底辺高校の鈴谷さん その7
鈴谷さんは問答無用
放課後、学校からの帰り道に息をするように他校の不良に絡まれる後輩を見つける、横に目をやれば鈴谷さんはもう駆け出している、あれ絶対頭使わずに行動してるわ。
鍛えられ、引き締まった鈴谷さんの体は猛スピードで後輩の助けに向かう。
不良の大将格の大男が駆け寄る鈴谷さんに気がつく、スキンヘッドにでっぷりとした体に厳つい顔、まさに番長といった風体だ、その男が叫ぶ。
「おまえが鈴谷だなぁ!俺の舎弟共がずいぶん世話になってるそうだなぁ!!俺は女子供だからって容赦しウボォア!!!」
勢いのまま繰り出された鈴谷さんの飛び蹴りは番長の鳩尾にめり込む、番長は少しピクピク痙攣した後ばたりと倒れた。
「我、TUEEEEEEE」
せめて最後まで喋らせてあげてよ。
鈴谷さんのバレンタイン
鈴谷さんの机の上には山のようにチョコを中心としたお菓子が積みあがっている。
「うわ、みぃこケーキまであるじゃん!」
「うぬ、痛む前に皆で食うとするか」
鈴谷さんは女の子からとことん人気があるし、過去に助けた男子生徒なんかからもお礼の意味でチョコを貰ったりするもんで、毎年とんでもない量を貰うそうだ。
「こんな量のチョコ食べきれるの?」
「ぬ?勿論一人で全て食いはせぬが道場での稽古後の糖分補給などに役立たせてもらってる」
僕がボーーっと机に積まれたお菓子を見ていると。
「ほら、喰え」
まるで山賊が杯を差し出すようにチョコレートを渡してくる鈴谷さん、僕はチョコレートが大大大大大好きなので超嬉しい。
ニッコニコである。
太田くんのバレンタイン
授業も全て終わり帰り支度の最中、隣のクラスの太田君に呼び出される。
イケメンなだけあって左手には大きなビニール袋一杯にチョコを中心としたお菓子が詰め込まれている。
「ごめんね帰り間際なのに、これ良かったら食べてくれないかな」
そういってビニール袋からでは無く自分のスクールバッグの中から包装されたチョコと思しき物を取り出す。
「こんなに貰っちゃったからね、一人じゃ食べきれないから手伝って欲しいんだ」
爽やかに笑ってお菓子を差し出す太田君。
う~~んと考えた後、欲しいけど僕が食べたら大田君にあげた人怒るんじゃないかな?と訊ねる。
「え?いや、これはその、ほら、友チョコみたいなので交換しあったみたいな奴だから、そう、だから誰目当てで渡したとかじゃないんだ、だから」
なんでちょっと焦っているんだろう、顔まで赤くして、まぁチョコ貰えたし超嬉しい、ニッコニコである。
雨の日
窓の外は薄暗くガラスをすり抜けて伝わる冷気が肌を震わせる。
今日は何時も会話の中心にいる糸田さんが風邪で休みなのもあって、僕も鈴谷さんも物足りなさで浮ついた気分になる。
キーンコーンカーンコーン
「じゃあ今日はここまでね、明日やる所少しややこしいので予習しといてね」
4時間目終了のチャイムが鳴ると僕達は決まって屋上へと続く階段で屯していた、僕が昼休みの雑踏が苦手なので毎日この場所で食事にしている、今日はここに二人きり。
「帰り道にいっちゃんの様子を見に行くが一緒にどうだ?」
僕はう~~んと考えた後にフルフルと首を横に振った。
「そうか・・・」
そう言いながら鈴谷さんは食べ終えた弁当箱を片付ける、僕も鈴谷さんから少し遅れて食事を終えると片付けをした。
それから暫くは特に会話も無く、だからと言って居心地が悪いわけでも無い、ただ寂しい雨音だけが薄く聞こえる。
「・・・なぁ」
不意に少し言い難そうな声音で鈴谷さんが問いかけてくる。
「ここに座ってみてくれないか・・・」
階段に足を下ろすように腰掛けていた鈴谷さんがポンポンっと自分の太ももを叩く。
「・・・嫌か?」
武士に夜這いされている町娘の気分だ、別に嫌ではないのでポンっと僕の小さな体で鈴谷さんに甘えるように座る。
「ふぉ・・・・本当に座るとは・・・」
驚いた鈴谷さんに、してやったりと微笑みを向ける。
「少し、恥ずかしいものだな・・・」
そう言いながら僕のお腹に両腕とも回してキュっと抱きしめ肩に顔をうずめる、今更だけど男女逆だと思うの。
「暖かいな・・・」
今日は寒い、だからこんな事をしちゃったのかな。
僕だって火照るほどに恥ずかさが込み上げて来ているけれど、鈴谷さんの体温と匂いに包まれ・・・・暖かくて、優しくて、夢の中みたいだ・・・・