噛み合わない
「ここはアシュレーン王国第二の都市メイサだ」
俺がここがメイサだと説明すると、Chijuruは目を丸くして、
「アシュレーンって何? ヨーロッパにそんな国あったっけ? ああ、そう言えばアフリカにの地名にメイサってあった気が……じゃぁ、ここアフリカ?」
とにかくオラトリオ語にはなったが、相変わらずもの凄い勢いで言葉を紡いでいく。それにしても、Chijuruが口にするのは全く知らない地名ばかりだ。
「そのヨーロッパとかアフリカとはなんだ。だから言ってるだろ、ここはオラトリオの大地、アシュレーン王国だ」
「オラトリオ、はぁ?」
「オラトリオを知らないだと。冗談も休み休み言え」
Chijuruの住むところではオラトリオと呼び倣わしてはいないのか。俺はいやな予感がした。
「それはこっちの台詞だよ。オラトリオって、あたしの住んでるのは、地球! 大阪! あたしはただ、ミナミのカラオケボックスで歌ってただけなんだからね」
すると、Chijuruは俺を睨みながらそう返す。あれは塔だと思っていたのだが、実は箱だったのか? 形が四角だと言われればそうだが。
いやいや、問題はそこではない。Chijuruはチキュウ、オオサカ、ミナミと言ったな。そんな地名は今まで一度も聞いたことがない、これはひょっとして……
「おまえ、ひょっとして……並行世界から来たのか?」
と尋ねると、Chijuruは一旦首を捻った後、抱えてきた鞄の中から、見たことのない材質の本を取りだした。中には石版のようなモノが入っていて、それには文字が刻まれている。そうか、これは魔道具か。
「な、なんだそれは! 何かの武器か」
直接魔道語を詠むのではなく、これで術式を組むのだな。だとしたら、そこここにある光る箱もたぶん魔道具なのだろう。言葉ではなく文字だけで伝わっているに違いない。
「ただの辞書だけど」
だが、Chijuruはそう反論した。
「辞書が石版の訳がなかろう」
「石版? コレ、石じゃないけど。そんなこと言ったって辞書は辞書だもん。ねえさっきのって、by any chanceで良かった?」
俺がそう言ってもChijuruはあくまでも辞書だと言い張り、石版にby any chanceと入力する。すると文字の上部にある灰色のところに、浮き出たChijuruの世界の文字らしきものを確認して、
【なんや、ひょっとしてか。へぇ、こんな言い回しなんや】
とぶつぶつ言い、一瞬の後、
「えええええーっ!!」
と、素っ頓狂な叫び声を上げる。本当にこいつのリアクションはまったく予想がつかない。
それも含めて、俺はChijuruはオラトリオではなく、並行世界から来たのだと確信したのだった。
フレンあくまでも魔法に拘ってますが、オラトリオは始めに魔法ありきの世界ですから、ない前提では考えられないんですよね。
そろそろ新しい展開が欲しいところですが、まだもう少し別視点にお付き合いください。




