プロローグ
「woo~woo~yeah!」
あたしの名前は神部千鶴、二十二歳。あたしはさっきからボックスにこもって独りで歌っている。
「大賞がなんだ、編集者なんかクソ食らえ!」
曲の合間にこんなちゃちゃ入れられんのも、一人カラオケやからこそ。
そう、今日ここに来たのは小説新人賞の落選一人残念会。因みに都合5回目。
初めて応募したとき、あたしの頭の中には、『新進気鋭の高校生作家』なんて見出しが充満してたんやけど、今はそんなもんぜんぜんあらへん。せめて、一次選考にでも残ってくれたら……でも、けど、それすらないあたしって、才能ないんかな。
あかんあかん、落ち込んだってええもんは書かれへん。ポジティブシンキングっ! じゃぁ、声が枯れんうちに十八番のアレ歌っとこかな。
あたしは端末をとってその曲を入れた。あの九.一一の慰霊祭でもよく歌われたその曲は、毎年ゴールデンウイーク前後に公開されるアニメ映画でも主題歌となったためか、元々は聖歌やそうやけど、カラオケにも入っている。そして、あたしはこういう自分の音階の限界に挑戦するような曲がわりと好きやったりする。
ただ、腹から声を出せるような技量はないんで、こういう曲はノってきた早い目に歌わんと間違いなく声が出えへん。
イントロが流れてくるとあたしは徐に立ち上がって、背を伸ばして歌い始めた。サビの部分で転調さらにキーが上がる。
けど、キンキンの酸欠声で一番の高音部を歌ってたとき、足の下で『バゴン!』と大きな音がしたと思たら、いきなり床が抜けた。そしてあたしは、
「I? ~~ん? !」
というどっかの動物園の園長さんの持ちギャグみたいなマヌケな擬音を残して落下していったのだった。