」

 寒気がしました。

 ゼミ室にいたのは草苅さん、一人だけでした。

「おはよう」

「エアコン、つけたんですか」

 部屋に取り付けられた大型のエアコンが鈍い音をたてて、部屋に冷たい空気を吐き出しています。節電で利用禁止だったと思いましたが。

「さすがに暑すぎるから」

「まだ五月ですが」

「許してよ。こうも暑いと勉強にならないもの。私、最近体温調節が苦手で」

「はあ」

 だったら図書館とかで勉強しろという話だと思いますが、私は言わずにおきました。ゼミ室のほうが落ち着くというのはわかります。

「ああ、でもごめんね燈花、急だったから連絡できなかったんだけど、今日のゼミは休みね」

 私の胃は不安七割の方向に向かって落ちました。

 エアコンが鈍い音をたてて、私に冷たい空気を吐き出して来ます。寒気がしました。

「休み、ですか」

「発表者不在だから」

「今日の発表者は」

「知ってるでしょ。あなたの次。香織」

「休み、なのですか」

「しばらく休みます、って一言だけ来たよ。具合悪いのかって聞いたけど、返信も来ない」

 私には、一言も来ていません。

「悪い子だねぇ。学校には、死んでも来なきゃ」

 草苅さんはそんなことを言って、気だるそうに自撮り棒をいじりました。自主ゼミはそこまで重要だったのでしょうか。しかし、そんな言葉も、私の頭には入ってきませんでした。

 だって。

 私には、一言も来ていません。


 結局その日から。

 神谷内香織は大学に一切姿を見せなくなりました。

 サバティカルではありませんでした。


 私はいよいよ行動する必要があると思いました。


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