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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第3章 再現不能の領域

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38話 読み切れないまま踏み込んだ

矢が通り過ぎた後も、コメント欄の速度は落ちなかった。

むしろ、さっきまでより速い。


新規の驚き。

古参の補足。

少量のアンチ。

全部が混ざって、流れそのものが一つの熱になっている。


同時視聴者数。

11234。


一万を超えてからも、数字はまだ伸びていた。

視聴者が抜けないどころか、増え続けている。


ひなたがスマホを覗き込んで声を上げる。



「まだ増えてます!

さっきより多いです!」



凛は短く言った。



「切り抜きが回った」



コメント欄に、すぐそれを裏付ける文字が流れる。



「今の罠回避、クリップ上がってた」


「D-Shareから来た」


「遅延罠のやつ見て飛んできた」



さらに別方向の反応も混ざる。



「いや盛ってるだろ」


「編集じゃね?」



古参が即座に返す。



「生配信だぞ」


「盛れるなら誰でもやってる」



俺はコメント欄から視線を外す。

言い返す必要はない。


今このダンジョンの中で起きていることが、そのまま答えになる。

それで十分だ。


スマホの上部に通知が出る。

D-Shareトレンド急上昇。

関連クリップ連続投稿。

おすすめ配信継続掲載。


一つずつ確認する時間はない。

だが、外で何かが大きく動き始めていることだけは分かった。


コメント欄がまた流れる。



「探索者界隈で回ってるぞ」


「配信者も見始めてる」



その言葉通りだった。


別の場所。

別の画面。


そこでも、この配信が映っている。




人気探索者の休憩室。

スマホ越しに流れるのは、さっきの三重罠だ。


矢が遅れて来る。

床が沈む。

壁が閉じる。


それを、三人が抜ける。


画面を見ていた男が眉をひそめた。



「……偶然じゃないな」



隣の探索者が言う。



「Cランクって書いてあるぞ」



男は鼻で笑う。



「表記が間違ってるか、評価が遅れてるかだ」



別の配信者も、同じクリップを止めていた。

再生。

停止。

巻き戻し。


何度見ても、答えは変わらない。



「罠を見抜いてる。しかも、発動の後まで読んでる」




同じ頃。

探索者協会の管理室でも、映像は届いていた。


探索者協会幹部の神谷恒一は、端末画面を見つめたまま、無言でクリップを再生する。

三重罠。

変動分岐。

流動迷宮。


そこへ一人の職員が声をかけた。



「またその配信ですか」



神谷は短く答える。



「また、ではない」



一拍置いて続ける。



「これは記録対象だ」



職員が少しだけ目を見開く。

神谷は映像を止める。


止められた画面の中央には、黒崎悠斗がいた。

通路の先を見たまま、次の指示を出す直前の顔だ。


神谷は冷静に言う。



「再現性がある。偶然で通せる領域じゃない」



職員が画面を覗き込む。



「でも、まだCランクですよね。

流動迷宮の探索許可、よく下ろされましたよね」



神谷は首を横に振った。



「ランクは結果だ。能力の評価とは限らない」



その視線が少しだけ鋭くなる。



「むしろ、今まで見落とされていた可能性が高い。

もしかしたら例の迷宮で使えるかもしれん」


「あの空のですか」


「そうだ。

……それで、ルナリア嬢からの通信は?」


「あれきり1度もありません……」



神谷は「そうか」と短く答え、黒崎悠斗の配信画面に目を移した。



「黒崎悠斗。

使い物になるか、確かめさせてもらおう」




同じ頃、ダンジョンの中では、まだ攻略が続いていた。


俺は息を整える。

視界のぶれは、さっきより少し引いた。

だが、消えてはいない。


長く潜れば削られる。

この迷宮はそういう構造だ。


ひなたが俺を見る。



「悠斗さん、大丈夫ですか?」



俺は頷く。



「まだいけます」



凛も短く言う。



「無理なら止める」



その一言に、変な気負いはなかった。

事実だけを並べている。

だから聞きやすい。


コメント欄が流れる。



「ひなた優しい」


「凛のそれ助かる」



同時視聴者数。

11872。

12311。

12704。


一度見に来た人間が、そのまま残っている。

しかも新規も増えている。


ひなたがもう一度、画面を見て声を漏らした。



「え、ちょっと待ってください。

まだ上がるんですか?」



凛は当然のように答える。



「今は珍しいものを見てる状態。しかも、生で」



コメント欄が一気に流れた。



「それな」


「今一番熱い配信これだろ」



通路の先から、また低い音がした。

石壁の奥で、何かが組み替わるような音。


今度は罠だけじゃない。

敵の気配も混ざっている。


一体じゃない。

複数。


しかも配置が、さっきまでとは違う。

分岐の再構成に合わせて、敵まで動いている。


俺は通路の奥を見たまま言う。



「次、来ます」



ひなたが大鎌を握り直す。



「今度は罠だけじゃないですよね?」



「はい」



俺は短く答える。



「敵配置も変わってます」



コメント欄がざわつく。



「そっちも動くのかよ」


「無理ゲーじゃん」



その下で、古参が返す。



「だから見てる」


「この人がどう解くかをな」



俺は小さく息を吐く。

たしかに、その通りだと思った。


今この配信を見ている人間は、戦闘だけを見ているんじゃない。

この迷宮を、どう攻略するかを見ている。


なら、見せるべきものは一つだ。


俺はスマホを持ち直す。

カメラの向こうで、コメントがまた速くなる。


世界が少しずつ、この配信に気づき始めている。

だが、まだ途中だ。


本当に見せるべきものは、この先にある。



「……行きます」

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