みずたまポップ
遅くなりました!
ようやっと完成をしましたので、どうぞお読みください。
「もらった」
「なに? ……チケット? 映画?」
佐上にチケットをわたす。サバンナにいるような動物の写真が載ってるやつ。
たしか、最近公開し始めた映画の、だったと思う。よくわからない。
部活のテニスの休憩時間に女子がくれた。なにかその子、モゴモゴしてたけど、そんなに重要じゃなかったはず。『くれるの?』って聞いたら、すごい勢いで頷いてた。その人、顔が赤かったけど、風邪?
二枚もくれるなんて、いい人だった。
ちょうどいいから、佐上を誘う。
佐上と行けたら、すごく嬉しいから。
「うん。行こ」
「来週? 瑞木は部活あるんじゃないの?」
言い忘れた。俺は瑞木、瑞木陸。彼女、佐上紘の友達以上、だと思ってる。
不思議そうにキョトンとしてる佐上は可愛い。それに、自分の予定より俺のを気にしてくれるくらい、佐上は優しい。
「ない。その日は休み。顧問の出張」
「へーめずらしー。うん、わかった。いいよ」
佐上が頷く。嬉しい。これで、休みの日も会える。
「ッブ! しっぽ振ってる……!」
「? しっぽ?」
しっぽなんて生えてない。たまに佐上は、よくわからないことを言う。だけど、佐上が楽しそうに笑うから、問題ない。
***
駅前の集合場所に行くと、もう佐上がいた。
ケイタイの液晶を見てたり、髪を触る佐上をずっと見てたい。けど、バレたら呆れられるのもわかってる。それに、俺も早く話しかけたいから、佐上にすぐに近寄った。
「佐上」
「あ、瑞木」
にっこりと笑う佐上は可愛い。学校の外でずっといるのなんて初めてだから、ワクワクする。
「……うーん、これの横に立つのかー……」
「? 佐上?」
腕を組んでうなって、どうした?
俺の隣にいるの、嫌?
「俺の格好……嫌い?」
「は? あ、いやいや、そうじゃないから。ただ、ちょっと、独り占めしてていいものかとね」
? そんなのむしろ。
「すればいい。佐上なら、大歓迎」
「ッブ! 大歓迎って……なんか違うでしょ」
そう? 俺は本当にそう思うけど。
それに。
「その代わり、佐上を俺は独り占めする」
「は? ……いやいや、私を独り占めしても、ねぇ?」
困惑してるけど、そんな佐上も可愛い。ギュッてしたいくらい。
首を傾げて聞く。そうすれば佐上は大抵のことは笑って聞いてくれるから。
「ダメ?」
「ブッ! フフ……! だから、それ、反則だって」
笑いが収まるまで待つ。佐上は笑い始めると止まらない。
でも、それだけは物足りないから。
「……行こ」
手を捕まえて指をからめる。こういうの、女の子は憧れるものだって、クラスの男子達が教えてくれた。日曜日佐上とデートってことを聞いたら、色々伝授してくれた。いい人達。
「えっと、瑞木? これって恋人つなぎってやつじゃ……?」
「? なに、佐上」
手を困ったように見る佐上。笑顔も好きだったから、残念。
でも、佐上が言いたいことがよくわからない。これってデートでは当たり前のつなぎ方って聞いた。
ダメ?
「……ま、いいか」
「? うん」
佐上が納得したのなら、問題ない。
***
手をつないで、映画の売り場に行く。日曜日で人が多いから、手をつないで一石二鳥。
売り場でチケットをみせて、座席と交換する。
ちょうどいいところが空いててよかった。でも、なぜか佐上が少し渋ってたのがわからない。「見やすいけど……」って言ってた。
席にいったん荷物を置いて、購買に行くことにした。
「瑞木は何か買うの?」
「うん、ポップコーン」
「ッフッ! 予想通り……!」
佐上はさっきの苦い顔だったのに、嬉しそうに笑ってる。よかった。佐上が嫌なことは、嫌だ。
「佐上は?」
「あ、私は飲み物だけで」
「? そう?」
きっぱりと言う佐上は迷いがない。「カロリーが……」って呟いてたけど、充分やせてる佐上は気にする必要がないと思う。
でも一度前にそう言ったら、無表情で怒られたから言わない。触れちゃいけないことだってある。
会計を別々に済まして、ポップコーンと飲み物を持つ。両手がふさがってなかったら佐上のも持っていたかったけど、できそうにない。
「ごめん、持てない」
「え? ……ッブ! しっぽ垂れてる……!」
いきなり噴き出した。……佐上、俺謝ってるのに。
ジトっと眺めてると、さすがに悪いって思ったみたいで佐上は咳払いを一つした。
「いや、べつにいいよ。自分で持てるのは持つし」
「……うん、わかった」
普通、デートでは男がリードするものだってクラスの男子に教えてもらったんだけど。
佐上は優しい。
でも、俺も佐上に優しくしたいから、これからは気をつける。
「……ところで瑞木、ポップコーンって何味?」
佐上? どうしてそんなこと?
「塩キャラメル」
「ブハッ! し、お……キャラ、メル……!」
そんなに面白いこと、言った覚えない。
佐上のツボは時々わからない。
席に戻ると、劇場内の他の座席は人が埋まり始めてた。でもそこまで多くない。ドキュメンタリーの内容だから?
「……瑞木。あのさ、この席、やっぱり……近くない?」
「? ちょうどいい」
佐上がよく見えていい。並んで座ってて、一緒に同じのを見てるって感じるのもいい。
ソファーに座ってるから、間に手すりがない。くっついてようやく収まるこの幅が原因。少し動くと佐上の手とぶつかるのが、楽しくて嬉しい。
自然と口が緩む。佐上とこんなに密着するの、好き。
「……そんな喜んでると、文句言えないって……」
「佐上?」
佐上が俯いてる。気分、悪い?
それとも……照れてる?
覗き込もうとしたのに、すぐに佐上が顔を上げた。……残念。
「……ううん! なんでも! それより、どんな映画だっけ?」
「? うん。たしか、自然満載」
「いや、あってる。あってるけど、端的すぎ」
話題をずらそうとしてる佐上に気付いてた。モヤモヤするけど、我慢。佐上が、拒んでるから。
膝の上にのせた容器からポップコーンを一つ味見。……ん、おいしい。
佐上にも、食べてほしい。
「佐上」
「ん? なに」
「口」
「口って……え、ちょ、まさか」
困ってる佐上が頷くまで、ポップコーンをつかんだまま待つ。
待つ。そうすれば、佐上はきっと折れるから。
「なに、瑞木。その目」
「待ってる」
「いや、それはわかる。わかりたくないけど。で、なに待ち?」
「佐上待ち」
「ええー……」
仕方ない。俺から佐上にあげたいのは譲れない。
「ブブフ……ッ! 遊び待ちの犬みたく滅茶苦茶目、輝かせてるし。……ンン、ゴホン。ま、いいよ」
犬って何? でも、佐上が楽しそうで、了承もしてくれたから、気にしないことにする。
「ほら」
「あーん」
「プフ! アーンって!」
? そうしたほうが、佐上に食べさせやすいから。
笑ってる佐上の口の中の舌の上に一つ置く。指を引き抜くときに、唇に触った。
やわらかい。ふにふにしてた。
もっと触りたかったけど、耐えた。もう一回許すと、ずっと触ってたくなるから。自重。
「……!」
「佐上、顔真っ赤」
かわいい。イチゴみたいでおいしそう。
頭なでたくなっても我慢するなんて、俺、偉い。
「~~っみ、瑞木!」
「ん、ごめん」
ワザとじゃ、ない。……半分は。
でも正直に言うと、怒られるのはわかってるから内緒。
***
「……」
「えーっと」
「……」
「み、瑞木?」
「…………」
「ね、ねぇ、瑞木ってば」
……? っ!
「佐上?」
「あ、うん」
? なんで腕をつかんで? 嬉しいけど。
「なに?」
「……いや、うん。それを言いたいのはこっちだけど」
「??」
言いたいこと、よくわからない。
でも、どうして映画館の外に俺はいる?
「映画は?」
「あー、うん。終わったよ」
「……」
内容おぼえてない。せっかく佐上と一緒だったのに。
「どういうの?」
「うーん、思い出さなくていいよ。なんというか、かなり独創的だったから」
「独創的?」
「そうそう。……っていうか、ライオンの背中からなんで触手が出てきて、地球戦争ドンパチって……」
「触手?」
……っ? なんか、頭痛い。
「なんでもない、なんでもない」
「……でも」
「気にしないで! 忘れて、うん!」
力強く佐上が言うから頷いた。佐上がそんなに言うから、きっとなにか理由がある。俺には思い出す必要がないこと。
「わかった」
「うんうん! それがいいって!」
「うん」
佐上が頭なでてくれる。嬉しい。
優しくサラッと触られると、安心する。
「それでこの後、なんだけど……ちょっと帰っていい?」
「! え……」
なんで。もしかして、俺、気を失ってたとき、なにかした? それとも、映画、おぼえてなかったせい?
不安。だけど、すぐに佐上は首を振った。
「いや、瑞木のせいじゃないから。なんというか……アレ見た後に、遊ぶ気になれないっていうか……」
「内容、悲しかった?」
「いや、悲しくてじゃないよ。……ある意味、悲しかったけど。予告編詐欺すぎるって」
シリアスだったから、気分のらないわけじゃない?
佐上は帰りたがってるけど……でも、まだ俺、離れたくない。映画の間、ろくに佐上のこと見れなかった。
映画の間、手をつなごうと思ってたのに。台無し。
佐上は、もっと一緒にいたくない?
俺は、全然足りない。それなのに。
佐上は俺のこと、そこまで好きじゃない?
だから、いつも俺のこと、気付かないふり?
「……佐上」
「なに、瑞木」
佐上が笑う。それなのに、今は嬉しくない。
困らせたくない。でも、俺は、我慢できそうにない。
現に、口が勝手に動く。
「帰したくない」
「ブフッ!? そ、それって女側が言うセリフでしょ。オマケに、誤解招くし」
また笑って誤魔化そうとする佐上を、腕の中に閉じ込める。
「え、ちょ! 瑞木、瑞木ってば!」
「なに」
「なにって……離してってば」
「嫌」
身じろぎするけど、無駄。絶対に、離さない。
抱きしめる力を少し強くする。このまま逃げられたら、今のことをなかったことにしそう。
「え、ええー? 急にどうしたの?」
「……急じゃない」
いつもいつも、言いたかった。でも、佐上が話題にするのを嫌がってたから我慢してた。
それも、もう無理。
「佐上が避けるから」
「は? いや、避けてないって。現に今くっついてるでしょ」
そういうことじゃない。
佐上はわかってるはず。俺がなにを言おうとしてるのか。それを、なかったことにしようとしてるのは気づいてる。
――でも、ごめん。これは、佐上の言うことでも聞けない。
抵抗を止めた佐上の肩をつかんで、目を合わせた。
「佐上、好き」
「……」
「好き、大好き」
口をつぐんだ佐上が目をさまよわせる。でも、その顔全体が赤くなってるのは隠しきれてない。
佐上、俺、しっかり待ったよね? だから、そろそろ、いい?
「俺のに、なって」
「……」
ハクハクと口を動かして、言葉を必死に探してる佐上を待ってるだけなのに、時間がゆっくり流れすぎてるみたいに感じる。
「……こんなときだけ、動物っぽく見えないなんて。……ズルイ」
「……」
佐上が唇をとがらせて文句を言う。
「私も」
「?」
「私も、かも……」
「! 佐上!」
佐上が、佐上が「私も」って言ってくれた!
すごく、すごく嬉しい!
ギュッと抱きしめなおす。
あったかくてフワフワな佐上。やわらかいにおいがして、やっと手に入れたんだなって思う。
「あーもー……嬉しいのはわかったから、抱きしめるのは勘弁して」
「ダメ!」
ずっとずっと、好きなのを我慢してたから、今更止めるのはできない。
それに、佐上だって恥ずかしいだけで、本当は嫌じゃないってことわかるから。
「佐上、大好き!」
「……うん」
佐上の全てにドキドキして、なにもかもを独り占めしたくなる。
――初めて会ったあの時から、俺は恋した。
怖いって言われる俺の顔に、初対面で笑いかけてくれた佐上。ためらいなく手を出してくれた、優しい人。
佐上が笑ってくれる、それだけで色んな感情が次々に弾ける。
だから、ね。もっと笑って。
これからも、俺に向かって。
***
「佐上、佐上!」
「……瑞木」
「?」
首を傾げた俺の耳に、佐上が顔を寄せる。
「あのさ、瑞木。私も――」
佐上が言ってくれた言葉は秘密。だって、それは、俺だけのものだから。
と、いうわけで、完結、です!
おめでとう瑞木!
ちなみに二人が見ていた映画の集客率が低かったのは、作品が微妙でB級ならぬC級だったからです。
今まで読んでくださった、特に感想・評価を下さった方々、本当にありがとうございます。無事、この短編を終わらせよう(それも1カ月で!)という気力が湧いたのは、一重に皆さまのおかげです。
また今後、他の作品も読んでくだされば、非常に嬉しく思います。
それでは。
読んでくださったあなたに、最大限の感謝を。




