お父の言い分
車屋さんで運良く手頃な軽ワゴンを買うたあたし等は、それから大阪の実家へ向こた。せやけど、いきなり車貰われへんのやなぁ、車庫証明なんてすっかり忘れとった。
ま、シュバルでも馬車に化けさすっちゅうてもさすがにモノホンの馬と一緒にさす訳には(車はええけど馬がビックリするもん)いかんので、厩舎の隣に車舎作ったもんなぁ。それが余裕で作れるアシュレーンの土地事情に目が慣れてるからか、ここらの道がめっちゃ狭も感じる。案外すぐに車貰わんで正解やったかも知れん、バリ狭で、路上駐車上等の市内の道なんか、今のあたしにはムリやわ。引き渡しの日、適当な駐車場であっちに飛ぼ、それがええわ。そんなことを考えてる間に、お義兄ちゃんの車はあたしの実家に着いた。今日は、この車を入れるために、家の車をコインパーキングに先に入れといてくれてあるらしい。
車を降りると、築二〇年の三階立て建て売り住宅の我が家の前には、お姉の電話で既にお母とお父が立っていた。お母はホッとしたような泣きそうな顔をしてたけど、お父は腕組みをしてぶすっとした顔をしている。
「……ただいま」
怒鳴られるかと思いながらおそるおそる挨拶すると、
「どこまで行っとたんや、えらい遅い帰りやな」
お父はそう言うただけやった。しかし、どこ行っとったんって言われて、『ちょっと異世界まで』とか言うたら、どつかれるかもな。あ、そうそう、フレンの紹介をせな。あたしが横におるフレンを、
「あ、そうや、これがあっちであたしを助けてくれた、フレン・ギィ・ラ・ロッシュ」
【フレン、これがあたしのお父。神部幸三、で、お母の神部美沙子】
そう言うて紹介すると、
【お義父上お義母上、お初にお目にかかります、フレン・ギィ・ラ・ロッシュと申します】
フレンはお姉の時と同様に、そう言う深々と頭をさげた。それに対して、お母は、
【まぁまぁ、遠いところからようこそ】
て今一おうてんのか間違うてんのか判らん挨拶を返してんけど、お父は……
お父は全くのスルーやった。あたしが、
「お父、挨拶してねんから返事くらいしぃや!」
て言うと、お父は、
「せやったな、わざわざ連れてきてもうてありがとうございました。じゃ、そういう事でお帰りください」
て言うて、あたしの手を掴むとさっさと家の中に入ろうとする。
「ちょっと、そういう事でどういう事なん! 何でフレンだけ帰らんならんの」
「『ここが』お前の家や、違うか?」
お父はここを強調してあたしに念押しする。
「それはそやけど……あたしこの人と結婚してん」
そや、結婚してんから、確かにここはあたしの家やけど、今の家やない。実家や。
「結婚てな、親の承諾もなしに結婚てか」
お父はちょっと鼻で笑いながらそう言うてから、お義兄ちゃんに通訳を目配せで頼んで、フレンにこう切り出した。
「千鶴を助けてくれたことについてはホンマに感謝してます。
けど、送って来んのに何で三年半もかかるんです? それに結婚て、どんだけ親をバカにしてるんですか」
「それは、こっちに帰って来る方法が見つからんかっただけで、フレンのせいや……」
もしフレンがトリップの方法知ってて黙ってたことを正直に言うてもうたら……そう思たあたしは慌ててそう言いかけたけど、
「千鶴は黙っとり。ワシはこのフレン君に聞いとんや」
お父はぴしゃりとそう言うたんで、黙らなしゃーなかった。あたしは、フレンの言葉を息を殺して聞いた。
【申し訳ありません。私がもっと早くに界渡りをしていれば……】
フレンは震える声で、そう言うのが精一杯やった。言い終わった後、頭が足に付きそうな位頭を下げる。けど、
【私はお嬢さんを手放したくなかったんです。彼女こそが天が私に与えてくれた伴侶だと思っています。
今からでも結婚をお許し願えませんか】
フレンはもう一度頭を上げてそう言うた。
「伴侶やて、なにアホなこと言うとんねん。あんたは別の世界の人間やろ、そんなとこに嫁にやれるわけないやろ」
せやけど、お父の態度は全然変わらへんかった。
【そんな事を言わないで、お願いします。私たちの結婚を承諾してください】
そんでも喰い下がるフレンに、
「なぁあんた、あんたはワシ等に折角生きて帰ってきた娘を失えっちゅうんですか」
そう言うたお父は涙目やった。三年半、充電し続けられたスマフォ。それをやっとお寺さんに収めた途端当の娘が帰ってきたら……そらもう離したないよな。
【いえ、そんなことは……】
「ほしたら、このままお帰りください。心配せんでも千鶴にはちゃんとこっちでええ人みつけますから」
お父はそう言うて、今度はあたしの肩を掴んで家に引っ張り込もうとする。あたしは身を捩ってそれから逃れて、フレンとこに走り込んだ。
「お父! そんなんイヤや。あたしはもうフレンの嫁さんやねんもん。他の誰とも結婚なんかせーへん。そんなん言うんやったら、このままフレンと帰る!」
「アホ! どこ帰るっちゅうんじゃ。ここがお前の家やろ!」
「アホはお父の方や。娘はあんたの持ちもんちゃう!」
そうや、あたしはお父の持ちもんなんかやない。ちゃんと神部千鶴、ううん、チヅル・カンベ・レ・ロッシュという一人の人間やねんから!
【チーズ、もう止せ。お前はここに残れ、俺は一人でオラトリオに戻る】
けどフレンは、そう言うて飛び込んだあたしの肩をお父の方に戻した。
【どうして!】
【義父上の言い分ももっともだ。大切な娘さんを連絡もさせず取り込んでいたのだからな】
そんで、蒼い顔をしたままフレンがそう言う。
【ここに連絡する方法なんてなかったやん】
【ああ、でもそれは俺が積極的にそれを模索しなかったからだ。
だから、このまま俺があちらに戻るのが、物の道理だろう】
何でなん、解っててそれでもあたしをオラトリオにつなぎ止めたい位、好きやって言うてくれたやん。それが今更なんでそんなにあっさり引くん。あの言葉は全部ウソやったんか?
【では、お騒がせいたしました。私はこれで。
チーズ、勝手に戻ってくるな、これ以上ご両親に心配をかけてはいけない。
では、また参ります】
フレンはそう言うて、トリップの魔法を詠唱してすっと消えてった。
「アホ、アホ、アホ、アホ、お父のドアホ! 何であたしらの結婚認めてくれへんの。
こっちで誰かええ人探すて? あたしフレン以外の誰とも結婚せーへんから。
ほんで、あたしにもうた保険金もらうからな。あたし、それでどっかで別に暮らす。お父ともう縁切るから!」
「千鶴!」
あたしはそう言うて、わからんちんのお父の返事なんか聞かんと、三階にあるあたしの部屋に走った。
入ったあたしの部屋は、ホンマにあたしが出て行ったときのまんまで、部屋にはホコリ一つも見つからへんかった。あれからスマフォもお寺さんから持って帰ってきたみたいで、しっかり充電されてた。
お父やお母の気持ちは解る。けど、せやからあたしはお寺さんでお姉におうた時、他人のフリをしたんや。お姉……何であん時気づかんとそのままスルーしてくれへんかったん。
あたしはそのままご飯も食べんと一晩中泣き続けた。
ありゃりゃ、千鶴とフレン、強引に引き離されてしまいました。
さて、千鶴は、フレンはどうする?




