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夢路の町と七人の迷子(5)

「……どうなってやがる。アロカお前、リアって言ったか……?」

「おーい! そこのご一行! 何してるんだー?」


 洞窟を出た先で、四人は呆然と立ち尽くしていた。睦月の言葉に誰かが答える前に、野太い男性の声が響いた。音の発生源を振り返れば、数人の中年とおぼしき男性たちが手を振りながらこちらへ向かってくる。自分たちが通ってきた森の一本道からやってきたらしい。


「こんなところで何やってるんだ? 変わった格好だし異国の旅人さんか……? でもここには何もねえぞ」

「あたしたち、この近くのアヴィ・ジオナって町から頼まれて来てるの。町を救ってほしいって」


 ブレアがそう説明すると、男たちは驚いてお互い顔を見合わせた。怪訝そうにそれを見ていたブレアたちに、詳しく聞かせてくれと男たちは言った。顔に出た疑問符は消えないままだが、彼女らは自分たちの身に起きたことを話した。リアからの頼まれ事から、たった今あの崩れる洞窟を抜け出してきたことまで詳しく。


「……あ、あんたら、あの洞窟から生きて帰ってきたのか……」

「どう見ても訳ありだよなあ……ちょっとさ、詳しく聞かせてくれよ」


 元より、あの洞窟でアロカの言う“魂の声”を聞いた時点でこの訳ありな事態がよくわからなくなっていたのだが。男たちは驚いたというより恐れ入った、という表情でこちらを見ている。彼らは互いに頷くと、歩きながら説明すると言って共に一本道を戻ることになった。


「あんたらは何も知らないみたいだから、最初から話すことにするぜ。まず、あんたらが救ってくれって頼まれた町。アヴィ・ジオナなんて町は存在しねえ」

「はあ!? いきなり意味わか――」

「俺たちは確かに住人がそう言ったのを聞きましたが……気にせず続けてください」


 睦月の言葉に思いっ切り言葉を被せたライト。相変わらず無表情の彼に食ってかかろうとした睦月をブレアとアロカが宥める。話の腰を少しでも折られるのが嫌だったのかな、とブレアは内心ため息をついた。


「あの町は十年くらい前に魔女に呪われたんだ。詳しい状況まではわからねえが、何も知らない弱い旅人を引き込んでは食べちまうって噂だ。だが強い旅人なら少し違う。自分たちの正体に気づかれる前に洞窟に誘い込んで殺すんだと。あんたらのいた洞窟がそれだ」

「……つまりさ、あたしたちは強い旅人で、あの洞窟で生き埋めにされるとこだった……のか?」

「そういうこった。助かったのはあんたらが初めてかもなあ……」


 背筋が凍る。正直信じられない話だ。だが本当ならば、今までにたくさんの旅人がリアたちに騙され、あの町で魔女に食べられて命を落としたり洞窟で生き埋めになってきたのだろう。睦月もすっかりおとなしくなって話を聞いていた。全員が少しの間放心状態だった。


「今じゃ都会で幻覚の町なんて言われてるが、昔は夢路の町って呼ばれてたんだ。夢の中みたいに幸せな町だったからな……住人の魂の声が聞こえたあんたらなら、本当に町を救えるかもな」


 男性のその言葉に、すぐあの町の住人たちの幸せそうな顔を思い出した。リアも言っていた。小さいけれど、誰もが幸せに暮らしている町だと。男の話はそれで終わりだったらしく、その後は一本道を抜けるまで皆一言も発さなかった。

 男性たちとは逆方向だったため、抜けた先で彼らとは別れた。彼らは近くで洞窟の異音を聞いて様子を見に来ていただけの行商人らしく、ライトたちが町へ戻ると告げると連れていた馬のうち二匹を譲ってくれた。予想していたことではあるが、やはり馬車は待っていなかった。自分たちがあの洞窟で死んだと思っているのなら、当然のことだ。


「やっぱ死んだと思われてるのかしら……なんか腹立つ」

「早く戻るぞ。手遅れになる前に」


 彼らは町へ戻る。直樹たち三人を残してしまったのだから。あの話が全部本当なら、直樹たちは弱い旅人として魔女に食べられてしまうかもしれない。見るからに戦えなさそうな顔ぶれが思い浮かび、ライトの気持ちを焦らせた。彼の後ろにブレア、睦月の後ろにアロカが馬に跨がり彼らは町へと急いだ。


**


「……まるで魔法の国だな。信じられん」

「そのニホンっていう国の、直樹さんはコーコーセイさんなんですね?」

「はい、まあ……僕らの国じゃ普通ですけど」


 そう言って何故か直樹は照れた。二人が携帯電話に食いついたあと、これでもかというくらい興味津々で直樹の世界について聞かれていた。ラジオはダニエルの世界にもあったらしいが、テレビやパソコンといった電化製品から日本の学生制度まで彼らとはまったく違っていた。やはり直樹の世界が一番文明の進んだ国らしい。


「でもどうしてニホンの学生さんはお勉強が嫌いなんですの? いろんなことが学べますのに……」

「学べることへの有り難みが無くなっているのだろう。なんとも幸せな人種だな」

「あはは……お二人のとこじゃ普通じゃないんですよね」


 聞いた限りでは、ライラとダニエルの世界では似通ったところが学生制度にあった。お金持ちでなければ教育は受けられない、というところだ。お金がなければ子供でも働く、直樹の世界でも貧しい国なら珍しくない話だが。見た目からお嬢様オーラの絶えないライラと研究者のダニエルはまずお金持ちの部類に入るだろう。


「それにしても、ライトさんたちいつ戻られるかしら……」

「あれだけ自信たっぷりだったのだ、怪我して帰ってきたら存分に笑ってやろうじゃないか」

「捻くれてるなー……」


 心配そうなライラと、眼鏡を指で押し上げながら鼻で笑うダニエル。陰と陽。直樹は思わずぼそっとつぶやいた。彼らがどれくらいで帰ってくるのかはわからないが、待っているだけというのもなかなか堪える。直樹がため息をひとつつくのと同時に、ドアを軽く叩く音。どうぞ、と声をかければリアがお辞儀をして入って来た。


「リアさん、どうかしました?」

「ふふ、お話し中だったかしら? ごめんなさいね。今からメインディッシュを作ろうと思って来たんです」

「え? あー……っと、お手伝い、ですか……?」


 くすくすと笑みを零して告げるリアの言葉の意味が、直樹にはよくわからなかった。人手が足りないので手伝ってほしいということなのか――そんな解釈しか出来なかった。立ち上がり、彼女に歩み寄る。その時、胸元にあった羽根が光を帯びはじめた。先程までは何もなかったのに、今は淡い光を放っている。突然の出来事に直樹は驚き足を止めた。しかしリアはまるで見えていないかのように表情を変えずこちらに近寄ってきた。


「そう、ですね。お手伝いです。でも何もしなくていいんです。あなた方はただそこで、私に切り刻まれていれば――――ねッ!」


 直後、ダニエルが叫んだ。危ない、と。目を見開き口角を吊り上げて笑うリア。後ろ手に持っていたらしい包丁が、今にも直樹に振り下ろされようとしている。こうやって避けなければいけない状況に、体は硬直して動いてくれなかったりする。直樹はぎゅっと目をつむった――――その耳に、ひとつの銃声が響いた。

 驚いて目を開けると、左肩を押さえてうずくまるリアの姿が目に入った。彼女が睨みつける先を探した。同じ方向を、ダニエルが驚いて見ていた。視線の終着点は、ライラにあった。


「……直樹さんから、離れてくださいませ」


 右手に黒い銃を握ったライラ。躊躇いなく撃った彼女の表情に、先程までの優しい笑顔は何処にもなかった。

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