7話 オークを一撃で倒したら配信がざわついた
オークが動いた瞬間、もう終わっていた。
棍棒が振り下ろされる。
だが、その軌道は見えている。
俺は一歩だけ踏み込む。
棍棒の内側。
死角。
その位置に入った時点で、オークの攻撃は当たらない。
そして、次の動きも決まっている。
短剣を振る。
喉。
刃が通る前に、結果は分かっていた。
手応え。
巨体が止まる。
一瞬の静止。
そのまま崩れ落ちた。
オークは倒れた。
戦闘は終わっている。
通路に重い音が響く。
棍棒が床に転がる。
砕けた石片が周囲に散った。
湿った空気だけが残る。
コメントが一気に流れる。
「は?」
「今なにした?」
「見えなかった」
俺は短剣を下ろす。
ゆっくり息を吐く。
戦闘が終わると急に静かになる。
さっきまでの轟音が嘘みたいだった。
石壁に染みた苔の匂い。
湿った空気。
ダンジョンの静けさが戻ってくる。
耳に入るのは自分の呼吸だけだ。
スマホを見る。
配信はまだ続いている。
同時視聴者数。
31。
コメントが高速で流れていた。
「オーク相手に無傷?」
「新人じゃないだろ」
「回避も撃破も意味分からん」
俺は少し苦笑する。
「たまたまです」
「運が良かっただけです」
コメントが即座に返る。
「絶対違う」
「動き読んでるレベルじゃない」
「先に終わってる感じ」
俺はオークの死体を見る。
巨大な体。
まともに戦えば危険な相手だ。
だが、今回は違う。
攻撃が来る前に分かる。
次の動きも分かる。
その先まで見えている。
だから、避ける。
だから、当てる。
それだけだ。
俺は短剣を鞘に戻す。
軽く手を握り直す。
震えはない。
ただ、感覚だけが残っている。
通路の奥を見る。
ダンジョンはまだ続いていた。
暗い通路。
先は見えない。
コメントが流れる。
「帰らないの?」
「まだやる?」
俺は軽く頷く。
「もう少し進みます」
コメントが返ってくる。
「いいね」
「続き見たい」
「次もやばそう」
俺は通路を歩き出す。
足音が静かに響いた。
石壁。
湿った空気。
遠くから水滴の音が聞こえる。
だが、それも含めて全部拾う。
音。
空気。
視界。
全部が情報になる。
さっきまでの戦闘で壁が砕けている。
石片を踏まないように進む。
通路の幅。
壁との距離。
足場。
逃げ道。
全部、頭に入れる。
考えるというより、自然に入ってくる。
スマホを見る。
同時視聴者数。
34。
少しだけ増えていた。
コメントも途切れない。
「落ち着きすぎだろ」
「本当に初配信?」
「慣れすぎてない?」
俺は小さく笑う。
「初配信です」
「多分、慣れてないです」
コメントが流れる。
「いや嘘だろ」
「新人の動きじゃない」
その時だった。
足が止まる。
視線が落ちる。
床。
石の並び。
色。
継ぎ目。
違和感がある。
説明するほどの差じゃない。
だが、明確に違う。
そこだけ、流れが途切れている。
俺はしゃがむ。
床に手を近づける。
触れなくても分かる。
構造。
仕組み。
どう動くか。
全部、分かる。
罠だ。
コメントが流れる。
「止まった?」
「何かあった?」
俺はスマホを見る。
「ここにも罠があります」
コメントが止まる。
次の瞬間、一気に流れる。
「え?」
「どこ?」
「見えない」
俺は床を指さす。
「ここです」
コメントが返る。
「分からん」
「普通の床」
俺は少しだけ考える。
どう説明するか。
だが、言葉にするのは難しい。
「少しだけ違います」
コメント。
「何が?」
「全然同じ」
俺は床を見る。
色。
摩耗。
魔力の流れ。
全部がズレている。
それをそのまま言う。
「流れが違います」
コメントがざわつく。
「流れ?」
「何それ」
俺は壁を見る。
小さな穴。
視線を戻す。
「矢です」
コメントが増える。
「マジ?」
「どこから」
俺は短く答える。
「両側からです。しかも複数来ます」
同時視聴者数。
39。
さらに増える。
ただの新人配信じゃない。
そう思われ始めている。
俺は立ち上がる。
罠の位置。
矢が飛来する場所。
避ける場所も決まっている。
コメントが流れる。
「どうする?」
「通れるの?」
「無理じゃね?」
俺は床を見る。
もう答えは出ている。
最初から。
考えたわけじゃない。
見えた時点で決まっている。
「もう見えてます」
コメントが一気に流れる。
「見たい」
「どうやって?」
「もうこれ配信じゃなくてチート検証だろ」
俺は足の位置を決める。
踏む場所。
踏まない場所。
全部、最初から決まっている。
スマホを見る。
同時視聴者数。
44。
数字が伸びている。
だが、それよりも。
視線はもう先を見ていた。
罠の先。
その先の通路。
全部見えている。
俺は右足を浮かせる。
もう、外さない。
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