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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【1】神谷内香織は自分を知りたい
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 なぜ自主ゼミか。

 僕たちの担当教員であるところの藤木先生が、もう二ヶ月も大学をあけているからだ。サバティカル休暇だそうだ。僕たちにそれを通知した教務課によれば、失踪癖があるとのことだった。失踪はサバティカルではなかった。

 先生の専門は西洋の半人半獣伝承。特に、人狼。ゲームに出てくる、村人を襲って、逆に村人に処刑されて、占われたり狩人に阻まれたりするやつ、あれだ。ルーマニアの山奥とかそういう所に行っているのではと巷で噂である。ルーマニアの山奥に何があるのかは知らない。どちらかというと人狼よりも吸血鬼とかがいそうだが、どうだろう。生きて帰ってくるといいのだが。帰ってきてくれないと僕たちの学位はどうなる。

 だが、先日みとはちさんのパソコンに連絡してきた時に添付されてきた自撮り写真は、背景の町並みにどう見ても中国語が映り込んでおり、みとはちさんが即座にグーグルマップで香港であることを特定していた。ルーマニアの山奥ではなかった。研究室に席が残っているうちに帰ってくるといいのだが。帰ってきてくれないと僕たちの学位はどうなる。自撮り写真の藤木先生は無精髭でマンゴータピオカジュースを吸っていた。ルーマニアの山奥ではなかった。あとみとはちさんは、先生が使用している自撮り棒のモデルも無意味に特定していた。ブルートゥースでシャッターが切れる、ちょっといいやつだった。みとはちさんはそれをほしい物リストに登録して、「はるかぁ」と言った。草苅さんがにこにこしながらスマホをいじっていた。僕はちょっと引いた。お急ぎ便だった。みとはちさんがはるかは悪くないのだと言った。悪いのは貴方だ。三日後、飽きられた自撮り棒はゼミ室の棚に安置された。

 授業に関しては他の科の教授陣もいるし、頼れる院生とかもいるし、まあなんとかなるのだが、それにしたって勉強できることが少ないではないかということで、学部生だけの自主ゼミも始めることにした。というか真面目な草苅さんが勝手にそう決めており、何しろ学部生は四人しかいないし、僕だけ参加しませんというわけにもいかない。

 始まりはそんなだったが、これがなかなか面白い。

 順番を決めて各自文献を持ち寄り、それについて検討や文献調査をしていく。今のところフィールドワークまで行くほどの熱意と資金力が足りていないが、それでも毎回盛り上がって、僕は楽しかった。まあ、最初の目的意識からすれば、かなりラフな会になりつつあり、学科の外の友達とはなかなか話せないマニアックな話をする場、と化している感もあったが。いやマニアックな話にすらならずただお茶とお菓子でだらだらしている可能性さえあったが。というかさすがに自主ゼミって言ったって本当に学部生だけしかいないんじゃゼミなのかどうか甚だ怪しい。ただの自習グループである。猫の集会と変わらない非合法組織である。だからこそ楽しいのかもしれない。せっかくゼミに入った瞬間に藤木先生がどっかへ行くと聞いて初めはかなり落胆したけれど、今は毎週楽しみだった。


「今回の私のは、ちょっと皆さんのとは違うのですが」

 そう言いながら今回の担当である燈花が資料を配った。A4の分厚い紙束がホッチキスで止まっている。

「あれ、文献じゃないの?」

 配られた資料は文献のコピーとかではなく、パソコンから打ち出したもののようだった。最初のページはレジュメのようだったので、初めの数枚だけがレジュメなのかと思ったが、最後のページまで同じ調子の印刷だ。

「はい、実は今回のお話は、私が収集してきたものです」

「え」

 一同固まった。

「収集してきた?」

「はい」

 燈花は普通の表情で言ってのけた。

「これは××県の××という地域に伝わっている民話です。先週のサバティカルを利用して、行ってきました」

 それは多分、サバティカルではなかった。

 ゴールデンウィークだ。


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