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02:旅立ち、事件、仲間

 どうも、秋藤です。よろしくお願いします。

02:は長くなってしまいました。すみません。

それでも、楽しんでもらえたらうれしいです。

毎度のことですが、温かい目で読んでやってください。

では、このへんで。

 ひと騒動、ひと決心、一段落ついて、迎えた朝。

「おい、そろそろ行くぞ~。」

 ジル兄の声。なんだろ、遠くから聞こえる。

「もう、いい加減起きろよ。」

 はっと目が覚める。

 あたりを確認。

 テントの中ではない。周りを見渡しても残ってはいない。おれが出発前の準備に必要なもの以外は。

 寝てる間に出されたのか。

「ごめん、ジル兄。おはよう。」

「あぁ、おはよう。顔洗って、目覚ませよ。」

 そばにあった桶の中の水で顔を洗う。

 冷たい。

「うん、目覚めた。」

「じゃあ、出発前に話があるからここに座れ。」

 座る。向かい合う。

「では、これを渡しとく。」

 さやに入った刀二本を渡された。

「これは?」

「おまえの新しい武器、得物だ。ただ、約束があるからな、ここからよく聞くんだぞ。」

 頷く。それを確認してからジル兄は話し出す。

「第一に、人を殺すな。」

「第二に、剣を抜く必要がある時だけ、剣を抜け。」

「第三に、逃げることができる状況なら、逃げろ。」

「第四に、オレの言うことは聞け。だ。解ったか?」

「うん、わかったよ。守るさ。」

「それと、これはできるだけ守れ。ステイルフォードの名は出すな、だ。」

「うん?まぁ、いいよ。おれはヴァンだけでも十分だし。」

「ならいいんだ。それと、これもおまえに預けとく。」

 黄色い水晶のような欠片がついているネックレスを渡された。

「ほれ、身に着けとけ。」

「なに、これ?」

「ん?お守りだ、お守り。渡しとくもんはこれくらいかな。じゃあ、行くぞ~。」

 おれはネックレスを身に着けた。

 ジル兄は、ウエストバックをあさってる。

「おっし!じゃあ、最初はどういうとこ行くんだ?」

「ん?まぁ、人が多いとこかな。さっさとおまえには、魔法に慣れてもらわないと。心配なのは、おまえが魔法に慣れる前に危険な目に合うことだからな。」

「人が多いとこかぁ~。楽しみだな~。………んで、なにやってんの?」

「ああ、悪い。…お、あった。」

 そう言って、何かを取り出す。

 何かを持ってる手は力が籠り、白く光る。

 すると、その何かを地面に投げる。

 パキンっ!

 音がしたその場所にはボードのようなものがあった。

 楕円型。先は細くなっており、縦約1メートル80センチ、横約80センチ、厚みは2センチといったところ。後部には何かを排出するような、機械的なものがついている。

 ジル兄が乗る。

「じゃあ乗れ。出発するから。」

「ええっ!?なんかこう、冒険するぞ!って感じで歩いたりしないの!?」

「んなこと言われてもな、ここから人が多いとこ行くのに歩いたら1か月以上はかかるからな~。これですっ飛ばした方が速いんだよ。…いいから乗れよ。」

『ええ~。』

 なんか、なんだろう、なんとも言えない感じになった。

「うん、わかったよ。」

 なんだか、よくわからないものに立つ。

「ちゃんと掴まっとけ。落ちるなよ。」

 その瞬間、フワッと浮いた。

 高く。さらに高く。ざっと、2、30メートルか。

「下ばっかり見てないで、周り見てみろよ。」

 言われるままにあたりを見渡す。

「すごい…」

 そこにはどこまでも続く大地。遠くにはそびえ立つ山々。果てしない海。

 圧倒された。

 見入ってしまう。

 自分の知らない世界。

 知っていた世界とは、比にならない。

 希望に、夢に満ちた世界だった。

「んじゃ、行くぞ。」

 いきなり速度が上がる。

「うわぁっ!」

 振り落とされないように、手に力が籠る。

 もう、あたりを見渡す余裕なんてなかった…

 目も瞑ってしまったし…


「おい、もう離せよ。着いたから。」

 恐る恐る目を開けると、そこは町だった。町の真ん中。

 あたりを見渡しても、見渡さなくても、人、人、人。

 活気があるところだった。

「だから、いい加減離せって。」

「あぁ、ごめん。」

 そういって手を離す。

「んじゃ、まずは宿探すか。おい、離れるなよ。」

「ああ、うん…」

 意識は完全にうわの空、もう何を聞かれたのかもわからなかった。

 色んな人がいる。

 ガヤガヤと、声が至る所から。うるさくもあったが、嫌な感じではない。

 なんか、楽しい感じだ。

 店も出てる。

 実際に見たりはしていないが、"普通"の生活というものをジル兄からは教えてもらっていた。だから恐怖はない、が少し戸惑う。普通に店が並んでる。ずらっと、並んでいる。ここの地区は露店が主なんだろう。

 食料を売っている店々。

 武器を売っている店々。

 動物を売っている店々。

 特に目を引いたのが魔法を売っている店々だ。実際に売っているのは"魔導書"だったが、店前に際立きわだって見えるのは魔法だった。すべて大き目な透明の瓶の中に入っているのだが、水の球が浮いていて自由自在に形を変えていくものや、止まらない風の渦。咲いては枯れ、また咲いていくというサイクルを繰り返す花。そして、黒い霧の中にある大きな目。

 その目と目が合う。

 ゾクっ…

 気味が悪くなって目を離す。と、あたりには人がいない。

『あ、れ?…』

「誰かをお探しかぃ?獣人さんよぉ。」

 振り返るとそこにはあいつがいた。あの男。

「久しぶり、ってほど経ってねえけどな。死ぬかぁ?」

 頭、後頭部に激痛。

「いって!」

 振り返るとそこにはジル兄が、他の人たちもいた。

「……あれ?」

「変なのに捕まってんじゃねえよ。行くぞ、速く歩けよな。」

 不思議な、恐怖の時間終わり。

 あの魔法の店屋には振り向かった。

 速足のジル兄についていく。

 広場に出た。

 そこは他の所より賑わっていて、何かやっているみたいだった。

「さぁさぁ、お集まりのみなさんっ!これから始まりますのは、簡易コロシアムでぇすっ!今回の対決は97回連続勝利を収めているチャンピオン、キャプテン・ジェイサムっ!!対するチャレンジャーはここらでは屈強で有名な肉屋のバーロっ!!さぁさぁ、みなさん、どうですか!?ただ今、挑戦者に対するオッズは100倍になっておりますっ!!夢見てみませんかぁ!!?」

 湧き上がる歓声!

「うわぁ、びっくりしたぁ。あれなんなの?」

「あれか?ん~、まぁ、戦いを見世物にして金稼いでんだ。」

「へぇ~!」

「……おまえは出れないからな。一応言っとくけど。」

「…やっぱダメ?」

「当たり前だ。ほら、行くぞ。」

 おれはまだ見てたかったが、しかたなくついていく。

『今度見てみよう。』


 ――――――南地区、宿屋"デロ"――――――

 デロの中に入る。

「おまえはそこらへんで待ってろよ。」

 そこまで大きくはなかったが、いい感じの宿屋だ。

 広いロビー。そこにある椅子に座る。

 人は何人かいた。バーのカウンター席に座ったり、おれと同じくロビーの椅子に座ったりしている。

 円形に吹き抜けになっていて、2,3階部分が見える。ここは3階建て。

 階段は吹き抜けに沿うように螺旋状らせんじょうになっている。

「すごいな~。」

「ほれ、鍵だ。」

「あぁ、うん。部屋はどこ?」

「3階だ。308号室。」

「やった!一番上だ!」

 おれはさっさと階段を上がり、部屋に入る。

「おぉ!」

 寝室ひとつに、ふかふかのベッドふたつ。ベランダがついていて、海が見える。もちろん、トイレなども設けられていて、キッチンもあった。

「おぉぉ!すごいな!」

 ベットに突っ込む。

「ふかふかだ!こんなんで寝たことねぇ!」

 すかさず、ベランダへ。

「うわぁ!近くで見るとすげぇな!」

「はしゃぎ過ぎだって。」

「でも、すごいよジル兄。」

「んじゃ、おれはここにいるから、適当にどっか行っていいぞ~。」

『えぇ~…あなたはここでこのセカイのことをシらないモノをヒトリにするんですか?…』

「あ、これ持ってけ。ん、じゃ、いってらっしゃい。」

 手ではらわれた。

 もう出ていくしかなさそうだ。

「夜前には帰ってこいよ。危ないから。それと、面倒は起こすなよ~。」

「うん、わかった…」『それが、カリにもホゴシャのイうことですか?…』

 渡された財布をもっておれは出ていく。

 バタンっ…

 何かを失ったようなような音に聞こえた。

「…んじゃ、どっか行くか。」

 何も考えなしに外へ出る。


 持ち物。腰に差している二本の剣。財布の中にあるいくらかのお金。あとは、何もない。

 今は宿屋デロを出て、広場の所まで戻ってきた。今もまだ人が賑わってる。

「さぁ~~て、みなさん!ただいま記録を更新したチャンピオンに挑む勇者はいませんかぁ~!?」

 広場は賑わっているものの、新たな挑戦者がいなくて膠着こうちゃくしている。

『なんだ…終わってたのか…』

 おれはしゃべってた司会者らしき人物に会いに行った。

 その司会者はピエロのような恰好をしていた。顔まではペイントしていなかったが、下から上まで、帽子まで、色とりどりのシマシマだ。

「なぁ、おれも出れないかな?」

『ん?なんだこのガキ…』

「なんだい、ボウや?迷子かい?迷子なら他の大人に聞くんだな、おじさんは忙しいの。」

「はぁ?んなこと言ってねえよ。おれも出たいって言ってんの。」

 司会者は改めておれを見る。

「だめだめ、刀なんか差してちゃ危ないだろ。」

「あぁ、心配ねえよ。この刀なら抜かないからさ。鞘に入ったままで大丈夫だ。」

「ボウや。そうじゃないよぉ。このゲームにボウやが出れるはずないだろ?なんたってボウやなんだから。それに、街中でこんな刀差してたら危ないって意味だよぉ、魔警まけいに通報するよぉ?」

『おれがガキだから出れないってことかよ…』

「なんだよそれ…じゃあいいや、帰るよ。」

 おれはそのまま立ち去った。

 今度は露店が出てた地区へと向かう。

「なんだか、やっと新しい世界に出てきたってのに、いいことねえなぁ~。」

 独り言。虚しく。響かず。

 露店の地区に戻ってきた。

 そこでいろんなものを見た。

 ほとんどが、知らないもの、本でしか見たことないものばかりだった。

 そのためか、時間を忘れ、夢中になっていた。

 が、ふとある人物が目に入った――――――

「隊長。ダメです。ここら辺に奴らはいないみたいですよ。」

「そうか…イヴの方はどうだって?」

「先ほど連絡取りましたがまだだそうです。」

  ――――――青髪の少年、いや正確に言うなら藍色か。

 あの髪の色は覚えている。確かにピンとくる。

 そして、顔。あの顔もピンとくる部分がちらほらと…

 その少年に声をかける。走りながら近寄って。

「なぁ、おまえ!もしかして、英雄ジュセイン・ベルグの――――――」

 そこで切れた。いや、切られた。いやいや、切れられた。

 まだおれと少年の距離は6,7メートルはあったはずなんだが、どうしてか目の前に少年が現れた。

 そして。

「オレにその名を出すな。」

 その言葉を聞いた瞬間。

 少年の足が…

 ドコォォォォン………

 露店が破壊される音。おれに。

 そう、またもやおれは吹っ飛ばされたんだ。

「た、隊長!なにやってんですか!隊長と同じくらいの子供だったじゃないですか!いくらなんでも…」

「静かにしろ、トビ。ただの喧嘩だ。何が悪いことがあるんだ?それに"あの名"をだした。そのことだけでも、おれに喧嘩を売ったも同然なんだ。仕事に戻るぞ。――――――それに、あいつは恐らく大丈夫なはずだ。」

「えっ、それはどういう……?」

「オレは人殺しじゃない、だから人を軽く殺したりしない。…あの攻撃は致命傷を与えるものじゃなかった。それにあそこまでは吹っ飛ばないはずだ。…まぁ、いい。行くぞ。速く奴らを見つけなければ。」

 …………

 トビと藍い少年は行った。

「あたたたたた…」

 露店の残骸から体を起こす。体を確認。

「うん。無事みたいだな。」

「おい、きみ大丈夫か?」

 壊された露店の主人。果物屋のおじさん。

「あぁ、ごめんねおじさん、露店壊しちゃって。おれは大丈夫だよ。」

「おいおい、ホントにか?あんなに飛ばされたのに大丈夫なんて、10メートルは吹っ飛ばされたぞ。」

「あぁ、きっと運がよかったんだね。…お店大丈夫かな?」

「あぁ、こことは別にこの町に本店があるんでな、問題ないさ。」

「そっか、よかったよ。直すの手伝うよ。」

 そこから、おれは露店を直すのを手伝った。

 時間は経過し、夕方に。露店は見事とは言えないものの、8割方は直せてた。

「ふう、助かったよ。ありがとう。何かお礼をしなくちゃね。」

「ああ、いいよそんなん。」『ホントはおれが悪いんだし…』

「いやいや、ここまでしてくれたんだから、当然だよ。」

『…困ったな……』

「じゃあ、おれを吹っ飛ばした、藍色の髪の少年のこと知ってるかな?」

「あぁ、あの子ね。いや、あの子なんて失礼だね。デュオンくんだよ。魔法戦斗団体まほうせんとうだんたい、3番部隊隊長、デュオン・ベルグ。それが、彼だ。」

「魔法戦斗団体?」

「そう、私営団体でね、戦闘を職業とする人たちさ。大抵は賞金首とかを捕まえて、魔警、政府からお金をもらってる団体かな。」

『だから、あんなに強かったのか。それに、確かめたかったこともわかった。』

「ん、ありがとね。じゃあね。」

「こんなのでよかったのかい?おかしな子だね。」

「おれは、おかしな子なんかじゃないぜ、おれはヴァンだ。ヴァン・ステイ…ンだ。」

「そうかい、これは失礼した。じゃあねヴァンくん。」

 そうして、おれは露店を後にした。

 夕日で染まった町。

 今更ながら、設置してあった、大きな町の地図で確認。

 この町の名前は"アラマンダ"。円形に広がっている町で、広場を中心に4区間、4地区に分けられている。北地区は店、民家中心。東地区はここ、露店中心。南地区は娯楽、宿屋中心。西地区は…政府施設中心か。ざっと紹介。

「東と南は見たからな、まだ時間もあるし北でも見に行ってみるかな。ざっと見るだけなら時間もかからないだろうしな。」

 そうして北へ向かった。広場には行きたくなかったのでその道は通らなかった。

 だが、それがいけなかった…

『あぁ、やべぇ…』

 完全に迷った。さっきは否定できたが、今はできそうにない…迷子だ。

 日も落ちて、いくらか経った頃。

 また地図を見つけた。さっきの場所のではないが。

「おぉっ!帰る手がかりがあった!」

 そこに駆け寄ろうとしたとき、遠くに女の子がいた。

『こんなところでなにやってんだ?』

 まぁ、自分のことは置いといて、だ。

 とりあえず地図は後でも確認できるので、女の子の所へ向かうことにした。

 女の子はあたりを見渡しているようだった。誰かを探しているよう。

 近づいた瞬間、女の子と目があった。黒い瞳、黒い髪。背はおれよりも少し低い。服はなんかの民族衣装か?淡い青色と白色の衣服。

 力強い目が、そこにはあった。

 だけど、おれはもうひとつの影を見た。女の子の後ろに立つ男の影が。

 男は手を上げ、何かを振り下ろす。

 女の子はそれに気づき、おれの方へと回避。

「ここはあぶないから逃げて!」

 おれの方を向き、男を背後にした状態でそういった。

 その瞬間、男からの攻撃がきた。

 おれは女の子を躱し、男の懐へと入り込む。そして…

 ドスっ!

 おれの刀が男の懐を突く。と言っても鞘に入っている刀だが。

 男は倒れこみ、動かなくなる。気を失ったようだ。

「あぁ、悪い逃げなくて。」

 キョトンとしている女の子。

「あれ…?」

「こいつ、なんなんだ?なんであんたを襲ってきたんだ?」

「えっ!?…それは、私たちがこの人たちを捕まえようとしてるから、だよ。」

「え?なんでこいつを捕まえようと?」

 ふたりの頭にはクエスチョンマークしか出ていない。

「え、えっと…それは……とりあえず、ありがとね。助けてくれて。」

「あぁ、いや、もともと助けようとしてたのはあんたなんだろ?それをおれがややこしくしたっていうか…」

 沈黙。

 少しの間をおいて、女の子がきり出す。

「一応自己紹介ね、わたしはイヴ。魔法戦斗団体、3番部隊所属、イヴ・ランドロークです。よろしくね。」

「おぉっ!あんたが魔法戦斗の!?」

「あんた、じゃなくてイヴだよ。うん、そうだよ。だからこの男、凶悪犯罪組織ベルクスのひとり、バムを捕まえようとしてたんだよ。で、見事ヴァンくんが捕まえてくれたってわけ。」

「いや、おれは何も……あんた…じゃなくてイヴ。デュオンってやつ知ってんだろ?連れてってくれないかな?おれはあいつに会いたいんだ。」

「えっ!?隊長に?でも、まだ仕事中だから、難しいかな。"一般人を巻き込むことなかれ"が私たちの教えっていうか…だからね、今は難しいかな。」

「仕事中って、こいつ捕まえたじゃん。これで終わりだろ?」

「いや、まだなの。あと1人、ボスのベロリアって奴がまだいるはずなんだよ。隊長たちが捕まえてなければね。他のベルクスのメンバーは他の部隊が取り締まってくれたおかげでね、この町以外のところにいるメンバーは捕まえたんだよ。で、ここにいたメンバーのあと6人を捕まえる役目が私たち3番部隊で、今5人目を捕まえたから、あと1人ってわけなんだ。」

「ふうん、なんとなくはわかった。」

『なんとなく、なんだ…』

「でも、そんなことおれに言ってよかったのか?一般人なんだろ?」

「あ…あぁ、い、命の恩人ってことで大丈夫なんじゃないかな。…」

「ホントにそんなんでいいのかよ。」

「あまり深くは聞かないで…」『…ダメだから…』

「んじゃさ、おれもイヴに庇ってもらったじゃん?だからさ、そのお礼にその、捕まえんの手伝うよ。」

「だから、ダメなんだって…」『ホントになんとなくだったんだ…』

「やっぱ、ダメか~。楽しそうだったのにな~。」

 何気なくあたりを見渡す。

 暗い。

 人もいない。

 光源は夜を照らす街灯だけ…そう、夜なんだ。

『あ、やべ…』

「あ、あのさ…ひとついいかな…?」

「だから、仕事に関することはダメだって。」

「い、いや、そうじゃなくてさ。その…」

『非常に言い難い…』

「宿まで連れてってくれる?…」

「……へっ!?」

 以上が夜の襲撃事件の会話。

 そこからはイヴがバムを連れて、おれの宿へと案内してくれた。

 詳しく話すと、連れてった方法はイヴの魔法だ。イヴは水の魔法を使える。そこで、バムを大きな水の塊の中に入れ(もちろん顔を出してだ)、空中に浮遊させながら連れてきたわけだ。そして、帰り道の会話は、まあ、適当な話。

 宿屋デロに着いた。

「ありがとな。」

「ううん。気にしないで。たしか308号室だよね?」

「ああ、そうだよ。」

「じゃあ、ヴァンくんバイバイ。また会えるといいね。」

「ん、じゃあなイヴ。」

 そして、宿の前で別れた。

 時刻は、わからない。ただ、夜ってことは確かだ…

 気が重い…

 扉を開け、階段を上っていく。308号室へと進む。

 ギィィィィイ…

 この扉の音にはトラウマが生まれそうだ。

「…おい、ヴァン君?さて問題です。今の時間帯はいったいなんと呼ぶんでしょう?1、朝。2、昼。3、夜。さて何番!?」

『こ、答えないと…ならないよ…な』

「さ、3番…」

「ヴァン君!正解だよ、正解、大正解だよ!」

 正解コールと共に頭に鉄拳が…

「………で、なんで遅れたんだ?こんな夜まで。」

「あ、そ、そうなんだよ。それが…」

 いままで起きた、起こした出来事をジル兄に話す。

 そして、すべて話した後。

「おい、今度帰りが夜になったら外出禁止な~。」

「えぇっ!?そこは、『危ない目にあったんだな、大丈夫だったか?』とかの心配の言葉は?」

「そんなもんない。その程度の事は危険だとかいう部類には入らないからな。犯罪組織なんてベルクスだけじゃない。それこそ星の数ほどある。この町にいくつかあるのだって、なにも不自然な状態じゃないんだ。」

「でも、危ないからって言ってたじゃん?だから夜前に帰って来いって、言ってたんじゃないの?」

「確かに言ったけどな、それは意味が違うんだ。この町にある犯罪組織やら、そういう類の事はここに降りる前に全部調べてあったんだ。でもだ、もしかしたらオレが心配している強悪犯罪組織の奴らがここに来ないとも考えられない。だから、おまえには夜の出歩きを禁止したんだ。」

「で、でもイヴが、魔法戦斗団体の人がベルクスも凶悪犯罪組織だって…」

「まあ、一般人視点で言うならな、違いないよ。あいつらは人殺しだからな。詳しくは知らんが。ただ、おまえが黙って殺されるような奴らじゃない。だから、ここにしたんだよ。まぁ、細かく言えば他にも理由は多々あるが、主な理由はそれだ。おまえが死なない場所っとことだな。」

『なんだよそれ…』

「それにだ、外の世界に来たとはいえだな、修業はまだまだ続いてんだ。平凡で、穏やかな生活だけじゃ修業にならないだろ?」

 最後の方はニヤニヤと笑みを浮かべてた。

『人の気も知らないで…』

「…まぁ、でも実際ベルクスの奴を倒したんだろ?刀も抜かずに。」

「あれは、倒したっていうか、一瞬だったからな…一瞬で倒れちゃったんだよ。」

『ヴァンにしてみれば戦いにすらなってないか…』

「まぁた、生意気なこと言うようになったなぁ~。それも含めた罰として、ここにいる間ずっと身の回りの事をやってもらいます!言うなれば雑用係!」

「えぇ~!…」

 その後、何度も反論や許し、妥協案など出してみたが全て却下された。

 

 次の日の朝。

 おれは昨日から就いた雑用係の仕事をこなし、朝食を食べた。

 ジル兄はまだ起きていない。

 時計を見ると午前6時45分。前の生活には、ほぼ時計はジル兄が持っていたのでわからないが、体内時計によれば、もうジル兄は起きていてもよさそうな時間帯なんだけれど。

 おれはジル兄の分の朝食を冷蔵庫に入れておき(初めて開けた時、ビビったおれを見て爆笑したジル兄のあの顔は記憶から消したい)、持ち物をもって外へ出た。

 今度は広場の道を通って、北地区へ。昨日イヴと帰った道と同じ道だ。

 宿まで一緒だったのは、イヴが『私たちと接触した一般人が、私たちのいない間に攻撃に合わないため』とかなんとか、だった。

 到着。

 昨日見かけた地図がある場所に着いた。

『やっぱり、ここだったか…』

 地図を確認し、北地区の探索に出かけた。

 といっても、民家中心なのでたいして見るものはなく、朝なので店は開いてなかった。

『まぁ、こんなもんか。あんまし期待はしてなかったからな。』

 そのまま北地区を離れ、広場に戻り、西地区へ。

 西地区。

 前にそこは政府施設が中心と言ったけれど、表は、大部分は政府施設中心と言うだけだ。裏は、その他の小さな部分は治安が悪いらしい。言うなれば、そこが犯罪組織が集まる所になっているということだ。

『政府施設のすぐそばに犯罪組織の集会所ですか…』

 この西地区を後回しにしたのはこのためだ。

 だが、行く気がないわけではない。むしろ、政府施設というのには興味があったし、少しは裏の部分にも興味がある。

 到着。

 そこには、大きな図書館があった。開いてはないが。2階建ての図書館で、幅がかなりの長さだ。そこに設置してあった大きな時計を確認すると、今は8時前だ。

 ちらほらと人が見えるようになったのはこのためか。

 そこであのデュオンといた男。トビと言われた男とあった、というか話しかけられた。

「おぉ、ヴァン君!ヴァン君だよな?この前は悪かったな。デュオンのやつが…あ、いや隊長が蹴り飛ばしちまって。大丈夫だったか?」

「あぁ、うん。大丈夫だったよ。平気だから心配しないで。」『あぁ、"普通"の反応だ。誰かとは違って…』

「んで、こんなとこで何やってんだ?ひとりみたいだし…」

「散歩だよ。1人でね。トビさんは何やってんの?」

「んあ?俺か?俺は……何で俺の名前知ってんだ?」

「それは、ただ、聞いてたからだよ。イヴって子からね。」『まさか、あの時聞いていたとは言えないよな。』

「あぁ、イヴからか。そうだよ、ヴァン君が捕まえてくれたんだってな。まだ子供だってのにすごいんだな。でも、今度からは危ない真似はしちゃダメだぞ。」

「でも、あいつらもおれと同じくらいだろ?」

「それは隊長とイヴは強いからな。というより、魔法戦斗団体の一員だからだよ。」

「じゃあ、おれも入りたいな。その団体にさ。」

「まぁ、強くなってからな。その話は置いといて、ここら辺には今はいない方がいいぞ。ヴァン君も知っているとは思うが、ベルクスのボスがここにいる情報があったからな。」

『あぁ、ベロリアって奴か…』

「うん、わかったよ。じゃあ、またね。」

 そこでふたりは別れた。

 おれは広場の方へと…行くわけはないんだよな。

『団体に入るにはあいつを倒せばいいかな。』

 おれは短絡的に考え、おれが次に向かっていた裏の西地区へと向かう。


 そこはすさんでいた。

 荒れ果て、人影も無く、空気も淀んだ場所だった。

 自分に緊張が走るのを感じる。

 ピリピリと。

 進んで、進んで、進む。深みへと。

 っ!?

 突然後ろに気配を感じた。

「誰だっ!?」

 振り返り、叫ぶ。

 当然のように誰もいない、いや見当たらない。

 仕方なく進む。

 荒れた、廃墟に着いた。ここにベロリアがいると確信があったわけではないが、いるならここかなと思っただけだ。根拠はない。

『さて、行くか。』

 その時だった。

 廃墟から炎が飛んできた。

「うわっ!」

 思わず、声を上げる。

 回避。突然のことで見事とは言えないが、焼かれはしない。

「ガキのくせに避けやがって。今ので焼かれとけばよかったのによ!」

 罵声とともに現れたのは男だった。

 見事に悪役面した男。頭はスキンヘッドで、服はいわゆる族っぽい服。あらゆるところにアクセサリー類をつけている。

「よくもまぁ、俺の組織を潰してくれちゃって…死ねよ。」

 ベロリアは両手を突出し構え、言い放つ。

火矢ゼド!」

 構えた手から、火柱がおれに向かって飛んでくる。

「危なっ!!」

 また回避する。

「避けてんじゃねえ!」

『んなこと言われても…』

殺留しとめてやる!」

 ベロリアがおれに向かって飛んできた。その言葉の通りに、飛んできたんだ。

 ベロリアの手にはナイフがあった。

『やばっ!』

 キィィィン!

 ベロリアのナイフを刀で受ける。

「なっ!?」

 相手がひきつる。

 おれはベロリアを弾き返し、もう片方の鞘に入った刀で懐を突く。

「ぐはっ!?」

 吹き飛ばした。いや、吹き飛んだ。おれと同じように、ダメージを軽減するためだ(まぁ、おれの場合は後ろに露店があったんだが)。

 だが、ベロリアはそれ以上だった。何せ飛んでいるのだから。

 かなりの力を軽減できたはずだ。

 敵を確認。

 ベロリアは足に何か着けていた。そこから煙が出ている。恐らくそれが飛ぶ動力だろう。

『魔法、か。ん?確か魔法の性質は1つじゃ…』

 思考にふけっているところに一発やられた。

 バキッ!

 横腹に蹴りをくらった。

 吹っ飛ぶ。これはダメージ軽減とかじゃない。モロにくらった。

『ぐっ…』

「雑魚が調子こくんじゃねえよ!」

「いっててててて…どっちが雑魚だよ。」

 折れてはない、だろう。わからない。口からは血が出てるが、たいした量じゃない。

 おれは口をぬぐい、敵を確認。

 嘲笑あざわらってやがる。

 こっちは魔法とは程遠い戦闘方法。対して敵は魔法だらけの戦闘方法…

『分が悪いのはどう見てもこっちか…』

 ベロリアが直進してくる。ナイフを構えたままで。

 おれはギリギリで躱す。

 が、ベロリアは空中で回転。遠心力も加わった蹴りをくらった。

「ぐはっ!!」

 今度は背中にくらい、吹っ飛んだ。

「ガキはガキか。こんな奴らに壊滅まで追い込まれたってのは納得できねえな。」

「おいおい、魔法も使わないやつが魔法戦斗団体なわけないだろ。」

 聞き覚えのある声だった。

「おい、ヴァン…だったな。イヴを助けてくれたっていう。その件はありがとな。…で、そんな実力をもっているお前がなんでこんな奴に無様にやられてんだ?」

「なんだぁ?糞ガキ!?誰だテメエ?」

「あんた、デュオンだよな?隊長の…ありがとな。助けてくれて。」

「お前がイヴを助けたからだ。その恩があるからな。それがなかったら助けてない。特にあいつの名を出したした奴はな。」

「あはは、どうも…」『イヴ、ありがとう。』

「シカとこいてんじゃねえ!」

 デュオンに火柱が襲う。

 が、それを軽く避ける。

「こんなレベルで1つの組織の頭か。うち('')ももう少し骨のある仕事をやればいいのに…しゃあないか。」

「なんだ、テメエ!?」

「オレは魔法戦斗団体、3番部隊隊長デュオン・ベルグだ。」

「て、テメエが隊長?ガキが隊長とは傑作だ!」

 デュオンがため息。

「いいから来い。こんな仕事に時間を取られてるほど暇じゃないんだ。」

「あぁ?じゃあ、さっさと終わらせてやるよ!」

 ベロリアが迫ってくる!それも速い。おれの時の比ではない。

 しかし、なぜだ…

 デュオンとの距離があと数メートルになった瞬間、吹っ飛んだ。

「…は?」

 理解不能。

 疑問とともに吹っ飛ばされるベロリア。

 今度はデュオンが動く。

 クナイを空に、四方に投げる。かなりの数だ。

 が、空中でその何十本のクナイは方向を変え、全てベロリアに襲い掛かる。

「うわっ!?」

 理解不能に追い打ち。

 ザザザザザザザッ!

 空中で飛ばされているベロリアに傷つけることなく服だけを刺していく。

 ベロリアは地面に叩き付けられ、そのまま動けずにいる。

「…おい、ヴァン。なんで魔法を使わなかった?いくらお前が強いとしても、さっきのはねえだろ。」

 デュオンはこちらを振り向かずに、淡々と聞く。

「え?あぁ、……魔法を使わなかったんじゃない、おれは魔法が使えねえんだ。」

「……魔法が使えない?何言ってんだよ。」

 振り向き、こっちを向く。その表情は当然感じの良いものではなかった。

「何言ってんだよ。自分が使う魔法を隠す必要でもあんのかよ!」

 怒鳴る。その表情はひどく怒りに満ちていた。

「あ、いや、ホントなんだって…」『な、なんでそんなことで怒んだ?…』

「あのな、恩があるとはいえ、」

「そいつの言ってることは本当なんだ。」

 ジル兄の声。路地からぬっと出てきた。

「ジル兄。なんで…ここに?」

「修業の成果を見物にな~。――――――で、デュオンくんだよね?3番部隊隊長の。オレはジキル・ステイルフォード、よろしくな。」

「よ、よろしく。」『こいつがステイルフォードの?……んなバカな。』

「話聞かせてもらうと、ヴァンとは初対面じゃないみたいだな。で、さっきの話の続きでな、ヴァンは本当に魔法が使えないんだ。」

「この世の中のどこに魔法を使わない奴がいるんだよ。……まぁ、いいさ。オレは本部に帰る。」

「なあ、戻る前にさ、ひと言いいか?」

「…なんだよ。」

「そこのヴァンと魔法なしで戦ってみないか?」

『何言ってんだよ…』

「オレにはそんな暇ない。そいつの戦いを見た限り、ただの雑魚だ。あんな小物にやられてるようじゃ、話にならない。」

「そこを何とか……っな!」

 突然ジル兄は消え。デュオンの背後に現れた。

『な、なんだコイツ…オレが見切れなかった…』

「頼むよ。」

 何が起こってるのか、おれには解らなかった。デュオンもおれと同じ顔をしていた。

 ピンッと張り詰めた空気。

「わかった。」『帰る前にコイツの事を調べるのも悪くないか。』

「おぉ~、よかった。じゃあヴァン!準備しろ。剣は…使っても大丈夫か?見たところ丸腰だけど…」

「あぁ、心配ない。」

 デュオンは背中に手をやり、刀を抜いた。

「あぁ、霊刀使えるのね。じゃあ、心配ないか。」『こりゃあ、予想以上だ。ちと、まずい…か』

 デュオンがこちらを見る。冷たい目だ。

「なあ、初める前にひとつだけ。これが終わったら、あんたにいくつか質問がある。それを全て答えてくれ。」

「プライベートなことはなしだぜ。」

 会話が途切れ、ジル兄の背後から消える。

 おれの目の前に…

 ブンッ!

 デュオンの大刀がおれの頭目掛けて斬り出される。

 おれは身をかがめ、ギリギリで躱し、後方へ距離を取る。

「おいおい、移動も魔法使うなよな~。」

『移動も…本当に魔法なしか。』

「わかった。」

 おれは…なぜ、躱せたのだろう――――――

 またデュオンがおれに向かって斬り出す。

 今度は消えてなんてない。しっかりと見える。

 見切り、躱す。全てを…

 奇麗な太刀筋だ。大刀から生み出されるものとは思えない。

 荒々しくなく、しかしおしとやかでもない。――――――意志のある、心の強い太刀筋…

 それに比べるとデュオンの顔は...

 何故だろう…刀から感じる意志とは違う。

『な、なんだコイツ…なんで、躱せる…?』

 一瞬のすきを見つけた、いや感じた。

「候天!」

 壱の型。両刀で相手を突き刺す型。

 ギィィィィン!

「チッ...」

 候天を防がれた。両刀ともデュオンの大刀でだ。

 だがおれは押し切り、吹っ飛ばす。

 追尾。

「なっ!?」

 吹っ飛ばされたデュオンが体勢を整える。

 その刹那。

 構えの空いた右脇へ

 追撃。

 参の型。両刀を平行に構え、右に引く。両目にはしっかりと獲物の姿を映す。

 ―――――その型。はやぶさの如き迅速に獲物を喰らう。れどその姿、かすみの如く捕らわれず。壬鎖凪みさなぎ流剣技、隼霞しゅんか―――――

「隼霞!」

 深く、深く、身を沈め。深い、深い、斬痕を…

 時間が、空気が、思考が止まる。

 ふたりの刀は止まっている。

 ひとつは懐で。

 ひとつは首もとで。

 両者の刀は、両者の命を獲ることができる所で止まっている。

 沈黙。

 間断かんだん

 常闇とこやみ。 

「…なぁ、あんた。…引き分けっていう終わり方はありなのか?…」

「あ、あぁ。ふたりともそのまま刀を引いてくれ。」『まさか、ここまでやるとはな。…霊刀相手だから瞬殺されるかと思ったが…』

 デュオンは大刀を背中に戻す。鞘のようなものはなかったはずだが…

 それを見て、おれも刀を鞘へ。

「ヴァンの相手をしてくれてありがとな、デュオン。―――――じゃあ、質問タイムですか。」

「コイツはなんなんだ?」

『ん?てっきり名のことを聞かれると思ったんだが...ヴァンに興味を持ったのかな…』

「おいおい、コイツってのはひどいな。弟なんだ、ヴァンって呼んでくれよ。本名はヴァン・ステイルフォード。年齢11才。大事な弟なんだぜ。」

『ステイルフォード…』

「…ステイルフォード。この国、ガイラルディア王国の王族、ステイルフォード家。…その名を王族以外の人間が使用した場合、死刑に処する…これはこの国の法律、第一条の一文だ。知らないわけはないよな。」

「あぁ、もちろん知ってるぜ。ガキの頃に叩き込まれたからな。…次の質問は―――――」

 ジル兄は左肩をだす。

 その肩には、狼と剣、そしてステイルフォードの名が刻まれていた。

「―――――証拠を見せろ、だろ?」

「っな!」

 僅かな沈黙。

 しかし、僅かな時間であっても、デュオンの顔は著しく変わっていた。

「おい、ひとつ言っておくが...さっきと同じように接してくれよな~。」

「あ、いや、しかし...」

「…だから、この名は嫌なんだよな…」

「わ、わかりまし、いや、わかったジキルさん('')。」

「さんって、さっきまでつけてたかよ。」

「う、そ、それは、…年上に対する礼儀として受け取って頂けませんか…」

『年上に対する礼儀ねぇ…』

 ジル兄はにやけてる。あの顔にはいい思い出はない…

「まぁ、さん付けはいいや、それで。ただ、敬語はいただけないな、さっきと同じで頼むよ。」

「わ、わかった、ジキルさん。」

「ふん、まぁ、合格だ。で、質問タイムに戻ろうか。」

「…なんでヴァンは魔法を使えない?」

「あぁ、それね。それは"魔法戦斗団体の"デュオンには話せないところなんだ。」

『……』

「じゃあ、なんでこんなところにいる?」

「それなら簡単。ヴァンを育てるためだよ。てっとり早く魔法に慣れさせたくてね。だけど今回の事件のおかげでかなり経験を得られたからね。だから、あと数日でこの町から離れるかな。」

「えぇ!?なんで?この町きたばっかじゃん!」

「いや、あんな戦闘見せられたらな。こんな"生温い"環境には用はないからな。」

「なんでそんなにヴァンを育てるんだ?」

「あぁ、それは…きたる日のために、だ。…その質問はそれ以上なしな。」

『来る日…』

 そこへ3番部隊のメンバーがやってきた。

「こんなとこにいたんですか、隊長!…それになんでヴァンくんも!?」

「あぁ、イヴ、トビ、ノスリ。任務は完了した。トビ、ノスリ、そこにいるベロリアをここの魔警支部に連れて行ってくれ。」

「了解しました。」

 ふたりは答える。

 トビさんの顔は知っていたが、ノスリと呼ばれた人は初めて見た。トビさん同様、がたいの良い体格。年も近そうで3,40歳か。

「質問はこれまでみたいだな。ヴァンいったん宿に帰るぞ。」

「あぁ、うん。」

「ジキルさん。後で宿に寄ってもいいかな?」

「ん?別にかまわないよ。あと数日はここにいるから。」

『す、数日って…おれの生活はなんだ?これが普通の生活か?』

「じゃあ、事がすんだら行くよ。」

「気楽に来いよな。んじゃ、行くぞ。」

 おれはそのままジル兄についていく。

「じゃあ、また後でねヴァンくん。」

「えっ?うん、また。」

 そのまま裏西地区をあとにした。


 宿屋デロの308号室。

 ふたりともベットで横たわってる。

「さっきの子…」

「えっ?」

「あの子がイヴって子か?」

「あ、うん。そうだよ。水の魔法を使うんだ。」

「なるほどな、あの年で戦闘を職とできるやつはやっぱり何か持ってんだな…」

「…どういうこと?」

「まぁ、オレがペラペラと話していいことかわかんないからな、今は黙っとく。」

「そっか。」

「…あっさりだな。聞きたくないのか?」

「…聞きたいけどさ。誰にでも過去ってのがあるからね、聞かれたくない事かもしんないから。」

「生意気言うようになったな~…まぁ、その考えでいいと思うよ。」

 それで、会話は終わり。

 おれはベロリア、デュオンとの戦いで疲れていて、寝てしまった。


 夜。

 なんだ、体が揺れてる?

 薄らと、部屋の光が目に入る。

 だが、急に暗く。

「おはよ、ヴァンくん!」

「う、うわっ!」

 突然の出来事でだじろぐ。

「あ、あれ、驚かしちゃったかな。」

「おいおい、驚かせるつもりでやったんだろ?」

 あれ?なぜだデュオンの声がする。

「あはは、まぁそうなんだけどね~」

 まわりを見わたすと、3番部隊のメンバーがいた。

 デュオン、イヴ、トビさんにノスリさん。

「あぁ、ヴァン。起きたか。」

 キッチンの方からジル兄が出てきた。

「あのな、あと3日でこの町を離れることになったから。」

「っえ?」

「だから、この町を出て行くんだよ。そこのみんなとな。」

「…へぇ~…っえ?」

 頭が回らない、なんだろう、唐突過ぎてわけがわからない。

 デュオンが近寄ってきた。

「これからよろしくな、ヴァン。」

 おれは差し出された手を握る。

「あぁ、よろしく。デュオン。」―――――

 

 読んでいただいて、ありがとうございました。

そして、お疲れ様でした。

今回は3つのキーワードが重なってしまったんでね、長くならざるをえなかった、というわけなんです。

次の03:までの期間はここまで長くしないようにとは思ってます。

できれば今後とも御付き合いよろしくお願いしたいです。

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