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自分ほど信用ならない存在はこの世にないだろう。
自分を理解しなければならない。監視しなければならない。制御しなければならない。
そうしなければ、そいつは、自分の大切なモノを、損なってしまうから。
一人の学生が目に入った。
気だるい昼下がり。
いまいち爽やかとはいえない半地下の食堂。
二週間前よりは、ややましになった学生たちの喧騒。
お昼を一足早く食べ終わった僕は、図書館で時間を潰そうかと階段を登っていた。
何気なく、本当に無意識に、ふと階下のホールに向けた視線が。
奪われた。
僕の目は、彼女に釘付けになった。
喧騒が一気に遠ざかる。視野が、意識が狭窄する。彼女の姿以外の全てが、意識から消える。
手をやや大きく振って、軽やかな足取りで歩く女子学生。
赤いネクタイにブラウンのジャケット、それと合わせたパンツルックは、いかにも彼女が着ていそうな服装だ。いつも同じ所が跳ねている短い黒髪、いや、光の加減によっては灰色にも見える、不思議な色合い。そしてよく動く大きな目。
それは間違いなく。
間違いなく、神谷内香織、その人であった。
つまり、僕はその日、学生食堂の吹き抜けから。
僕自身を目撃した。