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「そういえば、香織はゴールデンウィークは何をしていましたか?」
イルカショーの開始を待つ。ちょうどいい時間だったので、入場してすぐスタジアムに来た。
「いや、たいして何も……」
「え、香織ってひょっとしてつまらない人間なのですか」
「あんまりだ」
「しらす知識が著しく欠如している上、ゴールデンウィークも無為に過ごしているなんて」
「それを並べるな」
スタジアムにはそれなりに人が多く、直前にやってきた僕たちの席は端っこだったが、濡れる心配がないからそれで良かろう。中央のプールは相模湾をバックにして、左手にはさっきまでいた江ノ島が伸びている。
あれ。
何で水族館に来ているのだ。
新江ノ島水族館。
休日に二人で。
デートかよ。
隣に座る可愛らしいワンピースの女の子からいいにおいがする。
「あ、イルカあそこにスタンバイしてる」と彼女が言った。
かわいい。
デートだった。
「まあ、読みたかった本を読んだり、やらなきゃいけない雑用を済ませたり、買い物したり、だらだらしたり、そんな感じだよ。特に遠出したりはしなかった」
実際、山奥の村を訪れて民話を収集し、小中学生の都市伝説を収集してきた燈花と比べれば、大変つまらない連休を送ったものだとは思う。つまらない人間は言い過ぎである。酷い。
「燈花は連休中ずっと××に行ってたの?」
「はい、まるまる一週間」
「すごいな……一人で行ったんでしょ?」
「そうです。なかなか大変でしたよ。いきなりやってきた怪しい大学生に話をしてくれる人はあまりいませんし」
「え、知り合いとかもいなかったの?」
お父さんの実家があるけれど親戚づきあいがない、とは言っていた。けど。
「はい。ゼロではないですが、まあ、あまり。私の苗字も知らせないほうが良さそうでしたから、偽名を使いましたし」
偽名。
偽名を使うほどまずいのか?
僕は躊躇する。
口を曖昧にぱくぱくする。
偽名を使わなければならないような出来事が。
「まあ、偽名を使ったというのは嘘ですが」
「嘘は良くない」
嘘かよ。力が抜ける。燈花が少し申し訳なさそうな顔をする。申し訳ないなら嘘をつくな。
「みなさーん、こんにちはー!」
大きな音と声、楽しい音楽、大ジャンプするイルカたち。ショーが始まった。
「始まりましたね。あ、イルカが……ゴンドウが……」
燈花が身を乗り出す。楽しげに髪が揺れる。最高案件だ。