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父より一本遅れのバスを捕まえて村に戻ると、宴会が催されていた。
僕はそんなもの出たくはなかった。酒は飲めないし、祝う気持ちになんかなれやしない。結局僕は、あの妖狐に拒絶され、御札を剥がさずに帰ってきたのだ。効かない効かないとは言っているけれど、常人とは異なる力を持つ存在ではあるけれど、そうはいっても洞穴の中、頭を地面に押し付けられたまま、そう何日も生きられるものだろうか。餓死、するのだろうか。妖怪だからそんなことはないというのは、希望的な観測であり、同時に絶望的だった。死んでも死ななくても、そんなの地獄じゃないか。
しかし、宴会が催されているのが村唯一の旅館(ほとんど民宿)であり、僕らの宿もそこであるからして、回避は不可能だった。結局宿のおばさんに見つかり、宴会に放り込まれた僕は、極めて不快なものを目にすることになった。
父である。
父と、あの女の子である。あの村の女の子が、父に寄り添い、かしずくように、酒を注いでいる。頬を上気させ、潤んだ目をし。
「それでな、燈眞のやつはふっとばされて、俺も危うく、右手を持って行かれかけたが……」
誰がふっとばされたって。
「だがな、俺もこれでも色々と修行をしてきたから、視えるんだよ。やつの攻撃がな。目を閉じると、どちらから来るのかがわかる。それを巴投げよ」
そんな大立ち回りはなかった。
「こんな巨大な熊みたいな狐だ。嘘みたいだろうが、コツがあって、どんなに重くても投げられるのよ」
嘘だった。
「すごーい、やっぱり陰陽師って、かっこいいですね!」
「ああ、それにここだけの話、結構稼げるんだぜ」
僕は恥ずかしかった。
逆に。
酒に酔った父親の姿も、その仕事の内実がもはや取り繕いようもなく正義とはいえないものであることも、そして自分も何もかも。恥ずかしかった。
なんだかとっても、気に入らなかった。
母のことを思い出した。実際に妖怪退治に立ち会うまでは、辛いだろうが父に従って陰陽師の修行を続けよと言ったのは母だ。本物を見ろ。体感してから決めろ。
だから僕は、家を出ようと決意した。