お伽話と言われても……
「たぶん、元の場所には戻れん」
帰る方法があるのかと聞いたあたしに、フレンは首を横に振りながらそう言うた。
「界渡りなど所詮伽だと思っていたんだがな。しかし、おまえがオラトリオではない世界から来たと言うのが真実ならそれもそうなのだろう」
フレンは相変わらず苦虫を噛みつぶしたような顔をしたまんまや。全然信用されてへん感じ。
「ウソじゃないわよ」
あたしがムッとしてそう返すと、
「人の寝所に下着姿で現れた女の言うことなぞ信用できるか。寝首を欠かれるのはごめんだからな」
間髪入れずにそう返してくる。
「だから、これは下着じゃないって!」
なんやの、この石頭。ホンマ、ムカつく~
「ねぇ、そしたらそういうおとぎ話になんかヒントとかないの?」
そや、ロボットとかファックスとかのハイテクも最初はSFとかで、こんなんあったらおもろいとかそういうのんで生まれてきたんやろ。
「昔の文献を駆使すればそれなりのヒントもあるかもしれないが、所詮は絵空事だ」
だけど、フレンはあっさりとそれを否定した。
「ねぇフレン、あんた魔法使いなんでしょ。
ハンナさん、さっきあんたのことを国一番いや、オラトリオ一の魔法使いだって自慢してたんだけど?」
「ハンナの言うことをいちいち真に受けるな。それに、言っとくが、魔法は万能じゃない。そんな雲を掴むような話だけで術式を組めるようなカンタンなものではないんだぞ」
あたしかてカンタンにできるなんて思てない。
そやから言うて、このままやったらあたし、路頭に迷うしかないやん……そや!
「じゃぁ、あたしを弟子にして。あたしには結構魔力があるんでしょ?」
ハンナさんはさっき、あたしに魔力があるからフレンの魔力に引っぱられてここにトリップしてきたんちゃうかって言うてた。ほんならフレンにもちょっとは責任があるってことやろ。雇てくれたって罰は当たらんはずや。
それに、このめんどくさがりの苦虫男が積極的に大阪に戻す魔法を見つけてくれんでも、あたしに魔力があるんやったら自力で戻る魔法捜してかけたらええんちゃうん。
「ああ、それなりに魔力はあるようだがな。残念ながら俺は治癒師だ。治癒に関する魔法と、一般的な護身用の魔法以外は知らんぞ。
それから、俺の弟子になるんだったら、薬草の管理も手伝ってもらうぞ。そんな細腕で畑仕事なんかできるのか」
それに対してフレンは、初めて笑みを浮かべて(とは言ってもかなり黒かったけどね)そう言った。
「できるわよ!」
薬草って要するにハーブやろ。ガーデニングは嫌いやない。大阪の猫の額みたいな我が家の庭の手入れはあたしの役目やったもん。
ま、やってやろやない!
鼻息もあらくそう言ったあたしに、フレンはクスっと笑って、弟子入りを許可した。
ちなみに、
「ここがロッシュ家所有の薬草園だ。どうだ、働き甲斐があろう」
そう言うて、フレンが連れてきた広大な裏庭(と言うよりもう山やよ、山)にあたしの目が点になってまうのは、この数時間後……
えーと、ミドルネームなんぞ持ってるフレン君、一応貴族です。本宅は王都にありますが、薬草園の管理を理由に所領にあるメイサに住んでおります。
ま、薬草管理だけが理由ではないのですが……それは、おいおい。