宇宙よりも大きな絆
宇宙。
そこは誰もが子供のころに夢を見ただろう。俺も未だに見ている。
「……宇宙行きたい」
放課後の教室で俺はそう呟いた。
俺の名前は如月隼人。天然の茶髪以外は普通などこにでもいる高校二年生だ。部活は宇宙研究部に所属していて、少なからず宇宙に興味を持っている。そして、俺が若干苦手としている人間もこの部に所属している。そいつは宇宙のことになるとどこからでも飛んで来るんだが……
『誰だー!宇宙について相談したい奴はー!』
ほら来た。廊下から響いてきた声の主が俺の苦手としている人間だ。
バンッ!
「宇宙の相談ならなんでもお任せ!スペースカウンセラーこと天斬空羅登場!」
「とりあえず黙れ空羅」
天斬空羅と名乗ったこの男はこの宇宙研究部部長である。ちなみに、外見は黒髪の黒目でイケメン。告白はよくされるらしいが……こいつ宇宙にしか興味ないらしく、それを速攻でふっているらしい。全く羨ましい。
話が逸れたが、宇宙研究部のメンバーは俺とこいつ含め、あと二人いる。そいつらはどうやらまだ来ていないようだが……
「こんにちわー」
「来たよー部長、隼人」
「おぅ!お二人さん!今終わったのか!」
「よっ。今日もこいつうるさいぞ……」
「「あはは……」」
見渡すと同時に俺達の部室に二人の女性が入ってきた。
最初に入ってきたのは柊綾子。後輩で髪の色が水色というなんともありえない色をしている。完璧に染めているのだが、この高校は基本自由で、犯罪を起こさなければある程度は見逃される。ちなみに水色がとても似合ってるからつっこみが言えない。
二人目は早乙女彗歌。明らかに珍しい文字を使った名前だが、こいつもある程度宇宙について詳しい。隅っこで部長と宇宙談義しているのをよく見る。俺達とは別のクラスだ。
「さて。とりあえず俺は屋上行ってくる☆」
「ちょっと空羅!ウチも連れてって!」
「いいぞ!彗歌!行くぞ!」
「了解!」
「あ、おい!お前ら!ったく……」
気づけばもう二人は廊下にはいなかった。全く足の速さは一流だな、あの二人は。
そういえば、なんで屋上行くのかというと、星空を見るためだとか。宇宙と星空は一緒だから好きだって前にあいつが言ってたのを覚えてる。
「あの……先輩はどうしますか?」
「そうだな……俺達も行くか?望遠鏡持ってさ」
「はい!」
まあ俺も星空は好きだ。星座なんてほぼ全部覚えたな。綾子は……まぁ俺よりも遥かにすごい。説明はできないが……星座があれば現在時刻と場所が分かるらしい(本当に当たってるから恐ろしいんだが)。
とにもかくにも、俺達も望遠鏡のセットを持って屋上へと向かった。
これが俺達の日常だ。
ある日の夜。突然空羅から電話がかかってきた。
「もしもし?どうし――」
『今日流星群があるから学校の屋上に0時集合!拒否権は存在しない!』
ブツッ
「………」
ただいまの時刻、夜の十一時半。学校まで自転車で片道二十五分。だが、今は自転車は壊れている。
結果。俺オワタ。
「あいつバカじゃねぇの!?」
さすがにあとでなにかさせられるのは嫌なので全力で外に出て走った。
「はーい罰ゲーム♪」
学校に着くと同時に浴びせかけられる空羅のむかつく言葉。彗歌と綾子は既に来ていた。まさかこいつ……!
「とりあえず……これ持ってね♪」
空羅が指をさす。その方向には大量の荷物と大きな望遠鏡があった。つまりはだ。
「お前図っただろ!?」
こいつ今の俺の状況を知ったうえであんな時間に電話してきたな!?
「サテナンノコトヤラ~?」
俺の必死の叫びにも耳を傾けず空羅は校舎に入っていく。屋上集合とか言いながら……!
「すいません先輩……」
「ごめんね?ウチもあれを持つのはちょっと……」
「お前らは気にしなくていいよ……全ては空羅が原因だ」
俺の様子を見かねたのか彗歌と綾子が謝ってきた。別に気にする必要ないのに。本当にあいつは色々と捻じ曲がってるぜ……
『お~い!あと三十分で流星群始まるよ!』
遠くで空羅の呼ぶ声がする。あいつはもう二階まで上がっていた。階段上がるの早いな。
「んじゃ、俺達も行くぞ」
「はい!」「了解!」
俺の声に同時に返事をする二人。それに俺は気をよくして学校に軽い足取りで入っていく。
屋上。
そういえば言い忘れてたが、俺の学校は田舎に近いので夜には星空がすごい。素人が見ても星座が分からない程埋め尽くされる。
「相変わらずここの景色はすごいね、空羅」
「そうだなー。俺は毎日ここで見てるから慣れたけどね」
「毎日、ですか……なにを見てるんですか?」
「星空に染まる宇宙。できれば……宇宙を見たいよ」
目の前で行われるこの会話。嫌がらせにも程があるぞ。
「俺を、置いて、話を、するな!はぁ、はぁ、はぁ……!」
「あ、いたんだ隼人。その荷物持ってきてくれたの?ありがとね?」
「誰のせいだ誰の……ちくしょう」
とりあえず荷物を置く。全部で大体……二十キロはあるな。それを四階分……俺よく耐えたな。
「さて。あと五分だよ。適当に駄弁ろうか」
「俺のは完璧に無視か……まぁ暇だし、いいぞ」
「私もいいですよ」
「ウチもいいよ!なに話す?」
「もちろん宇宙について!」
こいつ……常識的に考えろよ……俺あまりしらねぇぞ。
「みんなはダークマターって知ってる?」
ダークマター?なんだそれは。
「ダークマター……暗黒物質ですか?」
綾子が問いかける。俺も最初はそう思ったがさすがに違うだろ。
「そう。暗黒物質とも言う」
「マジで!?」
「そうだよ?光を反射しないから見えないけど、宇宙の大半を占めてるらしい。ゲームとかでもよくあるけど、あれとは別でね?実際はよくは分かってないんだ。でも、暗黒物質と共に暗黒エネルギーっていうのもあって、それは暗黒物質の証明をする時に仮定の話で作られたんだけど、今ではNASAがそれは実在するって証明して、色々と――」
「ストップ!もういい。それだけで五分たつ。っつかもう一分切ってるぞ」
「本当?あ、本当だ」
空羅が暗黒物質について説明している内にもう少しで流星群が始まるという時間になっていた。
「ちょっとそれ本当!?早く準備しようよ!」
「そうですよ先輩!部長も早く!」
「……二人とも?望遠鏡は使わないよ?使うのはそのあと」
「「……そうですか」」
シューンとうなだれる二人。なんとも残念な。
そう思った時、空に一筋の光の道が走った。
「おい、お前ら。遊んでる間に始まったぞ」
「「「え!?」」」
俺以外の奴らが確認すると同時にどんどん流れる星達。
「……すげぇ」
「綺麗だね……」
「初めて見た……」
「綺麗ですぅ……」
俺達はみんなで見惚れていた。このまま続けばいいのにと俺は思った。おそらくみんなもそう思っているだろう。
だけど現実は非情で、十分程で終わってしまった。
「……またみんなで見れるのか……?この流星群を」
その言葉は俺でも分かるくらい憂いを帯びていた。みんなもこの言葉には気づいたようで、顔を暗くしていた。
そんな中、空羅は明るく言い放った。
「絶対見れるさ!俺達が望む限り絶対!」
「絶対……お前がそれ言うか」
こいつは高校を卒業したら宇宙飛行士になると決めている。だからこそ、会えなくなる可能性がある。
「ウチも……そう思いたいよ」
彗歌は大学に進学して宇宙に関する学者か教師になるらしい。これはこれで忙しくなるから会えないと言っても過言ではない。
「私は……だめかもしれません」
「……そんなこと言うなよ」
綾子は成績優秀で、来年には留学することが決まっている。いつになったら帰ってこれるかは分からない。
俺は……普通に就職するしかない。だから、みんなと比べると情けなくなる。みんな自分達の夢に向かってるのに、俺だけ決まってないなんて……
「でも、俺達が望めばまた集まれる。みんなそれぞれの道は違うけど、また会える。生きてる限りは会えるからさ、信じようよ」
「……そうだな。じゃあこうしよう」
一拍おいて俺は言う。
「十年後、ここに四人で集まろう。それで、またここの星空を見るんだ。今の写真を撮ってみんなで思い出そう。その写真があれば俺達は永遠に繋がってるんだ」
「……そうだね。俺達の間で絆を作ろうか」
「ウチも賛成!」
「私も……!」
満場一致。これで俺達は離れても繋がってる証拠ができる。
「じゃあそういうわけだから準備してよ」
「えー……まぁいいけどよ……」
渋々発案者の俺が準備をする。まぁここらへんでいいだろ。
「ほらお前ら集まれ!フラッシュ弱めにいくぞ」
「「「了解!」」」
「いくぞ!」
俺の宣言と同時にボタンを押し、俺は三人のところに走って集まる。――道は違えど俺達はいつまでも繋がってる。宇宙よりも広く長い絆がある。
そう思うと同時にシャッターが切られた。撮ったカメラはデジカメだけど、写真が見れる。
その写真には俺達が仲良く笑顔で写ってた。
酷いですよね!すいません!