26話 最速攻略で急上昇1位になった
ボス部屋の扉が閉じた瞬間、空気が変わった。
重い魔力が肌にまとわりつく。
部屋の中央にいたのは、巨大な鎧兵だった。
人型。
だが生き物ではない。
黒い金属の鎧に包まれ、片手には大剣を握っている。
魔力で動く守護兵。
このダンジョンの主だ。
「うわ……。
これ、思ったより強そうです」
ひなたが息を呑む。
「硬いタイプ」
凛は短く言った。
俺は頷く。
硬い。
だが遅い。
動きも直線的だ。
問題はない。
「右足から崩します」
「了解」
「合わせます!」
守護兵が大剣を持ち上げた。
次の瞬間、轟音と共に振り下ろされる。
床石が砕け、破片が跳ねた。
俺は半歩だけ外す。
重い一撃だった。
まともに受ければ終わる。
だが、見えている攻撃なら当たらない。
振り下ろしの隙へ、凛の雷が走る。
青白い閃光が右膝の装甲を撃ち抜いた。
金属が弾け、守護兵の巨体がわずかに沈む。
「今です」
「いっけぇぇぇ!」
ひなたが大鎌を振り抜いた。
狙いは裂けた膝。
鈍い衝撃音が響き、守護兵の右膝が完全に折れる。
巨体が傾いた。
十分だ。
俺は懐へ滑り込む。
視線は胸部中央だけを見る。
魔力核。
位置はもう読めていた。
短剣を突き込む。
硬い。
だが、通る。
刃先が核を砕いた瞬間、守護兵の動きが止まった。
大剣が手から抜け落ち、巨体が崩れる。
床を揺らす音のあと、部屋に静寂が落ちた。
「終わった」
「早すぎる」
「これ最速だろ」
コメントだけが流れ続ける。
守護兵の体は粒子になって崩れ、部屋の奥では転移用の魔法陣が光り始めていた。
クリアだ。
「勝ったぁ……!」
ひなたが大きく息を吐く。
「来た」
凛が画面を見て目を細めた。
俺もスマホを確認する。
同時視聴者数。
5007。
5388。
5924。
ボスを倒したあとも、数字が止まらない。
「まだ増えるんですか!?」
「最速攻略が確定したから」
コメント欄の流れがさらに速くなる。
「初見です」
「おすすめから来た」
「今一番話題の配信これ?」
昨日まで見なかった名前ばかりだった。
固定視聴者だけの空気じゃない。
外へ広がっている。
魔法陣へ向かう。
足元が光った瞬間、配信アプリの通知が連続で入る。
急上昇ランキング更新。
ダンジョン攻略ランキング更新。
おすすめ配信1位。
一つずつ確認する余裕はない。
それでも十分だった。
「ランキング見ろ」
「やばいことになってる」
「一気に来た」
光が弾け、俺たちは地上へ戻った。
夜風が肺に入る。
ダンジョンの入口前に人影は少ない。
だが、スマホの向こうはまったく静かじゃなかった。
俺はランキング画面を開く。
急上昇配信者ランキング。
1位。
一瞬、意味が入ってこなかった。
見直しても同じだ。
「見たか?」
「1位おめ」
「新人じゃねえ」
「……1位です」
「ええっ!?
すごすぎません!?」
「当然」
凛の一言にコメント欄が笑いで流れる。
さらにスクロールする。
新人配信者ランキング。
3位。
昨日は下の方だった場所に、もういない。
「爆上がり」
「もう3位か」
「今夜で1位ある?」
「ほんとだ……。
上がり方おかしくないですか?」
「ちょっと、速いですね」
「感覚バグってる」
そのやり取りのあと、凛が静かに言った。
「ここから先は、数字だけじゃない」
「どういう意味ですか」
「同じ配信者が見る。
同業が警戒する」
その言葉通り、通知欄には見覚えのない配信者名が増えていた。
引用。
反応。
短い感想。
新人?
動きが綺麗すぎる。
攻略が速い。
好意的なものもある。
探るようなものもある。
視聴者の層が明らかに変わっていた。
一般客だけじゃない。
配信者。
探索者。
同業者。
そういう連中が入り始めている。
「なんか、急に本格的ですね……」
ひなたの声に、俺はフォロワー数へ目をやる。
4桁が見えていた。
昨日まで0だった数字だ。
実感は薄い。
だが、数字は現実だった。
「もう無名じゃない」
「見つかったな」
その言葉は思ったより重い。
追放された探索者。
それが今までの俺だった。
だが、画面の向こうでは別の名前で呼ばれ始めている。
観察の人。
神回避。
最速攻略。
肩書きが少しずつ変わっていくのが分かった。
凛が俺を見る。
「もう戻れない」
短い言葉だった。
だが、それで十分だった。
「始まったな」
「ここからだ」
ひなたが急に笑う。
「じゃあ、もっと伸ばしましょう!」
その明るさに少し救われる。
ランキングも、フォロワーも、同時視聴も、一気に動いた夜だった。
そのとき、スマホがまた震えた。
新しい通知。
企業アカウントからのDM受信。
「何だ?」
「スポンサー?」
俺は通知を見つめる。
まだ開かない。
だが次に来るものは分かる。
数字の次は、金だ。
配信の世界がまた一段階、近づいてくる。
俺は画面を閉じ、2人を見た。
「……帰りましょう」
「そうね」
「はい!」
俺たちはダンジョンの入口から離れる。
夜風は少し冷たい。
それでも気分は悪くなかった。
むしろ、胸の奥は少し熱かった。
配信はもう、生活費のためだけじゃない。
そんな考えが、はっきり形になり始めていた。




