00:ヴァン・ステイルフォード
こんにちは、こんばんは。
よろしくです。秋藤です。どうか温かい目で見てやってください。
今回もまだ序章的な扱いになります。
では、このへんで。楽しんで頂けたら幸いです。
木漏れ日。
暖かい風。
小鳥の囀り。
気持ちのいい、清々しい天気、朝。
ここは森の中。近くに川が流れている。川辺。
いまおれは1人、食料と薪を探してる。薪の方はもう集め終わっているのだけど、問題は食料の方だった。まぁ、たいした問題ではないのだが。
「う~ん、今日は何にしよっかな……昨日は肉食ったからな…」
川を再度確認。
「やっぱり、魚かな…んじゃ。」
服を脱ぐ。羽織っている青色のマント。マントと言っても生地は薄いので防寒対策のためではない。続いて衣服。黒をベースとした、模様が付いたものだ。
川の深さはそれほどでもないが、約6歳の体では完全に体が浸かってしまう深さだ。川幅はざっと5、6メートルか。川のちょうど真ん中に石が出ている。石というより、岩か。
そこに向かって跳ぶ。少し助走をつけて。
シュタっ。
着地。
そこから川を覗き込む。
4,50センチほどの魚が目に映る。それと同時に自分の顔も。
もうこれまで何度も見てきた顔だが、やはり他の"人"とは違う。
髪の毛の色。黒髪をベース。だが、青と銀色の毛が混じる。
そこまでは"染める"という方法があるから、さほどの問題ではないが。もちろんこれは地毛だ。
やはり、決定的に違うというのはやはり…目の下にある青と銀色の毛だ。髭ではない。もちろん眉毛でもない。
映っていた違いというのは、それだけだが、他にも違いはある。まずは尻尾。色はもう言うまでもない。体のいたるところに、斑に、毛が生えている。そして普通よりも伸びた爪、牙。
そう、おれの身体は人と言うよりも獣に近かった。
まぁ、そんなことはもう慣れっこなわけで。
魚。
見定め。
跳び込む。
バシャっ。
手には標的にした魚があった。
「おっし。これで朝飯も手に入れたわけだ。」
「ヴァン。おーぃ、どこいった?」
やさしい声。兄の声。尊敬する者の声。
声と共に姿が見えた。
おれと同じマントを着ている。マントの色は銀色で、下の衣服の色は深紅。髪の色は黒。
おれは川からあがる。
「おぉ。こんなとこまで来てたのか。どうだ?朝飯と薪、準備できたか?」
「うん、ジル兄。いまちょうど獲ったとこ。今日は魚にしたよ。」
「ん、美味そうだな。風邪引くと大変だからな、薪かせよ、火点けてやるから。」
ジル兄に渡す。
ジル兄は腰に提げているウエストバックをあさる。
あった、と小さな袋を取り出し、その中の粉を薪に振りかける。そして、下に落ちている小石を拾い上げ、その小石と薪を擦る。
すると火がついた。爛々《らんらん》と輝く火だ。
「おし。ほれ、テントに戻るまでこれで体乾かせ。」
「ん、ありがと。」
そう言っておれはジル兄と一緒にテントへ帰る。
帰路。
おれが切り出す。
「…でもさぁ…」
「…?、なんだよ?」
「なんで魔法使わないのかなって思ってさ。家を出てからもう2年近く経つのに、ぜんぜん魔法使わないじゃん。…教えてもくれないし…」
「いやぁ、使ってはいるよ。最低限ね。持ち物運んだりとかはさ。…まぁ、教えてはないけどな。」
「でも、さっきのだってさ。火点けんのだって、魔法使えば、いちいち道具なんて使わなくてすむじゃん。」
「んー…まぁ、できるだけ魔法ってのは使わない方がいいって思想の持主だからね、オレはさ。…それに、おまえ魔法が何なのかって分かってんの?オレの本読んでたのは知ってっけど。」
「うっ…」『ばれてたのか…』
「そ、そりゃぁ、知ってるよ。魔法ってのは"あらゆるエネルギーを魔法陣によって変換し、魔法としてエネルギーを放出する。"ってことだろ!?」
『覚えてやがった。しかも得意気。』
「じゃあ、その"あらゆるエネルギー"と"変換"ってのはどういう意味なんだ?」
苦い顔。そして、沈黙。
はぁ、とため息が聞こえる。沈黙のままテントへ。
おれたちのテントに帰ってきた。淡い緑色のテント。
「んじゃ、きちんと教えるから。ここに座れ。」
小さなテーブルを挟んでおれたちは向かい合う。
「魔法ってのはな。まず知識がないと使えない。魔法陣を描かないと魔法が使えないからだ。」
「じゃあ、知識さえあれば誰にでも使えるの?」
「まぁ、そういうことだ。それと、だ。誰にでも使える、知識がない者にでも使える魔法もある。これは、水晶のような鉱物を使う。まぁ、形は様々だが大きさが魔法の力、いや許容量かな、まぁそれに比例する。"フトロフ"と呼ばれている。まぁ、最近発見されたばかりで希少価値はまだ高いんだけどな。……ここまで、解るか?」
「うん、まぁなんとなくは…」
「じゃあ、続けるぞ。本当はここから話さないとならなかったかな。まず、この世界の魔法という概念は"エネルギー変換"だ。例に挙げれば物理的な衝突、風、熱などだが、生命力、心の力なんてのもエネルギーとみなし変換できる。これが魔法と呼ばれる由縁だ。そして、現在はほとんどこの生命力、心の力が源として使われている。その方が手間もかからず、便利で、即効性のあるものだからだ。が、まぁ、これがおまえに魔法を使わせない要因なんだが…解るか?」
「まぁなんとなくは…」
「で、魔法の源の説明はそれでひとまずおいといて、次は性質だ。魔法にはそれぞれ性質があるが、まずは大きく分けてふたつ。"純魔法"と"心魔法"だ。ちょっと待て…」
ジル兄は紙と筆をウエストバックから取り出し、円をふたつ描いた。円の中にまた円がある絵だ。
「この外側の円に位置するのが"火"、"水"、"風"、"木"、"土"、"雷"、"理"、"幻"の8種の魔法。これが"純魔法"と呼ばれる。次に、その内側の円に位置するのが"聖"、"無"、"闇"の3種の魔法。これが"心魔法"だ。」
「性質は知ってるぜ。でも"理"、"幻"なんてのはあまり聞かないけど...それと、"純"と"心"の違いが…わかりません…」
「まぁ、そんなに落ち込むなって。っな。"理"と"幻"ってのはここ最近に発見された魔法で、知らなくて当然だ。お前の読んだ本には書いてなかったと思うからさ。…確か、政府の魔法審団の1人が発明したって聞いたっけな…あぁ、いやこの話はどうでもいいんだ。で、"純"と"心"だけど、これはまあ、あんまし違いはない。魔法は魔法だ。…ただ、言うなればふたつほど挙げられるな。ひとつは魔法の源、エネルギーの源が違うんだ。"純"の方はエネルギーならば何でも変換できる。と言っても、各々の魔法陣、制約、性質、色々なことによって、なんでもってのは無くなってくるけどな。"心"の方はその名の通り、心の力、心力が源に使われる。んで、ふたつ目の違いは人との相性ってのかな…これもきちんと説明しないとならないんだが、人には扱える魔法の性質が限られているってのは知ってるか?」
「なんだって!?いろんな魔法使えんじゃないの?火とか雷とかさ、色々さ?」
「そんなに期待してたのか…残念だけど、ほとんどの人間には1つの性質の魔法ぐらいしか使えないんだよ。」
ガクっ…と、うなだれる。
「なんで、なんでだよ……」
『ここまで落ち込むとは...なんか可哀そうだな。』
「いや、まぁ、これはあんまし期待しないで聞けよ。人は本来色々な魔法が使える才能はもってるんだ。」
「うんうん。」
『食い付きいいなぁ…即答かよ。』
「ただな、普通はその才能の中のひとつの才能だけが突出してるもんなんだよ。複数の性質の魔法が使える奴は何かしらその代償みたいなのが付きまとっているんだよ。」
「へぇー。…使える奴はいるのかぁ。」
『まぁ、こうなることはわかってたよ、ほんと。』
「まぁ、話を戻すぞ。おまえにとって重要なのはここかもしれないな。ここでいう性質ってのは"純魔法"だけを指すんだ。"純魔法"ってのはな、自分が使える性質ってのは選べない、才能によって決められた魔法なんだ。だが、"心魔法"だけは自分の意志で、自分の心で選ばれるんだ。ただ、"心魔法"ってのは完全に習得するのは難しいがな。"純魔法"と合わせて使えば、単独で使うのよりは簡単かな。」
「へぇー。じゃあ、頑張れば誰でも2つの種類の魔法は使えるのか。」
『まぁ、その頑張るってとこが難題なんだけど...まぁいいか。』
「これで、源と性質ってのを話したからな、大まかな説明はこんくらいかな。詳しく話せば、魔法の性質1つとっても、使う者の才能によって同じ性質でも全然違う魔法になったりとか……まぁいいや。」
おれの顔が興味を失いかけているように見えたのか、呆れられたように感じた。
「ここからは忠告、いやなんでおまえに魔法を使わせてないのかってことだ。もう、簡潔にまとめるぞ。おまえの体は獣神の子どもと共存しているかたちなんだ。」
「…前にも少し聞いたよ。」
「あぁ、だからもうこれっきり。なにか余程のことがない限りもう話さないよ。…で、だな。いま現時点の状態ではおまえの心は獣神に負けている状態なんだ。」
「っ!…」
反論は遮られた。
「1つの身体に2つの心。なにもおまえに打ち勝てと言ってるんじゃない。おまえたちが目指すべき方向はただ1つ。共存だ。おまえにはある種の呪いの魔法がかけられててな…おまえがなんかの間違いで獣神の心を消したとしても、その呪いでおまえは死ぬ。獣神がおまえの心を消しても獣神の心がおまえの身体で持ち堪えられるわけもなく…死ぬな。」
刹那の沈黙。
「ただ、さっきも言った通り今は負けている状態。その証拠に身体の至る所に獣神の毛や特徴が現れているだろう?それが出ている限り魔法は使えない。いや、使った場合おまえのからだのバランスが崩れるんだ。そしたら、どっちに偏っても死ぬことになる…だから使わせないんだよ。」
永久の沈黙、のように感じた。
ジル兄の感情は読めなくなっていた。同情なのか、怒りなのか、憐れみなのか、呆れているのか…
「……でも、それでも"フトロフ"ってのがあるんじゃないのかよ…それもだめなのか?…」
「確かにフトロフならおまえの身体には影響しない。使ったって問題はない。」
「じゃあ、それを…」
「ダメだ。それはおまえの身体には直接は影響しないけどな。万が一のこともある。説明はもう端折るけどな。おまえは一生その姿で過ごすつもりなのか?今のおまえは成長期、この負けている状態、アンバランスな状態はむしろ必然なんだ。おまえの身体は獣神の心が入ってるせいか、成長が早くなっているみたいでな、あと6年もすれば、おそらくは普通の身体に戻っているはずだ。だから、それまでは身体に余計な影響を与えたくないんだ。…解るか?」
「………うん、わかったよ。」
「まぁ、おまえの気持もわかんないでもないいんだがな。ここは解ってもらうしかない。………んじゃ、これで話は終わりだ。いつも通り稽古を始めるぞ。あぁ、その前に飯だな。」
「んじゃ、魔法で調理を…」
コツンっ。殴られた。
これはおれの幼少時代の断片、1ページ、ひと時、出来事。
これっきりこの時代は魔法の話はなかったけども、稽古やら狩りやらでとにかく体を動かしまくった。
戦いとは程遠い時代、まぁ野生動物との戦いは幾度となくあったが、人とはない。そして人との交流もあまりなかった。
まぁ、幸せだと感じる時代ではあったな…
読んで頂きありがとうございました。
前書きにも書きましたが、今回も序章。
00と00、まぁどちらの話もこの世界のことを知っていただくための話です。
とりあえず詳しく述べさせてもらうとしたら、最初の方は新しい運命の、ヴァンの"誕生"の話し。
今回の話はこの世界の、魔法の"常識"のお話です。
読んでくださってありがとうございました。
次話は本編に入ると思います。また、まだ序章...っておちにはならないように頑張ります。
今後ともよろしくお願いします。