23話 オーガをノーダメージで倒して、配信が完全にバズった
通路の奥で、気配が動いた。
低い唸り声。
重い足音。
ゆっくりと姿を現す。
大きい。
人型に近い。
だが、明らかに人間じゃない。
灰色の皮膚。
筋肉の塊のような上半身。
腕が長い。
指先は太く、爪が鋭い。
オーガ。
ひなたが息を呑む。
「でか……」
凛は短く言った。
「速いタイプ」
俺は頷く。
視線を外さない。
見える。
重心。
呼吸。
力の流れ。
肩の沈み方。
足裏の圧。
全部が読める。
コメントが流れる。
「オーガきた」
「新人ダンジョンでこれ?」
俺は短く言う。
「来ます」
次の瞬間。
オーガが踏み込んだ。
速い。
巨体のくせに速い。
一歩の幅が大きい。
そのまま腕を振り下ろす。
普通なら避けにくい一撃だ。
だが、遅い。
俺は半歩だけずらす。
それで十分だった。
腕が頬の横を通り過ぎる。
風圧だけが肌を打つ。
コメントが流れる。
「え?」
「今の避けるの?」
ひなたが目を見開く。
「当たってない!?」
俺は答えない。
次を見る。
オーガの肩が戻る。
すぐに次の動きに入る。
横薙ぎ。
さらに踏み込み。
そのまま体当たり。
全部、繋がっている。
だが、全部見えている。
一歩。
半歩。
身体を傾ける。
当たらない。
全部外す。
紙一重。
だが、危なげはない。
コメントが一気に流れる。
「全部避けてる」
「神回避」
ひなたの声が漏れる。
「見えてる……」
凛が小さく言う。
「違う」
一拍置いて続ける。
「見えてからじゃない」
「来る前に動いてる」
コメント欄がざわつく。
「予測か」
「反応じゃないのか」
オーガが吠える。
苛立ちが見える。
攻撃速度が上がる。
動きが荒くなる。
だが変わらない。
来る前に分かる。
だから、先にいる。
俺は短く言う。
「次、左から来ます」
凛が即座に動く。
迷いがない。
雷光が走る。
一閃。
オーガの左腕を弾いた。
体勢が崩れる。
俺は続ける。
「そのまま、もう一撃」
凛が頷く。
二撃目。
雷が肩口を打つ。
重心がさらに流れる。
ひなたが前に出る。
「いきます!」
だが、まだ早い。
今入ると危ない。
俺は声を上げる。
「待って!」
ひなたが止まる。
反射的に足を止めた。
その瞬間。
オーガの足が沈む。
反撃。
さっきより速い。
踏み込み。
腕の振り上げ。
全部見えている。
俺は言う。
「今です」
ひなたが踏み込む。
大鎌を振り抜く。
直撃。
胴に入る。
重い音。
オーガが大きくよろめく。
「入った!」
コメントが流れる。
「指示うますぎ」
「連携えぐい」
オーガはまだ倒れない。
むしろ怒りが増した。
両腕を広げる。
範囲攻撃だ。
次は大きい。
避ける範囲も広い。
だが、遅い。
俺は静かに動く。
前へ。
横へ。
下がる。
全部かわす。
ひとつも触れない。
コメントが爆発する。
「何これ」
「ノーダメ継続」
凛が俺を見る。
「あなた」
短く。
だが、真剣な声だった。
「どこまで分かってるの」
俺は少しだけ考える。
正確には言いづらい。
「大体、次の動きまでは」
ひなたが興奮したまま叫ぶ。
「それ十分すごいですから!」
コメントが流れる。
「それがやばい」
「未来視か?」
俺は首を振る。
「見てるわけじゃないです」
「分かるだけです」
オーガがもう一度踏み込む。
今度は一直線。
単純。
だが、重い。
棍棒は持っていない。
その代わり、身体そのものが武器だ。
右腕が来る。
次に左足。
その後、頭突き。
流れが見える。
俺は短く言う。
「凛さん、右腕止めてください」
凛が即答する。
「了解」
雷が走る。
右腕が一瞬止まる。
その隙に、オーガの流れが崩れた。
左足の踏み込みが鈍る。
俺はひなたを見る。
「次、足です」
ひなたが目を輝かせる。
「はい!」
大鎌を振り下ろす。
脚部へ。
直撃。
オーガの体勢が完全に崩れた。
膝が落ちる。
巨体が沈む。
コメントが流れる。
「連携完成してる」
「初見じゃないだろこれ」
俺は一歩前へ出る。
近い。
オーガの呼吸。
首の角度。
喉元。
全部見える。
今なら通る。
オーガが最後に腕を振るう。
大振り。
全力。
だが、それで終わりだ。
俺は半歩だけ前に出る。
外す。
懐に入る。
視界の中心に急所がある。
俺は短剣を突き出す。
深く。
まっすぐ。
喉元へ。
一撃。
オーガの動きが止まる。
巨体が揺れる。
そのまま崩れ落ちた。
ひなたが呟く。
「……終わった」
凛は静かに言う。
「ノーダメ」
コメント欄が止まらない。
「神回」
「バズる」
「見たことない」
俺は息を吐く。
戦闘は終わった。
だが、空気は終わっていない。
むしろここからだ。
スマホを見る。
同時視聴者数。
1023。
1180。
1342。
一気に跳ねている。
コメントの流れも追えない。
ひなたが俺を見る。
「これ、絶対すごいことになってますよ!」
凛も画面を見る。
「もう始まってる」
俺は少しだけ苦笑する。
たしかに、流れが変わった。
ここから先は、ただの配信じゃない。
そう思える数字だった。
コメントが流れる。
「次も見せて」
「もっと行け」
俺は前を見る。
通路の奥。
まだ、終わりじゃない。
気配は続いている。
むしろ、ここからが本番だ。
俺は短剣を握り直す。
「……次、行きます」
凛が頷く。
「任せる」
ひなたが笑う。
「もっと見せましょう!」
俺は一歩踏み出す。
視線は前へ。
流れはもう、止まらない。




