お召し替え
屋敷に戻った俺は、すぐにチーズのところに行こうとしたが、止められた。
「チーズ様はお召し替え中でございます」
と言う。少し驚いたが、母上に男の形をしたまま会わせるのはと思ってメイド頭あたりが気を利かせたんだろう。まぁ胸は貧相だが、特殊な体型ではないから、お仕着せでも着せればそれなりに見られるだろうと思った。
しかし、着替えが終わったと言われて向かった先で見たモノは、すっかりとどこかの貴族の令嬢に化けてしまったチーズの姿だった。
俺はデザインのことなど全く解らないが、義姉上の物にしては若向きのような気がする。何よりそれはチーズの身の丈にぴったりと合っていて、思ったほど胸も貧相には見えない。まさかと思うが、母上はとうに知っていて、急ぎ作らせたのではあるまいな。俺はそんなことを考えていて、
「ちょっと、ノックぐらいしなさいよ」
とチーズに言われるまで何も言葉を発せずにいた。
「あ、ああ、まだ着替え中だったか……すまん」
何とかそれだけ答えた俺に、
「今おわったとこ。どう、見違えた?」
チーズは得意顔で恭しくお辞儀をしてみせるたあと、小首を傾げる。
「あ、ああ」
な、なんだ、その仕草は、反則技ではないか! 俺はパクパクと水を換え忘れた水槽のフィラリカのようになってしまった。すると、チーズはムッとした表情になり、
「どうせ、『馬番にドレス』だって言いたいんでしょう。じゃなきゃ、『七・五・三』?」
訳の分からないことを言い出した。一応オラトリオ語なのだが、全く意味が解らない。
「は? 『馬番にドレス』? そっちの世界の馬番は女装の趣味があるのか? ああ、女もズボンを穿くのだから、逆もあるのか。
それに、『七.・五・三』とは何の暗号だ」
するとチーズは、
「馬番がドレスって……」
と言い、吹き出したかと思うと、息も絶え絶えなほど笑っている。何なんだ? 何を笑うことがある。お前が今自分で言ったことだぞ?
ひとしきり笑った後チーズは、『馬番にもドレス』というのは、身分の低い者でも、良い物を身に付ければそれなりに見えるという意味だということ。また『七・五・三』というのは、十一月十五日の日に七歳、五歳、三歳の子供を連れて神殿に行って祈りを捧げるという、彼女の住むニホンに昔からある風習だと言った。
だが、そのどちらにも笑う要素などひとかけらもなく、俺にはチーズがあんなに笑う理由がついぞ解らなかった。
本当にこいつの頭の中はどうなっているのだろう……
フレン、巨乳好きでもないんですが、やっぱり気にはなるようです。
フィラリカは平ったく言えば金魚です。顔も真っ赤ですしね、まんまです。




