4話 新人なのに動きがおかしいと言われた
ゴブリンが突っ込んできた。
錆びたナイフを振り上げている。
距離は一瞬で縮まる。
だが、遅い。
俺は半歩だけ横にずれた。
ナイフが空を切る。
風を裂く音だけが耳元を通り過ぎた。
その瞬間、ゴブリンの体勢が崩れる。
踏み込みが大きすぎる。
重心が前に流れている。
俺は短剣を突き出した。
狙うのは喉だ。
刃が深く入る。
ゴブリンの動きが止まる。
目が見開かれ、そのまま崩れ落ちた。
1体目、終了。
コメントが流れる。
「え?」
「もう1体倒した?」
俺は返事をしない。
次を見る。
2体目が右から回り込んでくる。
3体目は少し遅れている。
順番は変わらない。
最初の一手で決まっている。
2体目は横薙ぎ。
3体目は、その後に突進。
俺は一歩だけ前に出た。
ゴブリンが一瞬止まる。
予想外だったらしい。
だが、もう遅い。
ナイフが横から来る。
俺はしゃがんで避けた。
そのまま足を払う。
ゴブリンが石床に叩きつけられた。
短剣を振り下ろす。
胸。
刃が沈む。
短い悲鳴が響く。
2体目も動かなくなった。
通路に血が広がる。
コメントが一気に流れる。
「は?」
「速くない?」
「新人だよな?」
残りは1体。
ゴブリンは少し距離を取っていた。
仲間の死体を見ている。
警戒しているのが分かる。
だが、逃げない。
足の向きで分かる。
次は一直線。
短い溜めのあと、ナイフを突き出す。
弱点は首。
回避位置は左前。
全部、見えている。
俺は短剣を構えたまま動かない。
コメントが流れる。
「なんで待つ?」
「危なくね?」
ゴブリンが叫んだ。
次の瞬間、飛び込んでくる。
ナイフが真っ直ぐ突き出される。
その瞬間。
俺は半歩だけ前に出た。
刃の内側へ入る。
距離が近すぎて、ゴブリンの腕が止まる。
そのまま手首を押し上げる。
軌道が逸れる。
首元が空く。
短剣を振る。
首。
刃が深く通った。
ゴブリンの目が見開かれる。
そのまま崩れ落ちた。
静かになった。
通路には3体の死体。
血の匂いだけが残る。
俺は短剣を下ろす。
呼吸は乱れていない。
想定通りだった。
最初の動きで、もう終わっていた。
スマホを見る。
配信はまだ続いている。
同時視聴者数。
6。
さっきより増えていた。
コメント欄が一気に流れる。
「いやいやいや」
「動きおかしいだろ」
「今の避け方何?」
俺は少しだけ首を傾げた。
「見えてました」
コメントが一瞬止まる。
空白。
次の瞬間、爆発した。
「は?」
「全部見えてた?」
「それ新人じゃないだろ」
俺は通路の奥を見る。
ダンジョンはまだ続いている。
ここは最適化ダンジョンだ。
正解ルートなら、まだ先へ進める。
さっきの3体は外れルート側から流れてきた。
つまり、この先にも分岐がある。
空気の流れ。
魔力の偏り。
壁の傷。
見れば分かる。
出口に向かう道も、罠の位置も。
俺はスマホを軽く持ち直した。
カメラの角度を整える。
コメントがまだ流れている。
「観察スキル?」
「説明してくれ」
「もう1戦見たい」
俺は少し考える。
説明は苦手だ。
だが、黙っているだけだと変に思われるかもしれない。
俺は短く答えた。
「敵の動きが分かるだけです」
「罠も、少し分かります」
コメントがすぐに返ってくる。
「少しじゃないだろ」
「盛ってないならやばい」
俺は苦笑する。
自分では、それ以外の言い方が思いつかない。
だが、視聴者の反応を見る限り、普通じゃないらしい。
そこは少しだけ実感した。
通路の先から風が流れてくる。
湿った空気だ。
その中に、微かな違和感が混ざっている。
俺は床を見る。
石の色。
継ぎ目の浅さ。
魔力の乱れ。
罠だ。
視聴者に見えるよう、カメラを少し下へ向ける。
そして指を差した。
「ここ、踏むと危ないです」
コメントが流れる。
「え?」
「どこ?」
俺は短く説明する。
「床の色が少し違います。壁の穴と連動してます」
コメント欄がざわつく。
「確かにほんの少しだけ違う気がする」
「マジで見えてるのか」
「こいつ何なんだ」
俺は罠の位置を避けて一歩進む。
何も起きない。
そのまま二歩。
三歩。
安全地帯だけを踏んで抜ける。
背後で小さく風が鳴った。
作動しかけた罠が、空振りした音だ。
コメントが一気に流れる。
「今の何?」
「罠も見えてるじゃん」
「普通にやばい」
俺は小さく息を吐いた。
1人で進むなら、こういう能力がないと死ぬ。
ヴァルキリーにいた時は、それを雑用扱いされた。
だが、今は違う。
見ている人がいる。
この能力を、そのまま見ている。
通路の奥から、また気配がした。
今度はさっきより多い。
足音。
鳴き声。
位置。
全部、もう分かる。
俺は短剣を握り直した。
コメント欄が流れる。
「まだ来るの?」
「続けてくれ」
俺は小さく頷いた。
「続けます」
短く答える。
それだけで、コメントがさらに加速した。
俺は通路の奥へ歩き出す。
ダンジョンはまだ続いている。
配信も、まだ終わらない。
そして――
この配信は、もう普通じゃなかった。
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