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天の思し召し

「一体、いきなり嫁って何ですか。大体、魔法を使えないあたしに魔法使いの嫁なんてムリ……」

 フレン母があまりにも軽く即答したんで、あたしはちょっとイラがきて、彼女にそう言うた。そしたら彼女が、

「チーズちゃん、魔法を使えないって?」

と、目をまん丸にしてそう返す。

「何がです! オラトリオでは当たり前かもしれませんが、魔法なんて地球じゃ存在しません」

「魔法という概念が地球にはどうもないようなんです」

「そうなの? こんなに魔力持ってるのに??」

フレン母は――ああ、めんどくさいから、ジーナさんって名前で呼ばしてもらうわ――と、首を傾げた。

 ここに来てからみんなあたしがかなりの魔力を持ってるって口を揃えて言うけど、当のあたしには全然実感はない。ま、それやったら頑張って自力で地球に戻ったれって思てるけど、それができるかどうかはあたし本人が一番分からへん。


「魔力があっても、魔道語がなければ術式は組めないでしょうから」

と、フレンがそうフォローしてくれる。けど、ジーナさんは魔法がない世界を想像でけへんみたい。

「じゃぁ、怪我なんかはどうして治すの?」

と素朴な疑問をあたしに投げかける。

「あたしは医者でも看護師でもないからわかんないです。分かんないけど、あっちはこっちより機械や道具が発達してると思います」

 

 そう、こっちの文化レベルは、あたしが三日間見たところでは中世ヨーロッパ程度。

 あたしが思うに、魔法が便利に使える分、機械文明が進まんかったんやと思う。『必要は発明の母』人間にとっては少々不自由な方が、工夫していろんなもんを作り出すきっかけになるんかも。


 ちなみに、魔法というのは、魔道語という言語に術者の魔力と気力(体力)を乗せて構築されるモノ。

 一応、魔道語はちょっとでも魔力があれば読むことができるらしいが、魔力が足りなければそれは発動されない。まるっきしあの、ド〇ク〇の干し草フォーク(ホントは悪魔の鎌なんやろけど、あたしにはどう見てもそうにしか見えへん)持った小悪魔ちゃん状態。

 魔力の量はその子が持って生まれるもので、訓練でどうにかできるものではないらしい。

 

 本来貴族なんてもんは位が高いほど、政略結婚当たり前の世界なんやけど、魔法がベースになっている職種(魔法騎士と治癒師)だけはそうやないらしい。

 突然魔の強い子供が生まれることもないこともないけど、やっぱり親の魔力が強いと、子供の魔力も強い事が多い。

 で、世襲制でそういう仕事を続けて行こと思たら、できるだけ高い魔力を持った人を嫁さん(婿さん)にしやなアカンということで、魔力があったら身分は問わへんという。

 

 そんで、この説明をしてくれたジーナさんも、実はメイサのパン屋の娘。バリバリの庶民やったそう。父親――(つまりフレンのじいちゃん)の命を受けて領地の視察に来たフレン父はジーナさんに一目惚れ。 

「同じだけ魔力を持っている者はどこにいても引き合うのよ。それが『天の思し召し』なのよ。世界を超えて引き合うなんて、なんて素敵なんでしょ」

ジーナさんは、うっとりとそう言った。

 いや、それはちゃうと思うけどな。それやったら絶対、もっとこんな風にトリップする人がおるはずやもん。


 それ言うても、ま、このお義母さん候補ジーナさんはスルーすると思うけど。

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