5話目 ベルの秘密
いつもの通り、屋敷中の暖炉に火を点ける。
コンコン、と一応軽くノックをして
「入りますよ」
とやる気のない声で一応確認をとって中へ入る。
また暖炉に火を灯してからベッドへ近寄る。
「ご主人様、ベル様、起きてください」
まずは声だけ。
「ベル様」
「う…ん」
次は体をゆする。
「ベ」
そこでベルはぱちくりと目を開けた。
「ルううううううぇぇええええええ!!?」
名前と驚きの声が混じってしまった。
「うるさいよ、ロスト」
平然とした顔で、淡々とした口調。
「えだってなん、ええええ…!?」
「昨日の夜、前にロストが『最低三回ぐらいで起きろよ』って言っていたことを思い出してね。実行してみた」
「思い出してできるんなら毎日やれよ!」
そう突っ込むしかなかった俺は、少しベルの顔色が悪いことに気付いた。
「おい、ベル…?」
不安になってベッドに近づく。
今更になって気づいた。
ベルがまだ起き上がっていないことに。
「ベ…」
「来るな!!」
初めて浴びせられた激しい怒号に一瞬躊躇するが、再度近付いた。
「来るなと…!!」
「そういうわけにもいかない。
捨て子だったとはいえ、今では主人の体調も気にしないといけない執事なんでな」
そして、さっきから布団の上から抑えている右わき腹に視線を落とす。
「見せてみろ」
「いや、だ…!私が、主人だ」
「何言ってんだ、そんな蒼白な顔してからに。
お前に拒否権はない」
「やめ…!」
ベルの拒否する声を無視して高級な羽毛布団をはぎ取った俺は、見てしまった。
前ボタンをすべて外したシャツ。
浮き出ている骨。
雪のように白い肌。
右わき腹にある醜い火傷の痕。
「……!」
何故こいつがこんな傷を持っているのか、理解できなかった。
着替えの約束のその理由については、理解できたのに。
「…っだから、見るなと――!」
「なんでだ?なんでそんな傷がある?
なぜ何も言ってくれなかったんだ…!」
「そ、れは」
ベルはプイと俺から顔をそむけた。
「お前に、かんけ、いない」
「ある!ありまくりだ!」
グイッと強引にベルの顎を掴み、俺に顔を向けさせる。
「ど う し た ん だ!」
一文字一文字噛み含めるように問い詰める。
「その前に、きがえ、させてくれ、ないか」
初めて俺に服を着させろと言ったベルは、拗ねた子供のようだった。