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ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~  作者: 笹帽子
【1】神谷内香織は自分を知りたい
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 快速アクティー熱海行き。東京駅で乗り換えたのはそんな電車だった。

「え、熱海行くの」

 焦る。熱海の温泉宿とかだろうか。それは確かに一線を超える気がする。巨大な東京国際フォーラムがゆっくりと流れていく。

「そこまでは行きません」

 一線は超えないらしかった。助かる。

「じゃあ、横浜あたりまで?」

「横浜よりはもっと先まで行きます。具体的には大船まで」

「どこだそれは」

 私は神奈川方面の地名には疎かった。電車が品川を出る。

「ここが東京だとしたら」

 燈花が空中を指差す。

「ここが品川で」

「わかる」

「この辺りが川崎」

「……わかる」

「この辺りが横浜で」

「わかるよ」

「こう下って大船」

「ごめん、わからん」

「そしてここが一線」

 ぴっと線を引く。

「なにそれ」

「ここから先は、めくるめく大人の世界です」

「ええ……」

「まだ学生である私たちには早いと思います」

「そうだね」

「香織はそういうのに興味はありますか?」

 熱海。うーん。よく広告が出てくる貸し切り露天風呂とかそういうやつか。ちょっと憧れないでもないけれど、お泊りはちょっと困る。真面目に申し上げて、僕が燈花を襲ってしまう危険がある。

「まあ、全く無いとは言わないけれ」

「ヘタレですね」

 かぶせ気味だった。

「何が」

「まあいいでしょう。そして一線(さがみがわ)を超えるとここが平塚」

「いまなんか器用な発音を」

「さらに小田原」

「あの」

「ぐーんと伸びて、このへんが熱海です」

 最終的に燈花の右手は下方にピンと伸び、ペンギンみたいなポーズになった。


 今日の燈花はいつもより元気な気がする。いつもよりよく動く目、微かに上気した頬。いつもよりかわいい。


「燈花、何かいいことあったの?」

 燈花はゆっくりと、不思議そうな目で首を傾げる。

「……別に、そういうわけでは」

 電車が新橋を出る。


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