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Cheeze Scramble  作者: 神山 備
魔法使いの弟子編
38/61

動く絵

 そのときランスは、先日ご懐妊が発表された王太子妃の今後のサポート計画について他の治癒師たちと話していた。

 突然、バコンという音と共にランスの目の前の壁が光りだし、その光の中から、

「ランスさん、ランスさん」

というせっぱ詰まった女性の声が聞こえた。

「ランスさん、聞こえたら返事をしてください」

ランスには、そう半ば叫びながら自分に問いかける声に聞き覚えがあった。

「チーズか!」

「はい、あたしです!」

弟フレンの婚約者チーズ・キャンベル。短髪で男の格好を好むこの女を、最初本当に男だと思って弟から遠ざけようとしたこともあったが、それは彼女が何らかの事情で界渡りをしてしまった並行世界の人間だからで、本当は形に似合わない女性らしい細やかさを持ち合わせていると知ってからは、早く二人が夫婦として立って欲しいと願っている。

(フレンはチーズの気持ちを尊重するなどと悠長な事を言っておるが、そんなことをしていたら、あっと言う間に二人とも年老いてしまうぞ。そう言ってる間に押し倒せば良いのだ)二人の睦まじい様子を見る度に、ランスはそう思う。

【ああ、よかった。おってくれた……】

ランスの応答に応えたチーズは、自国の言葉で何か言いながら安堵のため息を吐いた。

 しかし、それにしても、この声はどこから聞こえてくるのだろう。そうランスが思った直後、目の前の白い壁に、どこかの森の様子が映し出された。

「な、なんだ、これは……絵が浮き出たぞ」

しかし、その絵の中の草は、風に揺れているではないか。アシュレーンの治癒師たちは、動く絵を見て騒然となった。

「ランスさん、助けてください」

そしてその映像の真ん中に映っているのがまさしく先ほど来の声の主、チーズ。彼女は大粒の涙をいくつも流しながら、詠唱姿勢をとり続けている。しかし、助けてとは何事かと思って彼女の脇をよくよく見ると、そこに倒れていたのは弟フレン。しかも、その肩口にべったりと赤黒い染み……

「チーズ、これは一体どういう事だ!」

「ファビィに……フレンあたしをかばって」

チーズはそう言ってくしゃっと顔を歪めた。それに呼応するように画像全体が揺れる。

「フレンがあたしに強力な治癒魔法を教えてくれないの。このままじゃ、フレン死んじゃう」

 ランスはそれを聞いて、思わず自分の頬を抓った。痛い、眠ってしまったのではない。と言うことは、これは今現実彼らの身に起こっていることだというのか。

 たぶん、フレンはそのファビィと闘って相当量魔力を使ったであろうチーズに高位の治癒魔法を唱えさせることを是としなかったのだろう。我が弟のことだ、容易に予想がつく。だがそれでは弟の命はあまり時を置かずに潰えてしまうだろう。だからといって、この期に及んで、まったく今まで誰も考えもしなかった魔法を編むとは……チーズ、何という女なのだ。

「だが、ここはシュバルだぞ。ここから魔法をかけるなど、所詮無理な話だ」

大体、今こうして現時点の状況が動く絵として送られてきたのでさえ驚きなのだ。何ノアルも離れた場所に正確に魔法を唱えるなど、針の穴にエレファンを通すようなものだ。

「だから、今から言う詠唱文言で、メイサのウォーレン先生に裏山の入り口まで来てもらえるように送って欲しいんです。ホントのとこ今体力ギリで、ランスさんなら絶対にこの時間ここにいると思ったから」

それに対して、そう答えたチーズはまだ詠唱の姿勢は崩してはいないが、だんだんと息があがっていってるのが判る。ランスは書記係に目配せを送ると、書記係は大きく頷いた。

「そうか、電撃を一定の波にしてそこに声を乗せるのだな」

「そう、あたしはフレンの状況を見て欲しくて画像も送ったけど、執務室からだからウオーレン先生には声だけでもいいと思う」

「解った」


 ランスはチーズから聞いた詠唱文言を唱えて、ウオーレンとの連絡を試みた。この気の良い治癒師は起きたままで何マイルも離れたシュバルから声が届いたと知って、腰を抜かすほど驚いたが、事態が一刻の猶予もないと知ると、抜けた腰を自ら叩きながら使用人に急いで馬車を用意させて、ロッシュ家の裏山に向かった。

 そして、とりあえず止血だけを施し、できるだけ揺らさぬよう担架に乗せて数人がかりでフレンの屋敷に運ぶ。ウオーレンが年老いていて、若い頃ほど体力がないため魔法が長続きしないのももちろんだが、この傷は剣ではなくファビィの牙だ。一気に治癒して悪いものを内に取り込んでしまっては元も子もないからだ。その意味でも、フレンはチーズに治癒魔法を教えなかったのだろう。


 そして、追って到着したランスとつい最近治癒師となった彼の息子レミ、三人が交代で治癒を続け、フレンはようやくその一命を取り留めたのだった。

すいません、作者本人はテレビのメカニズムなんて全く知りません。なので、テキトーに誤魔化させていただきました(笑)


本当はかなり執務室はパニック状態だったんですが、一刻を争うので、そういう外野は無視いたしました。

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