6話 新人なのに全部避けるとコメントがざわついた
身長は2メートルを軽く超えている。
筋肉の塊みたいな体。
手には巨大な棍棒。
人の腕ほどの太さがある。
まともに受ければ終わりだ。
コメントが一気に増えた。
「オーク」
「でか」
「新人ソロでオーク?」
同時視聴者数が動く。
俺は短剣を構える。
距離はまだ6メートルほどある。
オークは俺を見つける。
赤い目がこちらを睨んだ。
次の瞬間。
オークが咆哮する。
棍棒を振り上げる。
そして、突進してきた。
石床が揺れる。
巨大な体が一直線に迫る。
コメントが流れる。
「逃げろ」
「ソロでオークは無理」
だが、俺は動かない。
オークの動きを見ていた。
肩の動き。
足の踏み込み。
腰の回転。
体重の移動。
棍棒を振る前の癖。
全部、見えている。
オークが棍棒を振り下ろした。
轟音と一緒に影が落ちる。
俺は半歩だけ横へ動く。
それだけで十分だった。
棍棒が床を叩く。
石が砕けた。
破片が頬をかすめる。
遅れて風圧が来た。
コメント欄が跳ねる。
「え」
「今の何」
「ギリギリすぎる」
俺は次を見る。
オークが棍棒を持ち上げる。
次は横薙ぎだ。
通路の幅いっぱいを薙ぎ払う軌道。
俺は一歩だけ下がる。
棍棒が胸の前を通り過ぎた。
風圧が服を揺らす。
背後の石壁が砕けた。
それでも当たらない。
避ける場所が先に分かるからだ。
コメントが流れる。
「避けた」
「いや今の当たるだろ」
オークが怒鳴る。
棍棒を振り上げた。
次の攻撃が来る。
俺はオークを見る。
腕の筋肉。
肩の角度。
視線。
踏み込み。
振り下ろす方向が分かる。
どこへ逃げればいいかも分かる。
棍棒が落ちる。
俺は前へ踏み込んだ。
棍棒の内側。
武器の死角へ入る。
巨大な武器は、近すぎる距離では振れない。
オークの体が一瞬止まった。
その隙に横へ抜ける。
棍棒が空を切った。
コメントが一気に増える。
「今の何」
「動き読んでる」
「反応じゃない」
同時視聴者数がまた動いた。
少しずつ増えていく。
オークが振り返る。
怒りの声を上げた。
再び突進してくる。
今度は連続だ。
振り下ろし。
横薙ぎ。
そのまま逆方向の振り戻し。
力任せなのに速い。
だが、変わらない。
俺は避け続ける。
半歩横。
一歩後ろ。
身体をひねる。
しゃがむ。
壁際へ流れる。
棍棒は全部空を切った。
石壁が砕ける。
床が割れる。
通路に破片が散る。
それでも俺には当たらない。
動きが全部見えているからだ。
コメントが高速で流れる。
「全部避けてる」
「新人じゃないだろ」
「おかしい」
コメントの空気が変わっていく。
最初は心配だった。
今は困惑だ。
その違いが、画面を見なくても分かった。
オークがまた踏み込む。
右足が前に出る。
重心が沈む。
次は突き上げる軌道。
俺は半歩だけ後ろに引く。
棍棒の先が顎の前を通り過ぎた。
もし見誤っていたら終わりだった。
だが、恐怖は不思議と薄い。
見えている。
だから避けられる。
それだけだ。
コメントが流れる。
「今の紙一重」
「回避が変態」
オークが咆哮する。
棍棒を頭上に掲げた。
大振りだ。
振り下ろしに全体重を乗せるつもりだろう。
俺は床を見る。
破片の位置。
足場。
逃げる角度。
全部、頭に入れる。
振り下ろしの瞬間に右へ抜ける。
棍棒が落ちた。
俺は横へ滑る。
轟音。
床が砕ける。
石片が飛び散る。
視界が白く曇る。
だが、もうそこに俺はいない。
オークの横を抜けて背後へ回る。
コメントがさらに速くなる。
「今の何だよ」
「新人やばい」
「回避だけで見れる」
同時視聴者数が更に増えていた。
数字そのものは小さい。
だが、反応が変わっている。
見ている人間が、完全に引っかかり始めていた。
俺は小さく息を吐く。
手の震えはもうない。
オークはまだ倒していない。
だが、動きはもう全部見えている。
次に来る攻撃。
その次の動き。
どこに隙ができるか。
どこを通せば終わるか。
もう分かる。
この戦闘は、もう終わっている。
オークが最初に棍棒を振り下ろした時点で。
コメントが流れる。
「まだ倒してないのか」
「いや、逆に怖い」
俺は短剣の柄を握り直す。
視線をオークの喉元へ向けた。
オークが再び唸る。
だが、もう遅い。
俺はオークを見たまま、静かに言う。
「終わりです」
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