13
「私はこのしらす二色丼というのにします」
「二色? 何色と何色?」
「白と白ですよ。しらすですからね? 紅白とか金白とかにはなりませんよ」
「両方しらすってこと?」
「そうです。釜揚げしらすと生しらすです」
「なるほど……」
「香織はしらす知識が少なすぎるのでは?」
僕は確かにしらす知識が不足していたが、それをなじられるのは理不尽だと思った。僕も同じしらす二色丼にする。
江ノ島につくとお昼時だったのである。僕と違ってしらす知識が豊富な燈花がしらす丼を食べるしかありませんというので僕たちはこの店に入った。
程なくして運ばれてきたしらす二色丼は素晴らしかった。
「いただきます」
声を揃える。
うどんもそうなのだけれど、僕は燈花と食事をするのが好きだ。なんか楽しそうだし、一緒に食べると、少し距離が近づくような気がする。本当は、それほど話をしなくても間が持つからというのもあるかもしれない。お互い口数が多いというわけではない。
純白肉厚の釜揚げしらすと、透き通る白銀の生しらす。出汁の効いた醤油に生姜と大根おろしを溶いて、タップリとかける。やわらかな釜揚げしらすの塩み。さわやかな食感と甘みの生しらす。追いかけてくる生姜の香り。
「おいしい……」
僕の口から、素直に言葉がこぼれ出た。
燈花も一口食べて、目を輝かせている。
「最高案件です」
その笑顔はふにゃふにゃで。初めて会った時、僕が同じゼミに入ると知った時の彼女の喜び方を、僕はすごく控えめでおしとやかだと思ったのだけれど、そこからは想像の付かない破顔っぷりで。
江ノ島の縁結びの神様よりも、美味しいご飯のほうが効くんじゃないかな、と僕は思った。
そのあと僕たちは江ノ島神社に実際に参拝して、これが縁結びですとか燈花が熱心にしゃべっていたけれど、僕は正直、燈花のあの笑顔の「最高案件です」のほうが最高案件だったと思っている。
保存したい。