17話 有名配信者が来た瞬間、同接が1500人まで跳ねた
俺はスマホを見つめる。
右上の数字は、まだ4桁のままだった。
同時視聴者数。
1001。
見間違いじゃない。
更新しても、まだそこにある。
コメントが一気に流れる。
「おめでとう」
「1000人きた」
「2日でこれはやばい」
俺は小さく息を吐いた。
正直、まだ実感が薄い。
昨日まで視聴者は10人だった。
それが今日は1000人。
数字としては理解できる。
だが、感覚が追いつかない。
コメント欄がさらに速くなる。
もう1行ずつ読むのが難しい。
おめでとう。
すごい。
新人じゃない。
似た言葉が一気に流れていく。
画面が止まらない。
俺は苦笑する。
「ありがとうございます。
ちょっと、読むのが追いつかないです」
コメントが返ってくる。
「そりゃそう」
「1000人だぞ」
「コメント爆速で草」
俺はスマホを持ち直す。
画面を少しスクロールする。
だが、すぐに新しいコメントで埋まる。
もう追えない。
配信を始めた時は、1人のコメントでもはっきり見えた。
今は違う。
流れそのものが一つの塊みたいだった。
目で追うより、勢いで感じるしかない。
コメント欄に新しい色が混ざる。
メンバー登録済みの色付き表示だ。
まだ人数は少ない。
だが、明らかに古参ぶった口調が増えていた。
「昨日から見てるけど伸びすぎ」
「俺たち古参名乗っていい?」
「観察の人、遠く行くな」
俺は思わず笑う。
「昨日からで古参ならかなり短いですね」
コメントが一気に跳ねる。
「草」
「1日古参」
「でもマジでそう」
通路の奥は静かだ。
新しい気配はない。
それでも、配信の温度は上がり続けていた。
ダンジョンの冷たい空気と、画面の熱量が噛み合わない。
スマホが震える。
通知が重なっている。
D-Shareの共有。
切り抜き再投稿。
新人ランキング更新予告。
一つずつ確認したい。
だが、今はコメントの流れだけで精一杯だった。
同時視聴者数がまた動く。
1001。
1038。
1074。
まだ増える。
コメントもさらに速くなる。
「増えてる」
「1100いくぞ」
「今入った」
俺は少しだけ目を細める。
増える瞬間は分かりやすい。
新規が入ると、同じ質問が一気に増える。
本当に新人?
スキル何?
さっきのボス何?
コメントが流れる。
「本当に初配信?」
「何のスキル?」
「ガルド戦どこで見れる?」
俺は一つずつ拾っていく。
「初配信です。
スキルは観察です。
ガルド戦は多分、もうクリップがあります」
コメントが返ってくる。
「説明助かる」
「律儀すぎる」
「配信向いてる」
配信に向いている。
その言葉に少しだけ引っかかった。
そんなこと、考えたこともなかった。
生活費のために始めただけだ。
それなのに。
今は1000人以上が見ている。
しかも、次も見ると言ってくれる。
不思議な感覚だった。
コメント欄の勢いがさらに変わる。
今度は笑いが多い。
俺が真面目に答えるたびに、なぜかコメントが増える。
空気の作り方が分からない。
だが、視聴者は勝手に盛り上がっていた。
「真面目で草」
「この落ち着き好き」
「新人なのにベテラン感」
俺は少し考えてから答える。
「緊張はしてます。
多分、顔に出てないだけです」
コメント欄がまた跳ねた。
「それが強い」
「メンタルどうなってんだ」
「ボス戦の後でそれはやばい」
俺は小さく息を吐く。
本当に緊張はしている。
ただ、戦っている間は他のことが消える。
終わった後にまとめて来る。
今も少しだけ、指先が熱い。
短剣を握りすぎたせいだろう。
俺はベンチ代わりの石段に腰を下ろす。
その動きだけで、コメント欄がまた反応した。
「座った」
「休め」
「今日はもう十分やった」
その中に、少し違う流れが混ざる。
新規同士の会話だ。
「この人、凛が触れてた新人?」
「そう」
「観察スキルのやつ」
視聴者同士が勝手に説明を始めている。
配信が俺の手から少し離れていく感じがした。
俺が話さなくても、情報が回る。
コメント欄そのものが、一つのコミュニティみたいになっていた。
同時視聴者数。
1112。
もう完全に、昨日とは別の配信だ。
コメントの速度も、勢いも、期待の重さも違う。
コメントが流れる。
「次どこ行く?」
「明日もやる?」
「配信頻度高いと助かる」
俺は少しだけ考える。
疲れてはいる。
だが、止めたくない気持ちもあった。
今この瞬間を逃したくない。
ただ、勢いだけで無茶はしたくない。
配信は続ける。
そのためにも、今日は引くべきだ。
俺はスマホを見る。
「今日はここまでにします」
「次もちゃんとやります」
コメント欄が一気に流れた。
「了解」
「待ってる」
「絶対来るわ」
その中に、少しだけ強い言葉も混ざる。
「もう固定視聴者ついてる」
「この新人、伸びる」
「コメント欄の勢いが違う」
固定視聴者。
その言葉は少し重かった。
嬉しい。
だが、それだけ責任もある。
次がつまらなければ離れる。
次で失敗すれば、今日の熱も冷める。
配信の怖さが少しだけ見えた。
バズるのは速い。
だから、落ちるのも速い。
たぶんそういう世界だ。
俺はコメント欄を見つめる。
速い。
読めない。
止まらない。
だが、その全部が今の俺に向いている。
不思議な高揚感があった。
D-Shareの通知がまた鳴る。
コメント急増中。
おすすめ配信継続掲載。
短い通知だ。
だが、意味は大きい。
俺は小さく笑う。
昨日はダンジョンで死ぬかもしれないと思っていた。
今日はコメントが速すぎて読めない。
人生は、本当に分からない。
同時視聴者数が最後にもう一度動く。
1112。
1148。
まだ増える。
配信を切る直前なのに。
コメント欄が流れる。
「まだ増えてるぞ」
「終わるな伸びてる」
「でも次も待つ」
俺はスマホを少しだけ持ち上げる。
「ありがとうございます。
次はもっと面白くします」
コメント欄が一気に跳ねた。
「宣言きた」
「期待する」
「追うわ」
俺は深く息を吐く。
そして、配信終了のボタンに指を置いた。
初配信の時は、何も分からず押した。
今は違う。
見ている人がいる。
待っている人がいる。
その実感を持ったまま、俺はボタンを押した。
画面が暗くなる。
静寂が戻る。
だが、頭の中にはまだコメントの流れが残っていた。
俺はスマホを胸元で握る。
視聴者1000人。
コメント爆増。
固定がつき始めた空気。
配信は、もうただの手段じゃない。
そう感じ始めていた。
――その直後、D-Shareの通知が鳴った。
白石凛。
その名前が表示された瞬間、
同時視聴者数が一気に跳ねた。
1148。
1320。
1580。
コメントが爆発する。
「凛が来た」
「見に来てるぞ」
「これガチでバズる」
俺は画面を見たまま、息を止める。
通知が開かれる。
「明日、確認しに行くから」




