20話 初コラボで連携が完成して、配信がさらに盛り上がった
配信を一度切る。
そのまま続けてもよかったが、空気を整えたかった。
コメントの流れも、一度区切った方がやりやすい。
俺はスマホを持ち直す。
隣には凛とひなたがいる。
さっきまで他人だった距離が、少しだけ近い。
それでも、まだ気は抜けない。
凛はいつも通り無駄がない。
ひなたは大鎌を抱えたまま、今にも飛び出しそうだ。
俺は2人を見る。
「準備、いいですか」
凛は短く頷く。
「問題ない」
ひなたは元気よく手を挙げた。
「いつでも行けます!」
コメントがまだ流れている。
配信は切っているのに、通知欄だけで熱気が分かる。
待機コメント。
再開まだ。
コラボ早く。
昨日までの俺には、縁のない文字ばかりだ。
少しだけ深呼吸する。
それから、配信開始を押した。
画面が立ち上がる。
同時視聴者数。
一瞬で跳ねた。
612。
649。
706。
数が動くたびに、コメント欄も加速する。
「きたああ」
「待ってた」
「コラボ回」
俺は軽く頭を下げる。
「こんばんは」
「コラボ配信です」
ひなたがすぐに乗る。
「よろしくお願いします!」
凛はいつも通り簡潔だった。
「白石凛です」
コメントが爆発する。
「本人だ」
「豪華すぎる」
「神回確定」
俺はスマホを少し下げる。
ダンジョン入口を映す。
湿った石の匂い。
冷たい空気。
新人向けの浅い階層だが、配信としては十分だ。
無理をする必要はない。
今日は勝つことより、見せることが大事だ。
視聴者に、この組み合わせの強さを見せる。
俺は一歩踏み出す。
凛が隣に並ぶ。
ひなたは半歩後ろ。
自然とそうなった。
コメントが流れる。
「配置いいな」
「もうパーティ感ある」
凛が俺を見る。
「フォーメーション、どうする?」
俺は短く答える。
「俺が前を見ます」
「凛さんは反応」
「ひなたは火力で」
凛は即答した。
「了解」
ひなたも勢いよく頷く。
「分かりました!」
コメントが流れる。
「司令塔だ」
「指示うま」
通路を進む。
気配はすぐに見つかった。
前方、3体。
ゴブリン。
位置も距離も分かる。
俺は足を止めずに言う。
「前、3」
凛の目が細くなる。
「任せて」
ひなたが大鎌を構える。
その背後で、ストレージの光がわずかに散った。
重量武器の展開は遅い。
だが、今は間に合っている。
次の瞬間。
ゴブリンが飛び出した。
凛が消える。
いや、速すぎて見えないだけだ。
雷光が走る。
先頭の1体がその場で崩れた。
一拍遅れて、雷音が通路に響く。
コメント欄が跳ねる。
「速すぎ」
「見えない」
ひなたが叫ぶ。
「いっけぇぇ!!」
大鎌が大きく弧を描く。
2体目の胴をまとめて薙ぐ。
勢いが余る。
石壁まで少し削った。
だが威力は十分だ。
2体目が吹き飛ぶ。
残り1体。
俺に来る。
ナイフの角度。
肩の入り方。
全部見える。
半歩だけ動く。
刃を外させる。
そのまま首へ。
一突き。
静かに終わった。
コメントが一気に流れる。
「完成度高い」
「もう噛み合ってる」
「初見じゃないだろ」
ひなたが振り返る。
「今の完璧でしたね!」
凛は短く。
「悪くない」
俺は少しだけ頷く。
確かに、悪くない。
凛の雷は速い。
ひなたの火力は重い。
その間を埋めるように、俺が読む。
役割はもう見え始めていた。
そのまま先へ進む。
通路は狭い。
石壁。
魔灯。
冷たい床。
新人ダンジョンらしく単純な造りだ。
だが、油断する理由にはならない。
その時。
床に違和感が走る。
沈み込み。
石の継ぎ目。
壁穴。
俺はすぐに足を止めた。
「止まって」
2人が同時に止まる。
反応が速い。
コメントが流れる。
「来た」
「また罠か」
凛が前を見る。
「どこ?」
俺は指を差す。
「その一歩先です」
「踏むと来ます」
ひなたが目を丸くする。
「え!?」
「全然分からないんだけど!」
コメントが流れる。
「初心者代表」
「分からんのが普通」
俺は説明する。
「床が少し沈んでます」
「あと、壁の穴です」
凛が視線を動かす。
すぐに理解した。
「矢」
俺は頷く。
「多分、連射です」
「抜ける方が早い」
ひなたが一歩下がる。
大鎌を抱え直したせいで、少し動きが大きい。
そこも含めて計算する必要がある。
俺は床と壁を見た。
矢の角度。
射線。
反応速度。
全部見える。
俺は短く言う。
「俺の合図で走ってください」
「2歩で抜けます」
凛は即答する。
「了解」
ひなたも少し緊張した顔で頷く。
「はい!」
コメント欄が流れる。
「この空気いいな」
「司令塔感ある」
俺は床を見る。
タイミングを測る。
ひなたの大鎌は引っかかりやすい。
だから半歩早く動かしたい。
凛は逆に速すぎる。
そっちは抑える。
頭の中で位置を組む。
問題ない。
俺は口を開く。
「今」
凛が動く。
ひなたも続く。
ほぼ同時。
理想に近い。
次の瞬間、罠が作動する。
壁の穴から矢が飛び出した。
速い。
だが遅い。
凛はすでに抜けている。
ひなたも大鎌を傾けて、ぎりぎりで通した。
矢が後ろを抜ける。
石壁に刺さる音。
コメントが爆発する。
「完璧」
「今のえぐい」
「指示が強い」
ひなたが振り返る。
「うわっ、ほんとに当たってない!」
凛は短く言う。
「問題ない」
俺も罠を抜ける。
矢はかすりもしない。
通路の奥へ進む。
空気が変わった。
さっきまでの雑魚とは違う。
気配が重い。
凛もそれを感じたらしい。
「……少し強い」
俺は頷く。
「そうですね」
ひなたは逆に笑う。
「じゃあ、ちょっと楽しみです!」
コメントが流れる。
「いい性格してる」
「ひなた好き」
俺は短剣を握り直す。
気配は1つ。
まだ姿は見えない。
だが近い。
今日の目的は見せることだ。
その意味では、ちょうどいい相手かもしれない。
俺は2人を見る。
凛は静かに集中している。
ひなたは緊張しているが、目は前を向いていた。
悪くない。
コメント欄はもう速すぎて追えない。
それでも、期待の熱だけは伝わる。
同時視聴者数。
822。
864。
903。
まだ増えている。
俺は通路の暗がりを見る。
その奥で、何かが動いた。
次は少しだけ強い。
だが、問題ない。
俺は小さく息を吐く。
「行きましょう」
3人で、同時に前へ踏み出した。
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