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今日は僕にとって初仕事の日である。稲屋燈眞、十六歳、初仕事。これが仕事と言えるのかどうか、僕は正直なところわからない。しかし、僕の父はそれによって一応の生計を立てているのだし、僕としても父親の仕事は何かと問われればそれを答えるしかないのだし、これはやはり、仕事なのだろう。
「君も陰陽師なの?」
「……まあ」
曖昧に答える。うしろめたさが、口から出る音を曖昧にする。
「うわぁ、かっこいい! よろしくね、陰陽師くん」
僕より少し年上のように見える、村の女の子が言った。けれど年上のように見えるのは、服装とか、髪型とかが、ちょっとだけ都会っぽいからかもしれない。いや、この村を都会と言ってしまうのは、語弊がネギを背負ってくるような話だが、けれどこういう格好の女の子は、僕の住んでいる超ド田舎の村には絶対にいない。今日泊まる宿の看板娘だそうだ。
そんな可愛らしい女の子にかっこいいと言われるのは、やはりちょっと、照れる。
「あの、名前、稲屋燈眞って言います。……陰陽師って、かっこいいわけ?」
照れ隠しもあって、少し呆れ気味に聞いてみる。
「かっこいいよ、逆に!」
「逆に」
「なんていうかさ、イマドキ陰陽師かよ、みたいな」
「それ、かっこよくないよね」
「だから、逆に」
「逆」
「あらゆる困難が科学で解決するこの平成の時代――」
僕は照れた。逆に。
平成である。昭和は遠くなりにけり。平成にもなって、陰陽師をやっている父に連れられ、僕は初仕事に赴くのである。同年代の女の子なんかと話すと、その浮世離れした感じを噛み締めずにはいられない。
……今日、僕は見極めようと思っている。陰陽師なんてやっぱり無理だと思ったら、家を出るつもりだ。その決意を持って来た。
目を閉じていた父がのそりと立ち上がり、言った。いたんだ。
「ゆこう」
そういうことになった。