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エントゥリアスの騎士  作者: 日向 聖
第一章 闇色の騎士
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闇色の騎士-02

 陽光の中にありながら、男は闇そのもののように黒かった。

 肩よりも僅かに長い癖のある髪も、瞳も、剣士なのだと一目で分かる鎧さえもすべてが黒い。

 その黒い色彩の中で、肌の色だけが異様に白く見えた。

 闇よりもなお暗い黒曜石の瞳が遠矢を捕らえ、一歩――また一歩…と、男か近づいてくる。

 遠目から見ても大柄である事が解る男は、だが一切足音を立てる事はなかった。

 その変わりだとでもいうように、男が足を進める度、腰に帯びた幅広の剣につけられた銀色の飾りがチリチリと微かな音を立てた。

 手を伸ばせば届くか届かないか…の距離まで近づくと、男はようやく歩みを止める。

 最近の高校生である遠矢は決して背の低い方ではなかったが、その遠矢が見上げるほどに男は上背があった。

 二メートル強あるのではないかと思われる肢体は、見事に均整が取れている。

 遠目から見ても整っていると思われた容貌は、近づいて見れば唖然とするほどの美丈夫振りであった。

 秀でた額に切れ長の瞳――。

 すっと通った鼻筋から続く唇は、引き結ばれているよりも、甘い愛の言葉を紡ぐ事が似合いそうですらある。

 そんな美貌を呆然と眺めていると、男は僅かばかり困ったように眉宇を寄せた。

 「×××――×××××(こんなところ…――何をしている)?」

 良く響く――低い鋼の声音がそう言った。

 男の言葉は典雅な響きを以て放たれたが、遠矢にはまるっきりそれを聞き取る事ができない。

 幾度か同じように男は言葉を続けたが、聞き取る事ができない遠矢は、ただ無言で彼の言葉を聞き流すしかなかった。

 英語とも、フランス語とも違うそれに、思わず苦笑しながら前髪をかきあげる。

 人間…本当に困ると思わず笑いたくなるらしい……と、遠矢は一人ごちる。

 「…×××…××××××××――(…まさか…言葉が通じていないのか)?」

 首を傾げて見上げれば、男の眉間に刻まれた皺は先ほどよりもずっと深くなっていた。

 諦めたように男が小さく吐息を漏らす。

 剣帯に刺してあった小刀を抜き取り、男は剣先で自らの右手の指先を切った。

 【ッあんた何して――ッ】

 驚いて声をかければ、どす黒い血の流れる指先で男は遠矢の額に無造作に触れた。

 【――――ッ!?】

 思わず後ずさろうとした遠矢の腕を、大きな手が逃がさぬように掴む。

 血に滑る指先が、遠矢の額に文様を描いていった――。

 男の声音が、謳うような独特の響きで言葉を紡ぐ。


   我ここに――

   天空を統べる王“ティアマト”の名に於いて

   智の精霊“リミティア”に命ずる……

   汝が統べし 言の葉――

   汝が編みし 知恵の冠――

   我が血を与えし者に 斯く与えん――


 言葉と共に血の文様が光を放ち、遠矢は突然の激痛に見舞われた。

 【――っアアァァァ――――ッッ!!!!】

 額に触れていた男の手を払いのけ、両手で頭を押さえ蹲る。

 それは…無数の針が頭の芯を突き刺していくような激痛であった。

 針に貫かれる度、見知らぬ文字が…見知らぬ言葉が――、頭を中を駆け巡る。

 やがて徐々に激痛は治まり、遠矢は息を整えるように…深く息を吐き出した。

 額に流れる冷たい汗を、乱暴にシャツの袖でぬぐい去る。

 「どうやら…無事に痛みは去ったようだな――」

 呟かれたれた言葉に、思わずカッとして遠矢は立ち上がった。

 男の鎧の胸元から除くシャツの襟を掴み、勢いよく自分の方へと引き寄せる。

 「ふさげんなッ!! 一体俺に何しやがった――!!!!」

 「…落ち着け――」

 「落ち着けるワケないだろうがっ!! 死ぬかと思ったんだぞ!?」

 「耳元で喚くな。そう喚かずともこの距離なら言葉は聞こえる」

 「この――ッ」

 男は襟を掴む遠矢の手を、ゆっくりと胸元から引き剥がした。

 「とりあえず落ち着いて聞け。言葉が分からぬお前に、こちらの言葉を理解できるようにしただけだ」

 言われ、ようやく遠矢は言葉が理解できている事に気づいた。

 親切心からかだったのか、男は遠矢が言葉を理解できるようにしてくれたようだが、先ほどの死ぬような激痛を思うと、素直にそれを有り難がる事はできなかった。

 「――それではもう一度問おう。お前は何者だ――?」

 漆黒の瞳が、真っ直ぐに遠矢を見つめる。

 「そのような薄着で、どうやってここへと辿り着いた?」

 鋼の声音は、一切の嘘を許そうとはしなかった。

 「――お前のような子供が“忘却の園”に何の用がある?」

 黒い手甲を纏う大きな手が、ゆっくりと黒い剣の柄へと伸ばされていった。


とりあえず、ぽつぽつとUPしていく予定です。

殆ど夜中更新となっております。


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