03:魔法Ⅰ
こんばんは、秋藤です。
この回はタイトル通り、今回の話、つまりはトリトニアでの話の1部、前編です。
このような形で出すのはあまりしたくなかったんですが、
書いているうちに結構長くなってしまう前兆が現れたので、今回は切ってみました。ちょうどいい場面でしたので。
では、このへんで。楽しんでいただけたら幸いです。
剣源総覇流――――――剣術、体術の原点にして頂点、総本山に位置する流派。
全ての流派の起源と言われている。習う者は数多いたが、その流派を受け継げる者は少ない。受け継げなかった者は各々の得意とした技を起点に各々独自の流派を展開していった。その結果が今となる。数多くの流派を生んだ結果と。そして、剣源総覇流を受け継いだ者、剣源総覇流を会得した者は現在までで4人いる。剣源総覇流を生み出した人物、剣源総覇流初代"伊江尚 飯左衛門"。次に伊江尚の一番弟子、2代目"与左長 拾架"、3代目"泉守 伊心"、そして4代目"不知火 伝朴"。"剣聖"と謳われる4人だ。
おれたちはその4代目不知火 伝朴って人に会いに行くため、このトリトニアに向かったわけだ。列車の中での後半の話はその人物の話だけだ。ただ、結論はその人に関する情報はこれと言ってないという話で終わった。
『そんなんで、どうやって探すんだよ…』
――――――高台にいる謎の人物――――――
乾いた空気、晴れ晴れとした天気だ。ここまでくると太陽もウザったい。風は乱暴に、荒野に砂が舞い散る。人気がない町トリトニア。
「本当にこんなとこにあいつがいるのか?……確かに町からは何か感じるが、何かに阻害されてわからねえな。」
ここに居座り、3日目か。町にある駅にはもう何回列車が到着したことか。まぁ、人は誰も降りてないんだがな。あいつの到着を待っているんだが、遅い、死ぬほど遅い。
「来たら一遍殺そうかな……ん?列車か…もう何度目だよ………んん?…人か?人?こんなとこに?…」
黒いローブを纏った者に魔気が籠もる。
「鷹の目……っ!?…あれはステイルフォードか!?なんであいつがここに…?それに、あの藍髪…それにあの魔気……かったるい仕事に面白いヤツらが舞い込んできたもんだ――――――
――――――トリトニアへ向かう人物――――――
大地が荒い。歩きにくいとは思わないが、風が強く、砂塵が舞う。
「トリトニアにあいつらがいる、か。」
血塗れの、血に飢えた狼。仲間を殺され、復讐を誓った狼。――――――
降り立った町、トリトニア。急行列車アーロンの終着駅、終点。人がいない町とはよく言ったものだ。
規模はアラマンダの半分といったところ。ほぼ全て石造りの民家。町の中心に、店が集まっている感じだ。しかし、町を一周歩き回っても外には人が1人もいない。それに店の中にも人がいない、客人も店員もだ。本当に人がいない。
この町と近辺を捜索するため、おれたちは二手に別れた。おれ、デュオン、イヴ、ジル兄で町を、トビさんとノスリさんが近辺を捜索した。
そして、今は集合時間。
「ホントにに誰もいないな。」
一回りしてデュオンのため息交じりのひと言。
「なんか、ここまで人がいないと不気味だね~。」
「ジル兄、こんなとこにホントにいるのかよ。人が1人もいないんだぜ…」
「ガセネタだったのかな?…まぁ、100パーセント信頼してたわけじゃないんだけど、ある程度信頼できるスジからの情報だったんだけどな…」
「そのスジってどんな奴?」
「ステイルフォード家にちょっと絡んだ人物でね、いわゆる情報屋って感じかな。」
「そ、それなら信頼できるか…」
トビさんと、ノスリさんが帰ってきた。
「悪い、待たせたな。」
「トビ、どうだった?」
「西の方、5,6キロメートル行ったところに森があってよ、一応調べては見たんだが人は誰もいなかった。それと、この町の周りはなんかおかしいな、その森までは荒野なんだ。高い岩ばっかでなにも生えてない。――――――デュオン、そっちはどうだったんだ?」
『あれ、そういえば隊長って呼んでなかったっけ…?任務中だけなのか…?』
「こっちもダメだ。人すらいないな。まぁ、ここについてから感じていた通りだが…」
「それに、ここに降りたやつもいなかったな。降りたのはどうやら俺たちだけか。どうする、ジキルくん。ここを離れるか?」
「いや、ノスリさん。もうちょっと調べさせてください。この町から何か感じるんです…」
一呼吸。
間が空いた。
「なら、おれは森に行ってみたいな。いいかな、ジル兄?」
「そうだな、みんなでここにいなくても大丈夫だろう。トビさん、ノスリさん連れてってくれるかな?」
「あぁ、いいぜ。」
「もちろんだ。」
「じゃあ、私とデュオンくんとジキルさんが町の探索?」
「いや、イヴもついて行ってくれるかな?」
「ん?いいけど、ふたりで大丈夫?」
「なぁに、心配ないさ。誰もいないんだからね。――――――デュオンはそれでもいいかな?」
「別にオレはなんだっていいぜ。」
「じゃあ、それで。とりあえず、解散!」
それからおれたちはまた別れ、別々に探索している。
――――――デュオン・ベルグ――――――
相も変わらず人がいない町並み。今オレはジキルさんと一緒だ。なんだか、ふたりきりにされた感じではあったが…どうかな。
「なぁ、デュオン?」
「ん?」
「その、古代魔法陣を見せてくれないかな。」
『ん?…どういうつもりだ?』
「まぁ、いいけど。どうしたんだ、急に…?」
オレは答え、両手の手袋をはずし、ジキルさんに見せる。
ジキルさんはちらっと確認するだけで、もういいよ、とのひと言。
『いったい、何がしたかったんだ?』
「まぁ、右手の魔法陣が反射を生み出すもので、左手はその位置補正ってとこかな?」
「な、なんで解ったんだ?ちらっとしか見てないのに…?」
「…デュオン、オレはお前が古代魔法の使用者だってわかってたんだ。」
『っ…!?』
「な、どういう意味だよ…?」
「古代魔法を使った者の魔気には特有の違いが現れるんだ。それがおまえの魔気から読み取れたからな、それでわかったんだ。」
「…だから、なんだよ。」
「それでな、おまえが列車の中でヴァンのやつに告白してくれただろ?…古代魔法なんてもんを使ってるやつには陸なことが起きないからな。普通のやつなら隠したがるはずだが、それをしなかった。おまえはヴァンにちゃんと話してくれた。」
「だから…それが何だってんだよ!」
「ありがとう…」
「……は…?」『なんで…』
「ヴァンを信頼してくれて、仲間だと思ってくれてありがとう…ただ、それだけだよ。」
「い、いや別にそんな大したことはしてねえよ…」
「…なんでヴァンが魔法を使えないか……」
『それは…』
「知りたがってたろ?ヴァンの事をさ。」
「まぁ、な。オレは自分が古代魔法を使ってることを自分が認めたやつには話すようにしてんだ。その後に嫌われるようなことがあってもな…だから、魔法を教えあうことがオレにとっての信頼できるかどうかの線引きなんだ。」
「まぁ、なんとなく想像はしてたよ。」
「…それでも、ヴァンのことは言えなかったのか…?」
「それは勘弁してくれよ。さすがに本部に情報を提供しようとしていた奴には話せないさ。」
『む…』
「でも、今は話せる……聞きたいかな?」
「もう、どうでもいいよ。」
「じゃあ、聞いてくれ。」
『な、なんだよ……』
「ヴァンにはある種の呪いの魔法をかけられたんだ。生まれる前からな。それで、心臓を動かすため、命の火を灯すために、獣神の魂をヴァンの体に入れ、呪いを抑制したんだ。」
「ぜ、ゼオルの!!?…か、体に!!?…そ、そんなことしていいのかよ!いくら王家だからって…そんな……神殺しだぞ……!」
「あぁ、そうだ。神殺し、この世界の禁忌。各々の国に存在する、各々の神を殺すこと……だけどな、ヴァンはそうやって生まれた子なんだよ。」
「な、あいつが……」
「まぁ、そのせいで生まれてからゼオルの魂と安定しない状態が続いてるんだ。だから、魔法が使えないんだよ。」
「……り、理由は解ったけど…そんなことって…」
「なぁ、それでもヴァンはデュオンにとって…仲間かな……?」
「あ、あたりまえだろ!」
「…そうか、よかった……じゃあ、改めて、オレたちと来ないか?魔法戦斗団体から抜けてさ。イヴにも話すつもりだ。…あいつも何か抱えてそうだしな。」
「………」『な、何言ってやがる…』
「オレとヴァンの旅はな、ヴァンを育てるためって言ったよな?覚えてるかな…」
「………」『確かに覚えてはいるが…』
「この旅はヴァンの運命を懸けた旅なんだ。」
「運命を…」
「そう…ヴァンに呪いをかけた奴が言っていたそうだ、『その子供にいずれこの国を破滅に追い遣る運命を持たせた』ってな。だから、王は考えたんだ。その子、つまりはヴァンを12まで生きさせると。そして、12になった時、ヴァンの命を獲るってな……」
「な、なんでせっかく生まれてきたヴァンを殺すんだよ!?」
「それは…オレにも全ては解らない……ただ、もう、運命ってやつに縋りたかったのかもな…自分の息子と自国の民の命……国王として、ひとりの親として、選べなかったんだと思う。理性をとるか、感情をとるか…」
「ヴァ、ヴァンは今11才だよな?い、いつ生まれたんだ?いつ12になる?」
「……あと、半年だ。」
『嘘だろ……おい…あと半年でヴァンが殺される…』
「この旅はそういうもんなんだよ。」
「………」
返事はしなかった。返事は出来なかった。
あまりにも重く、大きく…自分の力を遥かに超えている感じがした。
ヴァンがあと半年で、自分の親に殺される、運命に殺される…
あまりにも唐突で、不意に、出し抜かれた感じだ。
ジキルさんは何も言わなかった。黙るという、卑怯な方法をとったオレに何も言わず、唯々《ただただ》見つめているだけだ。
沈黙。
圧迫。
畏縮。
「そうだ、この町の事調べないとな…デュオンはそこで座ってな。ちょっと調べて…」
突然何者かの気配がした。
「お二人さん。ご案内しましょうかね。」
ふたりが振り返ると、そこには影があった。そのまんま、人の影が。背は高い。2メートルといったところ。薄っぺらくはない、人の形をしている。
「なんだお前は。」
ジキルさんの目が変わった。冷徹な、強みのある目に変わった。
オレも本職に戻る。
「いやいや、だから、ご案内しましょうかと思ってね。この町、トリトニアへと。お二人さん、いやお連れさんたちもそうですが、会いたいんでしょう?不知火さんに…」
「お前、知っているのか?不知火 伝朴がどこにいるのかを…」
「ははは、もちろんでございますよ。この町に御出でですよ。ですからご案内しようと、こうして迎えに来たんですよ。」
「迎えにって、ここがトリトニアじゃねえのかよ。」
「そうですよ。違います。ここはトリトニアであり、トリトニアでない。」
その影は右手を広げる。その広げた空間にドアが現れた。
「……この先が、トリトニアです。」
「デュオン、どうだと思う?」
「確実ではありませんが、危険な感じは受けませんね。それに、手がかりがない現状にしたら、好転の手になるかもしれませんね。」
『スイッチ入ったな。これが子供の反応とは思えないな。それにいい状況判断だ。』
「じゃあ、案内してもらおうか。」
「では改めて、お二人さんご案内します。」――――――
鬱蒼とした森だ。日差しは木によって遮られ、あまり入ってこない。動物や昆虫が植物の影に隠れ、蠢いている。危険な感じはしない。ゆっくりとした、静かな森だ。
「やっぱり、人はいないな。」
おれはつぶやき、改めて実感する。本当に人がいないのだと。
ここで、何もしないのも暇なので、みんなに質問することにした。
「なぁ、なんでみんなは魔法戦斗団体に入ってるんだ?」
みんなも人探しは無駄だろうと確信し、座り込む。
おれの質問にはノスリさんが答えてくれた。
「俺とトビは同期でな。一緒に加入したんだ。もう20年くらい前になるか。俺たちは小さな村で育ったんだが、そこに1人の魔法戦斗団体の人がいてな、村の英雄だった。部隊の隊長とか、特に秀でた人ってわけではなかったんだが、それでも村のみんなの英雄だった。俺たちはその人に憧れて育ち、現在に至るわけだな。」
「すごい人なんだな。それにノスリさんもトビさんもスゴイな!夢を追い続けて、叶えちゃうんだもんな。」
「まぁ、な。それにしてもあの頃は加入するのにも一苦労だったんだぜ。入団テストも厳しいものばかりだった。だが、な。最近はちっこいのが多くなってきたけどな。」
ちらりとイヴを見る。
「心強いのには変わらないけどな!」
期待を込めた笑顔、だが、それも一瞬だった。
『……っ!!』
「トビ!」
「あぁ、わかってる。気づくのが遅いのはお前だよ。」
「…悪い……イヴ、ヴァンを連れて町に戻ってくれ。」
「……えっ?」
それも一瞬。イヴはその一瞬で何かを察知し、頷く。
「ヴァンくん、行こう。」
「あ、あぁ。トビさん、ノスリさん、気を付けてな。」
そう言わなければならない、そんな気がした。
その言葉を残し、おれとイヴは町に戻る。
森を抜けた後、イヴに尋ねた。
「なぁ、ふたりは何であんなこと言ったんだ?」
「…それは、誰かの魔気を察知したから。つまりは何者かの気配を読み取ったからだよ。」
「人がいたってことか?じゃあ、町の人間かも…」
「それはわからないけど、でも、私たちを町に戻すくらいだから違うと思うよ。」
「イヴは解らなかったのか?」
「私はあんまり気配を読み取るのは上手くないから。それに、実戦の勘ってやつもないからね。まだ難しいんだ。」
「そうなのか。」
「でも、人並みにはわかるよ。ただ、あのふたりがスゴイだけなんだよ。」
「頼りになるのか。」
「そう。だから私たちは速く町に戻らないと…っ!渦水!」
イブの手から水が出て、円形の楯となる。
その楯で防いだものは火だった。だが、おれには火の斬撃に見えたが。
その火の先には人がいた。50メートルくらい先に人が。
「ヴァンくん。私から離れないでね。」
「え?」
「あの人、きっと強いから。」
その言葉を聞いた直後だった。さっきまで遠くにいた人が、目の前に。
「死んでくれ。」
短い言葉だった。冷たい言葉。その言葉と同時にそいつの剣がイヴに斬りかかる。
だが……
キィィィィン…
そいつの剣がおれの刀と交わる。
「それはないだろ。いきなり出てきて、死ねだ?何言ってんの?」
「あぁ?雑魚は引っ込んでろよ。」『コイツ魔気も感じられないのに、オレの剣を止めやがった…』
そいつは白髪で、年は18歳といったところ。高さは170センチくらいか。服装はゆとりがあり、白をベースに炎をあしらったデザイン。腰には2つの剣を携えている。1つはおれの刀と鍔迫り合いになっている。
「鉾水!」
イヴの手から現れた水は瞬時に水でできた鉾となる。
「ヴァンくん避けて!」
イヴの声と同時に水の鉾は放たれる。
おれはギリギリでかわす。本当にギリギリだった。というか、髪の毛が少し斬られたかもしれない。
『言うの遅えよっ!!』
「玉炎。」
さっきまで鍔迫り合いをしていたはずなのに、そいつは4、5メートル離れていた。
そして、そいつの体は丸い炎で覆われていた。
おれの頭を掠めた鉾が丸い炎に襲い掛かる、いや、吸い込まれたように見えた。
「くっ…」
「残念だったな、水使い。どうやら魔気はオレの方が上らしいな。」
今ので思い出した。列車の中での何気ない会話の中で魔法の相性について聞いた。魔法の性質、魔質。その種類は今のところ8種と3種、合計11種だ。だが、その種類の中で相性というものは正確には存在しない。全ての優劣は大概魔気で決まるということだった。魔質本来での優劣は、魔気がほぼ同等の状態で起こるというものだった。
それを今、実感し、見たんだ。
火と水、水と火。
これは、この世界の魔法、魔気を理解するのに、非常にわかりやすい例だ。
普通は火は水をかければ消える。水の中に火種を落としても消える。
しかし、ここの世界は違う。厳密に言えば魔法でできたモノは違う。
魔気の強い火はそれ以下の魔気の水では消せない。魔気の弱い水の中にそれ以上の魔気の火を入れれば、その火は消えることなく沈む。
「魔法、か…」
呟いた瞬間、一呼吸も間を空けることなく、そいつの蹴りをくらう。
「ガっ!?」『コ、コイツ…』
不覚にも気を取られていた、その隙を狙われた。懐に入った蹴り。
蹴りの威力は剣士のものとは思えないほど強烈で、5、6メートル吹っ飛ばされた。いや、この場合は吹っ飛ばされた距離よりもダメージの方が重要で、立てない。
吐血。
骨折。
内臓破裂。
意識が朦朧とする。
かろうじて見えるものは、いや、意識が飛んだ――――――
……光が、音が、声がおれを目覚めさせる。
体が硬直した。体の痛みももちろんこの要因だが、それ以上に目の前の光景が原因だ。
右にいるひとりは立ち、左にいるひとりは座り込んでいる。
そいつは立っていた。左手に持っている剣を座っているイヴに向けて。
「おぉ?起きたのか。よく見とけよ、人が死ぬ瞬間を…」
イヴの目――――――その目は、おれには到底生きることを諦めている目には見えなかった。
体に、力が籠もる。
何故だろう、ここにいるのは――――――
何故だろう、後ろにイヴがいるのは――――――
何故だろう、目の前に刃があるのは――――――
刃がおれの懐に向かってくる。火を纏った刃だ。
おれの手には何もない。守るための刃も、攻めるための刃も、刺し違える刃も――――――
体に、そいつの、刃が――――――
どうも、読んで下さってありがとうございました。
今回は、物語としてはあるまじき行為なんですかね、語り手をコロコロ変えました。というより、変えていかないと書けなかったんです。
頑張って時間軸はずらさないようにやっているつもりなんです...がね。
話は考えていると、活動報告で言いましたが、ここまでの話というわけではありません。トリトニアの話、いやその後も考えてはいるんです。
気づきました、長いですね、すみません。
引き続き、応援してくれたらありがたいです。
これからもよろしくお願いします。