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都会行きの列車は空いていた。
「それで?」
隣に座る幼女は、今は尻尾も生えていなかったし、ちゃんと服を着ていた。それでも金と白の髪はかなり目立った。
「都会でどうやって生きていくつもりじゃ」
その喋り方はなおさら目立つなぁと僕は思った。
「まあ、とりあえずともかく仕事を探して……」
陰陽師でも生活が成り立つのだから、都会に行けば仕事はいくらでもあるだろうと僕は高をくくっていた。できれば学校にも行きたいと思った。
「せいぜい頑張って働け、儂は大食いじゃぞ」
そう言って、彼女はフヒッと笑った。怪しかった。妖しいじゃなくて。
列車の外は同じような山の風景が延々続いていたが、一秒ごとに、僕たちは村を離れていく。
「そういえば、儂の変身はどうじゃったかな?」
ニヤニヤしながら言う。
「もうなんか、さすがというか、本人って感じだったな」
僕は答えた。
僕と父が対峙し別れたあの朝、彼女がどちらに化けていたのかは、二人だけの秘密だ。
『二色の狐面』 完
初出:小説合同誌『望郷』 ねじれ双角錐群
(2016年11月23日 第二十三回文学フリマ東京にて頒布)