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エントゥリアスの騎士  作者: 日向 聖
第二章 聖獣の契約者
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奇妙な旅人-06

 それは長い――永い話であった。

 人の世には、歪め伝えられた伝説のみがまことしやかに流され、真実は闇の底に葬り去れていた。

 誰が何の為に歪め伝えたものなのか。

 世界を滅ぼそうとした男の名はそこにはなく、命を賭して世界を守った者の名もない。あるのはただ、かつての栄華と一人歩きする白銀の騎士の噂だけ……。

 白銀の騎士そのものが誰であるのか、今もなおエントゥリアスに居るというその理由さえも、誰も知る者はいないのであった。


 遠矢の為だ――と言って歌われたその歌の、一体どこか自分の為であるのか解らず遠矢は困惑する。

 何と言えば良いのか解らず黙り込むと、焚き火の傍にいた男が一人、リィースの傍にやってきて言った。

 「よう兄さん。あんた吟遊詩人だったんだな。しかもこれだけの幻影を見せてくれるなんて…名のある人なんだろう――?」

 「ああ…いや……。俺は吟遊詩人じゃあない。まあ…似たような事をして稼いではいるけどな」

 「そうなのか?」

 男は人の良さそうな瞳を丸くする。

 「でも、今日は良い物を見せて貰った。こんな砂漠の真ん中で、あれだけの歌を聞かせて貰えるとは思っていなかったからな。――でも兄さん、あの歌…間違ってるんじゃないかい?」

 「――いいや。間違っちゃいないぜ?」

 男は困惑したように鼻を掻く。

 「いやでもなぁ。あれ、創世の歌だろう? アスティア大陸創世の歌。違うかい?」

 リィースは軽く頷いた。

 「ああ、そうだ。あんたの言う通り創世の歌さ」

 「だよなぁ。でも、俺が前に聞いたのとは内容が違ったみたいなんだが……」

 男の言葉に、リィースは苦笑を浮かべる。

 「…悪かったな、耳障りなものを聞かせて」

 慌てて男は首を振った。

 「耳障りなんてとんでもない。仲間とも良いモノを聴かせて貰ったっていってたとこなんだ」

 「そうかい? 気に入ってくれたんなら良かったよ」

 「それでな…兄さん、これ少ないが良い歌を聴かせて貰った礼に――」

 男は手にしていた銀貨を数枚、リィースに手渡そうとする。

 「要らないよ。言ったろう? 俺は本物の吟遊詩人じゃあない」

 「いや。できたら受け取って欲しいんだ。図々しい頼みで悪いんだが、良ければ俺たちの為に一曲歌ってくれないかって思ってな」

 焚き火を囲う男たちが数人、二人のやり取りを窺っているようだった。

 「俺たちももう旅に出て長い。次に帰れるのがいつになるかも解らない。だがら、あんたが俺たちの故郷近くの歌でも知ってたら、歌って貰うかと思ったんだ。まさか、吟遊詩人じゃないとは思わなかったんでな」

  砂漠なんかを旅している人間は、得てして遠く故郷を離れた人間が多い。吟遊詩人に出会ったなら、故郷の歌を歌って欲しくなるのも道理であった。

 「嫌でなきゃ、歌ってくれないか?」

 それなら――とリィースは金を受け取る。

 「で、どこの歌が聞きたいんだ?」

 「歌ってくれるのか!? ありがたいっ! 知っていれば、東の大国“ウィセリア”の歌を――」

 「ウィセリア…か――」

 「ああ。ウィセリアの“ハルマン”という町の辺りの歌なら嬉しいんだが……」

 「ああ。あそこなら良い歌がある」

 リィースの言葉に、男は嬉しそうに笑った。

 「そいつは有り難い。すまないが、頼む――」

 リィースは居住まいを正し、竪琴を構えるリュゼを見る。

 「では――。ウィゼリアとキルスの国境近くにある町“ハルマン”。そこで今も歌われて続けている歌を一曲」

 男はいそいそとした足取りで、中之元へと戻っていった。

 「乙女の祈り“春告鳥”――」

 ポロン――と竪琴が鳴る。

 爪弾かれる琴音は柔らかく、繰り返される旋律は甘い。

 やがて春の野を駆ける風のように爽やかな声音か、広い草原の幻影を誘った。

 


 新緑芽吹きし春の原――

  美しき青き野の花よ――

 春を告げるは 乙女の涙

 春に帰ると告げし人は

 いま何処の空の下――

 

 おお――

 緑なす青きハルマン――

 草萌ゆる 青々とした春野よ――

  戦にゆきし 彼の人はいずこ

  夏が過ぎ 春がゆき

  秋が終わり 冬が去る

 帰り来たるはいつの日か

 春告鳥が鳴く前に

 戻り来たれと 乙女は祈る――



 ゴクリ――と遠矢は喉を鳴らした。

 リィースが歌い出すと直ぐに、魔法でも見ているかのように、半透明に透き通った幻想の世界が目の前に広がった。

 青々とした草が風に揺れ、一人の少女が遙か遠くを見つめている。

 その頬に流れる涙も、風に舞う服も、まるで現実的でとても幻影とは思えなかった。

 ただ身体の向こう側が透けている…という他は――。

 やがて幻影の少女は祈り、彼の帰りを待ち続ける。

 国からの手紙を呼び、泣き出す少女。

 景色が足下から変わり、少女は草原で祈りを捧げる。

 男たちは涙を拭っていた。

 自分たちの帰りを待ってる家族たちが居るのだと思い出したのだ。

 そして歌は終わりに近づき、春告鳥の鳴声と共に、乙女の元に男が戻ってきたのだった。

 凄い――と遠矢は思った。

 そして改めて、リィースと名乗った青年が、一体何者であるのか…とそう思ったのだった。


ようやく本編に戻りました。まだ暫くは、ルシャスたちと出会えそうにありません。

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